第8話 適材適所(アキカゼ・ハヤテ)
「で、テイムモンスターが強力すぎてモンスターの死体はおろか、鉱石すら採掘できなかったと?」
「そうなります」
「いやさぁ、僕も無茶振りした覚えはあるけど、もっと鳴らし運転で小さい奴から召喚するとかできなかったの?」
ぐぅ。反論出来ぬままに私は頷くほかなかった。
正直、一番ふざけた名前のテイムモンスターが、一番ふざけた巨体を持っていたのだ。
召喚しただけで周囲の環境が一変。
九本の首がそこら中にブレスを吐いて回り、過ぎ去った後には魚の死体とぺんぺん草一本生えない荒地が広がっていた。
その中でなんとか研究に使えそうなものを持ち帰ったのだが……とても冷たい視線を向けられていた。
「大塚君、君がついていながらなぜこうなる? 君、この場所には詳しいのだろう?」
「それについては僕から一言」
「何かな?」
ここで大塚君が反論に出る。
私はルリーエと寄り添って、叱責の声がかかるのを震えて待った。
「僕がこの人に空を飛ぶことを封じたのです」
「確か〝呪い〟だったか?」
「ええ。下降する分には降りかからないが、大穴から帰ろうとする、上昇する者を引き止めるような呪いがかかる。彼女、ルリーエがそうなった原因の一端である以上、僕やアキカゼさんが同じ呪いにかかるのは最善ではない。そう思って特技の一つを封印させたのです」
「その結果がそれと?」
テーブルのお上に置かれているのは巨大魚の焼けこげた目玉と骨。肉は全て捕食されてしまった。
私は明後日の方を向いて口笛を吹き、ルリーエは顔を両手で覆った。
「あいにくと、ここは我々の世界でも未知なる領域。一般的な知識とモンスターの脅威度。これらはまだまだ調査が必要となる。しかし今回のアキカゼさんの戦力は、非常に魅力的です」
「だが、僕の求めるモンスターの死体回収には向いてないことが判明した」
「まだ一回、失敗しただけです」
「そうだね。僕とて別に責めてるわけではない。ただ、最初からその調子で本当に呪いを解く気があるのか? と疑問視してしまう」
「その件については、実際にどのような部位を持ってくるかも把握してませんでしたので」
「お互いに情報を秘匿していては話が進まないと?」
「そうなります」
大塚君に助け舟を出しつつ、錬金術師のリコ君の機嫌をとる。
「いや、そうだな。僕もそれを明記しなかったのも悪い。でもね、実際のところは使わないとわからないというのが事実だ。何せこの場所は僕の暮らしていた世界とは理屈が異なる」
「つまりこれと言った部位ではなく、無傷であればあるほどいいと?」
「かいつまんで言ってしまえばそうだ。僕も万能ではないからね。あとはうちの相棒は半分モンスターなので、モンスターの肉を捕食することで生存する。それの餌も兼ねていた」
「つまり、我々の持ち帰ったアイテムは……」
「素材にもご飯にもならないねぇ」
「なるほど、次はせめてご飯になる物でも持ち帰りましょうか」
「いやいや、お連れさんの解呪が最優先でしょ?」
「そうでしたそうでした」
てへっと笑い後頭部をぺちっと叩く。
『ごめんなさぁい、僕の為に頑張ってくれてるのに』
「と、いうわけでもう一回行ってきます」
「あの、本当に大丈夫なんですか?」
不安そうな大塚君の背中を叩き、次こそはうまくいくさと根拠のない自信で秋生君の背を叩いた。
「で、これを持ち帰ったと?」
テーブルの上には黒焦げになった鉱石と、ウェルダンにしては随分と火の入りすぎた炭化一歩手前の肉が置かれている。
「一応善戦したんですが、なかなかおとなしくならないもので、少しきつめにブレス履いてもらってようやく……あのバトルを見て貰えば、如何に健闘したかはお分かりいただけると思うのですが」
「あのさぁ」
リコ君はすっかりやる気をなくしたように椅子の背もたれに全体重をかけた。
不機嫌であることを隠しもせず、頬杖をついて不貞腐れる。
「どうやら僕はとんだ人選ミスをしてしまったようだ」
「お手数をおかけしてすいません。記憶が万全なら、こんなお手間をかけさせずとも良かったのですが」
「そういえば記憶喪失だったね。あの劇薬ならもう一本あるけど飲む?」
「もう少し詳しい記憶を思い出したいところですね」
受け取ってそのままぐいっといき、私は深い眠りについた。
そして再び目を覚ますと。
今度はレムリアの器と呼ばれる銃火器の利用方法を思い出す。なるほど、これならば可能だろう。
どうしてこんな便利なアイテムを忘れていたんだろう。
そして腰に巻きついた違和感。
悍ましいベルトと共に、三回目の採掘が始まった。
「フハハハハ! 掘れる! 掘れるぞぉ!」
高所に向けて銃を構えて照射。
理屈はわからないけど、ビームの先に採掘のスキルを乗せて発射し、なぜか手元に採掘結果を持ち帰る超便利機能が備わっている。
そして攻撃面でも、レムリアの器は大活躍した。
「大塚君、上空のアレを叩き落とす。対ショック耐性!」
「とっくに対ショック」
『チェストーー!』
テイムモンスターの召喚はこのアビスでは過剰戦力と判断して、レムリアの器と通常武器での討伐に切り替える。
大塚君の武装は身の丈ほどもある大楯と、腕に装着されたワイヤー。近接武器は単分子カッター。
一見して空中戦が得意なのかと思いきや、全ては降格する際の装備だと言った。
大きな盾は衝撃を吸収して放出することができるそうだ。
ルリーエの構える槍から雷が迸る。
バシィーンと体に電撃が流れ、動きが遅くなったところを大塚君がサーモグラフで一番熱量のある場所を叩き切る。
溢れ出る血流は、大体の場合人体には毒だが、アビスダイバー専用装備は毒を遮断する仕掛けがあるようだった。
「討伐完了。お疲れ様です」
「今回は認めてもらえるといいんだけど」
「問題はこれをどうやって持ち運ぶかですね」
血抜きが済んで横たわったモンスターを狙うように上空では大型の鳥が旋回していた。
「このまま置いていくと上のモンスターに根こそぎ食い尽くされそうだ」
「アビスは弱肉強食の世界ですから」
「なら、こうすれば少しは時間が稼げるかな?」
私はレムリアの器を上空に翳し、カメラのフラッシュを焚くイメージで照射する。
パシャ。
なぜかモンスター達は魂を抜き取られたようにその場で停止し、地上へ落下する。
「何事です?!」
「いや、光を浴びせて目眩しをしようと思ったんだけど」
「死んでます」
「……えぇ」
大塚君がモンスターに駆け寄って、脈を測ればすでに息絶えていることを通達してくれた。
あれ? もしかしてこのカメラってレムリアの器よりヤバい兵器だったの?
嘘でしょ。
結構景色を写したり、人物を映してたりしてたのに。
アレェ?
『ハヤテさぁん。これ、僕のポケットに入れられそうです。入れてもいいですか?』
「え、うん」
ポケットに入る。どこの?
今のルリーエは服を着ていない。
そして出会った頃からそんな能力が扱えた試しはない。
『あ、さっき呪いが一時的に緩和されたときにですね、思い出したんです』
「私と一緒か」
『そんな感じです』
ルリーエは腮を広げると、大きな鳥の足をむんずと掴んでその場所に引き摺り込む。
どういう理屈で入り込んでるか理解は追いつかない。
「あの、そんな場所に入れて苦しくないですか?」
大塚君も思わずツッコミを入れるほどだ。
『意外と大丈夫みたいです』
「へぇ。便利ですね」
『はい! まだまだ入りそうなので、もう何匹か入れちゃいますね!』
「お願いします」
そうして帰った先では、家の前を塞ぐほどのモンスターのしたいと大量の宝箱で溢れかえっていた。
「遅いぜ、アキカゼさん」
「お疲れー! 手ぶらで帰宅ですか?」
「いや、私達は便利な袋があるからね。君たちは随分と大量に仕留めてきたみたいだが」
「なるほど、マジックバッグ持ちか」
「多分?」
ゾロゾロと揃って拠点に帰る。
「おかえりみんな。随分と大活躍したようじゃないか。後輩が大はしゃぎしてたよ? 今日はご馳走だって」
「え? モンスターの死体は錬金術の素材になるって話じゃ?」
「兼、後輩のおやつだね」
「おやつ!」
「それとアキカゼさん。今度はバッチリって顔してる」
「鉱石の方はこんな感じです。お肉の方は、ここは狭いので外で渡します」
「了解。この中で解体ができる人はー……」
リコ君の呼びかけに、私を含んだ全員がそっぽを向いた。
戦うのは得意だが、それ以外は不得手だと心得ているようだ。この中だと、唯一料理ができるのもリコ君な気がするが気のせいか?
「居ないな。OK、ならば僕がやるとしよう。後輩、手伝ってくれ」
『はぁい』
リコ君はリモ君を連れて外に出る。
大物の解体は翌日までかかった。
私達はまだ少ない方だから良かったものの、飯句&磯貝チームは限度を知らない量を持ってきたので恨み言を言われてた。
やっぱり物事には限度があるよね。
私達はほどほどで良かったよ。
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