第5話_飯句頼忠(俺だけ宝箱で殴るダンジョン生活)
「なるほど、君たちは差し詰め救助隊というところかな?」
猫耳の可憐な君に説明をしてると、章が恨めしげな視線を向けてくる。
悪いな、お前とは気が合うが、この場面においては俺の方に権利がある。
所詮お前はさっきそこで会ったばかりのエルフに過ぎないということだ。
「ええ、まさかこんなところに入り込んでいる民間人がいるとは思いませんでしたが、俺がきたからにはもう安心です」
「なるほど、そちらの事情は把握した。しかし、僕たちは別に迷子というわけでもないんだ」
「あれ、そうだったんだ。じゃあ、こんなモンスターが跋扈する場所で何をやってたんですか?」
「そうだねぇ、ちょっとばかり素材採取などを。ついついハマってしまってね、さぁ帰ろうかとここで準備をしてる時に、彼らと出会った」
そう言って、振り返り珍妙な組み合わせを紹介してくれた。
「お初にお目にかかる。私はアキカゼハヤテ。しがない考古学者だよ。この子はルリーエ。この場所に迷い込んだ時、この魚の姿に変貌してしまってね。この場所に詳しい彼、大塚秋生くんがいうには、この場所のノリが関係してるのではないかと説明を受けていたんだ」
『ルリーエです、よろしくお願いします』
うおっ、直接頭の中に声が!
見た目は化け物だが、声はすっごい可愛い感じでギャップがひどい。
攻撃しなくてよかったぜ。
しかしここに要石さんがいてくれたんなら『洗浄』でなんとかできたかもしれないが、今は教会で修行中だからな。
「大塚です。僕はアビスダイバーの一員です。あなたのような一般市民が散歩するような格好で歩くにはここは危険な場所ですよ。今すぐにこの防護服を纏ってください」
見た目的は同年代か少し下。大塚と名乗った少年は生真面目そうに俺の服装を一瞥した。
「俺はそのアビスなんとかってのは知らないけど、こう見えてSランク探索者なんだよね。世界で二人目のさ。だからお前の基準を当てはめないでくれないか?」
「それは失礼しました。しかし僕の知ってる世界では、Sランクなんてたくさんいますよ?」
それはおかしな話だ。
「ちなみに俺はCランクの商人だ。アイテムバッグ持ちだから食い物もあるぜ?」
ここで章が抜け駆けしてくる。クソがよぉ。
「おお、見た目によらず頼りになるなぁ。後輩、お金ある?」
『奪えば全部ぅ!』
「冗談でもそういうこと言わないの。たまこんにゃくとかある? ちょっと一杯やるのに切らしててさ」
「あー、そういうのは買いに行けばあるかな? 5分待って。スーパーで買ってくる」
「スーパーあるの?」
「俺は転移持ちだからな。でも帰れるのは俺の世界だけで、それぞれの元の世界には帰れないぜ?」
何? そうなのか。
日本人だからみんな同じ世界の人間じゃないのか?
そういえば大塚の言い分が俺の発言と食い違う展についてこいつは何も言わなかった。
きっと初めからわかってたんだろうな。
違う世界から集められた人物であることが。
通りで話が食い違うと思ったぜ。
あれ、じゃあちょっと待て。
これってもしかして俺は元の世界に帰れないことになってる?
急いで携帯で蓬莱さんに電話を入れるが……
『ツー……ツー…ツー』
だめだ、繋がらん!
やべぇな。いつの間にか配信も途切れてるし、俺も普通に迷子じゃんかこれ!
「何やら慌ててるけどどうしたの? 救助隊の人」
『きっと自分の法が迷子であることに気がついたんですよ』
「いや、そんなわけないだろう。だってあんなに自信満々だったんだぞ?」
ッスゥー。
滝のような冷や汗を察せられないようにしながら、俺は火石に灰色の脳細胞を駆使した。
「ああ、いや別にそういうわけじゃないんだが、ここで引き返すのは体面わるくてさ。何か成果を一つでも持ち帰らないとなーって。一応人類の守護者的にさ」
「なるほど。そういえば大塚くんがここでオリハルコンが採掘可能だと言ってたよ? それでも持ち帰ってみる?」
「オリハルコンかー」
「成果としては微妙?」
「ああ、いや。何かした宝箱のドロップを期待しててさ。あと鍵」
「ふむ? まるで君の世界ではモンスターを倒せば宝箱がドロップするのが普通みたいだね?」
「まぁ、幸運のステータスが関係してますがね。俺の幸運は2万を超えてるから、確定でドロップしますよ」
「それは面白い見解だ。君のバトル、興味が湧いてきちゃった」
「お、じゃああとでバトル見せますよ?」
よっしゃ、約束取り付けたぞ!
「ただいまー、たまこんにゃくお待ち!」
「さて、全員が揃ったことだし、腹ごしらえと行こうか。みんなはお酒飲める?」
「俺の世界じゃ15で成人なんで飲めますね」
猫耳の君の質問に、章はいの一番に挙手した。
くそ、俺はまだ17だ。成人まで程遠い。
「私も強くはありませんがいただきましょう」
「僕も飲めます」
続いてアキカゼさん、秋生までが挙手する。
この中でただ一人、俺だけが手を挙げてない。
「おや、頼忠くんは飲めいないかい?」
ここで引き下がっては男じゃない。
「飲めラァ!」
果たしてこの選択が正しいのか間違っていたのか、そういう問題は明日の俺に任せることにした。
◆
ひどい二日酔いで目覚める。
あれ? ピョン吉たちがいない?
どこいった?
他のみんなはその場でぐったりしていて、起きているのは俺と猫耳の君だけだ。
後輩と呼ばれた女性も、姿を見かけなかった。
「やぁ君。随分と強運だね。他のみんなはおねんねしてるというのに」
「あの、強運とは?」
「実はさっきのお酒、お酒じゃないんだ」
「なんでそんなことをしたんですか?」
距離を置き、身構える。
「ああ、そんなに身構えなくていいよ。これはただの余興さ。僕の実験に付き合ってもらっただけだね。みんな平気そうな顔してるけど、色々疲労が蓄積してる。それをね、綺麗さっぱり取り払うための手段を用いたのさ。ただし副作用として強制的に眠りにつく」
「もう少し穏便な手段もあったんじゃないですか?」
「あっただろうけど、今日顔を突き合わせただけなのに、そこまで信じられる君も大概お人好しだよね」
くつくつと、少女は肩を揺らして笑う。無邪気に、禍々しく。
そこで実感する、この人は見た目通りの年齢ではないと。
「あなたは何者ですか?」
「僕はリコ。聖夜リコ。しがない錬金術師さ。そして、深淵を除く者でもある。僕の世界は神の乱入によって滅び、今はお星様の上で暮らしている。だというのに、ここで出会う人はみんな地球人だ。おかしいと思わない?」
「確かに、おかしなことばかりです。でもだからって、手を差し伸べる相手の手を振り解かなくたって」
「ふむ。これは僕なりの配慮のつもりだったんだけど、君はそう受け取るか」
『先輩、やっぱりこの人は愚かな人類の枠組みからは逸脱できそうもなさそうです』
「やはりか」
「俺たちを進化させようとしてるんですか? それこそ余計なお世話ですよ」
「いや、別にそういうつもりもないんだけど」
質問をのらりくらりと交わされて、まるで要領がつかめない。
彼女は一体なんの目的でここに入り込んだのか?
そして人類を下にみるもう一人の女性。
「そういえば、ここにいた俺のペット知りませんか?」
「いや、僕は存じ上げないな」
『うさちゃんたちですか?』
「そう、6匹のウサギで」
『でしたら、先輩のお薬を飲んだと同時に煙に煙と化していましたよ』
なんだって?
「あのうさぎ、君の体にかかる呪いの類を肩代わりしてくれたのかもね」
「確かに即死効果を肩代わりしてくれる効果を持ちますけど」
「だから言ったじゃん、君は運がいいねって」
『先輩の覚醒ポーション、普通に劇物ですもんね』
「えー、そうかなぁ? でもこんな場所まで降りてくる奴らなら耐えられると思うじゃん?」
本当になんでもなさそうに、俺の前で雑談が繰り広げられる。
頭がおかしくなりそうだ。
目の前の二人が、まるで俺の知ってる人間とは遠い存在のように思えて……
『うぅ……頭が、痛いです』
「お、君が二番目だよルリーエくん。今の気分はどうだい?」
『頭は重いんですけど、体は軽く……えっ!?』
相変わらず頭の中に直接響く声だが、先ほどまでとはまるで違う見目をしていた。
そう、そこにいたのは絶世の美少女だった。
アニメのようなエメラルドグリーンの髪に、同色の瞳。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
『え、あの? はい』
気づけば俺は動き出して手を差し伸べていた。
どこか恥ずかしそうにもじもじしてる彼女を引き上げて、介抱する。
「大丈夫ですよ、彼女、リコさんがあなたの呪いを解いてくれたんです」
そう言って俺は、鏡面仕立ての盾を持ち出して彼女に手渡した。
『僕、元に戻ってます!』
やはり、呪い!
俺は先ほどまで疑っていたリコさんを秒で許し、詳しい話を聞くことにした。
あんまり難しい話はわからん!
そういうのは他の人がやってくれんでしょ。
章と秋生が起き上がるまで、俺はルリーエさんをいっぱい口説いた。
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