第4話_磯貝章(お持ち帰り召喚士磯貝)
「ここは、どこだ?」
ポチの散歩中、俺たちは見知らぬ場所へと迷い込んでいた。
やはりあの時、ポチの『時間移動』を気軽に使うべきではなかった。
観光施設など一切ない場所への転移。
どう考えても人類が到達してないような魔境である。
これはビジネスにおいてもあまり得ではない。
「それはさておき、ただ帰るのもつまらないよな」
どうせなら、観光地として使えないなら使えないなりの言い訳が欲しい。
強いモンスターが出るのなら、それはそれで需要につながるのだ。
俺が持つ転移先には等しく蛮族と言っても差し支えない戦闘民族の住む場所がある。その名は異世界ストリーム。
その場所は戦闘民族の修行の場所としてそれなりの人気があった。
観光に向かないなら向かないなりに、付加価値をつければいい。これが俺のやり方だ。
まぁ、需要なんて探せば案外あるものだ。
俺はそれを探すことをこの場と目的とする。
「ちょいと威力調査をしていきましょうかね。ポチ、行くぞ」
「ワォン(承知!)」
犬とは思えないほどの丸い毛玉からは想像以上に渋いボイスが放たれる。
実はこのポチ、ただの犬ではない。
いや、もう見た目から犬らしさは毛ほども感じないが、これでも犬の名を冠している。
そう、ティンダロスの猟犬と。
俺はこいつに主人と認められてから、時間転移を可能としていた。
なんでか俺をイ=スの民と勘違いしてるんだよな。
全く分からん。俺はただの高校生兼社長だぞ?
ちょっとエルフの役割を押し付けられて寿命が伸びに伸びて、転移のスキルが使えるだけの小市民だ。
だからこいつの望みは叶えられそうもないが、俺は便利に使ってる。Win-Winの関係である。
事情は深く突っ込んだら負け。OK?
「出てこい、コボルド」
「ワンワン!」
異世界ジャキンガルで契約した妖精コボルド。
犬顔のあいつではなく、鷲鼻に緑色の肌をした小人だ。
なぜか犬の鳴き声で機嫌を取ろうとしてくるが、もう騙されたりしないぞ。
その見た目からはゴブリンを彷彿とさせるが、あいつも一応妖精の類と聞かされて納得できない俺がいる。
こいつの役割は主に毒の感知。
召喚しておけば勝手に毒を認識して逃げ出すので、放っておくだけでそれなりに価値がある。
ちなみにそれ以外は本当に何もしない、ハズレの妖精である。
「毒は特にないかな? あとはモンスターだが」
「ギシャァアアアアア!!」
おあつらえなのが出てきた。
異世界アトランザに出てくるワームにそっくりな体格をしてるが、どう見ても見た目はナメクジである。非常にキショイ。
やはりここは魔法でいくか。
前方に手を翳し、呪文を唱える。
「グランドダッシャー」
指向性を持ったエネルギーが地中から噴出しながらモンスターの足元に炸裂する。
俺が持ってる唯一の攻撃手段だが、どうも効果は薄いようだ。やはり属性相性の問題だろうか?
生憎と俺の属性は土オンリー。
他の魔法は使えないのだ。
対象が大きく膨れ上がる。
ブレスでも吐くのだろうか?
身構えていると、コボルドがダッシュでその場から逃げ出した。猛毒の類か。
面倒だな。俺はカウンター転移の対象に目の前のモンスターを書き加えた。
ブレスのタイミングで敵意ありと認識されたそいつは、無事異世界ストリームへと飛ばされた。
「これでヨシっと。あとは現地の人がなんとかしてくれるっしょ」
俺のスキル『転移』から派生したカウンター転移は非常に曖昧に対象を選ぶ。
敵意ありで選択すると、周囲から人が存在しなくなるので、こうやって細かい設定を科すことにしているのだ。
転移先も細かく決められるので、別に異世界に送り込まなくてもいいのだが、あんなのを近くに置いておきたくないという理由で異世界に飛んでもらった。俺は悪くない。
威力調査はどうするのかって?
良いんだよ、最初っからいなかった事にしておけば。
俺のカウンター転移の範囲は馬鹿でかいからな。
まちひとつを飲み込んで、荒くれ者達を国外追放にした実績を持つんだぜ?
なぜか街から住民がいなくなったのは笑った。
治安が悪いなんてもんじゃないだろ。
このように、俺はいろんな異世界でそれなりの経験をこなしてきているのだ。
この場所を新たな転移場所にするかどうかは、俺次第って感じだな。
しばらく歩いてると、違うタイプのモンスターを相手取る、やたらウサギに囲まれた同年代くらいの高校生と出会った。
びっくりする事に、その高校生は音速の域に達する突き技を全て近距離で回避しながら宝箱で殴りつける変なやつだった。
「おーい、手伝おうか?」
「必要、なーい!」
声かけしてもこんな感じ。
どう考えたって物量差で負けてるのに、負けん気だけは強いのだ。
助けは不要というし、一度家に帰ってテーブルと椅子、茶菓子を持ち込んで観戦に務める。
相手が負ける気がないのなら、横殴りは失礼に値するからな。
だいたい戦闘が終了するまでに30分が経過した。
「お前ぇええ! 確かに助けはいらないっつったが、端っこで普通にくつろぐ奴がいるか? 気になってしょうがないだろ!」
「悪い」
全く悪気なく頭を掻く。
「まったく。本当ならこう、第一村人発見に驚くところだが、今はそうだな……エルフが案外話のわかる人物でよかった」
「なるほど。ちなみに俺は日本人でエルフじゃないぞ」
「なに?」
「かくかくしかじかで異世界に呼び出されてな。そこで何かの果実を食ったらそうなった」
「いや、まったく分からん」
そりゃそうだろう。普通に説明を省いてかくかくしかじかしか言ってないからな。
ただ、同年代なのもあって普通に話していて話しやすそうだったのが救いか。
適当でも許してくれそうなゆるさがある。
「改めて、磯貝章だ」
「マジで日本人の名前じゃん。アルフォンスとかそういう名前期待してたのに」
「言ってるじゃんよ、日本人だって。ちなみに18歳だ」
「じゃあ一個上かな? 俺は飯句頼忠。こう見えてSランク探索者なんだぜ? 周りのうさぎは霊獣って言うんだけど知ってる?」
「いや、生憎と俺のペットはこいつとあいつだから」
一匹はリードにつなげたティンダロスの猟犬こと、ポチ。
もう一匹はどう見てもゴブリンの妖精コボルド。
「ちっちゃいゴブリンだ!」
「こいつは俺の妖精でな。毒とかの検知に役立つ」
「ゴブリンじゃないんだ。へぇ」
「妖精の中にはゴブリンもいるが、ハズレ枠らしい」
「そいつは?」
「下から二番目。こいつと契約した時、周囲から哀れみの視線を投げかけられたのを覚えてる」
「なんつーか、どんまい」
その口調に悪気はなかった。
なんだったら自分の方がもっと酷い目にあってきたと、なぜか不幸自慢が始まるほどだ。
その中のエピソードの一つが特にひどくて、ほんの少し同情する。
「いや、慎とはもう決着ついてるから。今じゃ普通に親友だぜ?」
「心が広いんだな?」
「まぁな、俺もあいつの心情を汲み取ってやれなかったってのもあるんだよ」
「色々あるんだな」
「そーそー」
頼忠という、あまりに時代錯誤な名前に、もしかして過去にタイムスリップしてしまったんじゃないかと思ったが、普通にスマホを扱う現代人らしい。
こいつとはさっき会ったばかりなのに気心の知れた友人のような関係を保て、なんだったら俺より扱える攻撃のレパートリーが多かった。
武器は宝箱。
最初は武器が潰えてそれで攻撃してるのかと思ってたが、どうにも専用武器のようで、効果は千差万別。
殴った対象に宝箱のトラップを受信の幸運判定で引き上げて攻撃に転じてるようだ。
説明されてもさっぱり意味がわからない感じ、こいつの能力は俺と似ていた。
実際に『カウンター転移』の説明をした時も「詳しく」を繰り返した挙句、降参したのを覚えている。
自分でもよくわかってないものを武器にしてるという自転で【なんか強いから使ってる】同盟が結束されたのは、きっと精神が似通ってたからなんだろうなぁ。
しばらく歩いてると、謎の建造物が現れる。
どう見ても人工物のようで、モンスターが棲みつくには入り口が狭い。まるで俺たちくらいの体格の生物が存在することを匂わせていた」
「見るからに怪しいな」
「俺行こうか?」
「いや、ここは回避能力に自信のある俺が先行する。章は俺をいつでも安全なところに転移できるように後方に待機しててくれ」
頼忠はこういう時に頼もしい。
俺のスペックは同級生より低いからな。
幸運22,000がどのような数値かは俺の知ってるステータスからは想像できないが、モンスターの大群の攻撃を捌き切る実力は見てきた。
だから全てを任せて見送ったんだが、普通に開いた扉は、さらに猫耳
一匹例外が混ざっていたが、俺の視界からはオフにしておいた。なんのことはない。目の錯覚だろう。
「なんだ、お前ら」
「俺の名前は飯句頼忠。あなたを助けにきた
あの野郎、抜け駆けしやがった!
俺は急いでその場まで急行し、頼忠を殴りつけて「ウチの連れがすみませんね」と謝り倒す。
そのついでに二人して中に入り込んだ。
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