第2話_槍込聖(錬金先輩のバズレシピ)

「ふぅん、迷子かぁ。それで僕たちの家の前をうろちょろしてたと?」

『先輩、こいつら強盗かもしれませんよ。処す? 処す?』


ファイティングポーズをしながらシュッシュとシャドウボクシングよろしく触腕を伸ばす後輩。

僕はやめなさいとハリセンでスパンと彼女の頭を叩いた。

ご丁寧にダメージを受けたと言わんばかりにたんこぶ型の出っ張りを作り出す。全くこの子は……


アキカゼ・ハヤテ。それに大塚秋生。

前者は知らない。誰それって感じだけど、後者はもちろん知っている。


しかし解せないのは僕が知ってる彼よりも随分と成長が遅い点だ。

今頃20代じゃないっけ? 彼。

ハーレムを築いて順風満帆な人生を送ってるはずだろうに、なんで幼い上にぼっちなんだ?

全くわからん!


考えられるのはここが僕の知ってる世界線じゃないってことだ。


今回も『大発見です! 先輩!』と後輩から唐突に誘われて、やってきた大穴。


そこは僕が知るよりも未知の世界になっていて、さらには帰るための道も途絶えているとの事。


毎度毎度お騒がせの後輩よろしく、僕も手を焼いている。


そこへ都合よく現れた二人と一匹。

押し付けるのにはちょうどいいと考える。


「まぁ、袖擦り合うも多少の縁という言葉もあるだろう。ここは一つお互いの目的を出し合おうじゃないか」

「そうしていただければありがたいです。私、そしてこの子は時空を彷徨う関係。この魔導書と出会って以降、あちこち飛んではいますが、一定した世界のどこかでした」

「その魔導書貸して」

「どうぞ」


借りた。パラパラと読み進める。

どうも僕たちの知る種族の近隣種ではないようだ。

しかしその姿は深海種と酷似してる。


「うちの知り合いに似たような系統の子がいるんだけど、話通してみようか?」

「良いんですか? よかったなぁ、ルリーエ」

「はい」


何やら喜んでいる様子。

しかしなんだ、奇妙な組み合わせだと思うが、まるで少女に接するかのような態度。人の趣味にツッコミ入れたくないが、本人が幸せならいいと思うよ?


『先輩、先輩』

「なに?」

『あの子、肉体変質前は美少女のようですよ。素体データと肉体データが一致しません。まるで人間の肉体を持ってたかのようなチグハグさを持ってます』

「ふむ」


つまり? 今の状態は正常ではないと言うことか。

ならばここは僕も猫ちゃんフォームを取らなければいけないと言うことか。なるほど。


僕は薬を一気に飲み干し、すぐに一匹の白猫へと変貌した。

フハハハハ、どうだ、かわいかろう?

撫でさせてやってもいいんだぞ?


あ、うそ。その魚のかぎ爪はごめ……ぎゃーーー!!


あわや僕のふわふわの毛が一瞬でズタズタに!

脳内で後輩が戦闘モードになってきてるし、遊びはここまでにしよう。


と言う事で、彼女に猫ちゃんになれる秘薬をプレゼントした。

しかし魚から猫耳が生えるだけと言う珍妙な姿にしかならなかった。解せぬ。


『どうですか? ハヤテさん』

「帽子を貸してあげるよ」

『わぁ、ありがとうございます』


なぜかコミュニケーションはバッチリという感じ。

つまり僕の采配もバッチリということだな。ヨシッ!


見兼ねた後輩がにゅぅんと伸びて、人型になる。

ここからは人型の方がコミュニケーションを取れると思ったのだろう。


『初めまして、皆様方』

「言葉が、頭に直接!」

『わっわっ、不思議な感じです。ハヤテさん』

「私が不思議と慣れてるね」

『私はリモ。こちらのリコ先輩と一緒にこの空間に迷い込みました。脱出手段を探してる時、皆様とお会いした形です』

「これはご丁寧にどうも。私はアキカゼ・ハヤテ。考古学者です。彼女、ルリーエはとある遺跡で発見した封印されていた少女。どう言うわけかここでは魚の格好になってしまい、今は元に戻すための手段を模索しています」


なるほど、謎の生命体は人間ではなく、怪物の一種か。

人形は擬態で、うまいこと餌を確保した形かな?

しかしここでは本来の化け物の姿が晒されてしまったと言うことか。


それでも恋は盲目、餌はすっかり捕食者を信頼してしまっている。あざとい感じがするもんね。そこはご本人たちが同意してるんだろうし、僕たちが何か言うことはないか。


「僕は大塚秋生。このダンジョン『アビス』のオリハルコン発掘隊のメンバーです。メンバーとはこの階層に差し掛かるところで離れ離れになってしまって。そこで先ほどアキカゼさんに助けてもらいました。Aランク探索者でモンスターライダーのメンバーでもあります」


ふむ。知らない単語のオンパレードだ。

僕の開発したベルトシステムと似たようなものかな?


「取り敢えず、自分たちの得意分野を語り合っていこう。僕は錬金術師。物質変化と融合、合成で金属から全く別の物体に変化させることを生業としているよ」

『私は見ての通りスライム生命体です。その上でダンジョンのコアの性質を持っていますが、どうもこの世界では私の力は応用出来ないみたいです』

「私は……この魔導書を用いての簡単な魔法と、少々のロッククライミング。撮影を得意としてます。高所で足がすくむと言うこともないので、偵察などは得意です」

『ぼ、僕は泳ぎが得意です。あと、槍術と水魔法が使えます!』


だろうね。その姿で泳ぎが下手だったらなんで? って思うもん。これはこっちが本体まであるな。

可憐な少女が泳げるのはまだいいとして、槍術と水魔法は……ダンジョンがある世界なら不思議ではないか。

まぁ、保留。


「僕は先ほど述べましたようにモンスターライダーの資格者です。スーツを着用して、こうやって全く違う姿に変身できます」


うん、僕の知ってる変身システムだ

違う点があるとすれば、気持ちダサいところ。

右足、左足、右腕、左腕用にそれぞれ宝石が組み込まれてて、そこにモンスターがドロップする魔石を差し込んでいる。


ただ、解せない点があるとすれば僕の考えたシステムより革新的だったことだ。


「その変身セット、かっこいいね。開発者はなんて言う人?」

「やはりご存じありませんでしたか。槍込聖博士ですよ」


僕じゃん。

やっぱりね、そうだと思ったよ!

秋生がいる時点で僕もいると思ってた。


「その方は結婚なさってる?」

「奥様のヒカリさんですか?」


それを聞いて後輩がニヤニヤしてた。

なるほど、この世界線の僕は真っ当に結婚してると。

それを聞けただけでかい。


「これが博士の顔です。同性ですが惚れ惚れするくらいのイケメンで……」


尋ねてもないのに写真を見せてくる。

どれどれと覗けば、唾を吐きかけたくなるほどのイケメンがいた。誰だお前ーー!


これが僕? ウッソだろおい!

骨格からして別人じゃんか!

僕の身長は150cmから伸びなかったのに何したらこんなにスラッとするわけ?

まさかこっちの後輩は僕が身長伸ばしても許可してくれる優しさの塊なのか?

まさかな(断言)

後輩に限ってそんな天女みたいなわけ(確信)


『私は今の先輩が一番ですよ?』

「ありがとね」


後輩が優しい。もうずっとその優しさのままでいて。


取り敢えず適当に後輩がボディを切りはしたマイホームに三人を誘ってお茶を飲む事にした。

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