第14話 牢の中で

「……ん。」

 

 目が覚める。

 ここ三年、全く同じ天井を見ながら目が覚めている。

 

「隊長!朝です!点呼ですよ!」

「分かってる。」

 

 俺は部下と共にアメリカ軍に捕まり、投獄された。

 逃げ延びた部下も居るようだが、ここにいる間その辺りの情報は全く入っていない。

 新聞なんかで世界情勢は入ってくるが、その程度だ。

 

「まぁ、俺達は点呼に出る必要は無いんだがな。」

「いや、でも出ましょうよ。さすがに。」

 

 同室には俺の部隊のナンバースリーとも言える部下、スミスの右腕とも言える優秀な奴がいる。

 若干ウザく感じている。

 

「マイク。俺は寝る。」

「隊長ぉ〜。起きましょー。」

 

 少し軽いのが勿体無いが優秀であることに変わりはない。

 

「俺達は優遇されてるからな。」

 

 アメリカはあのAIを使いこなせてはいない。

 その為、唯一それを使いこなしていた俺達は優遇されている。

 情報を引き出す為だ。

 勿論、誰一人として口を開くものは居ない。

 それも当たり前だろう。

 皆が慕っていたスミスが、柏木が。

 苦楽を共にした戦友が殺されたのだ。

 口を開きたい者が居るはずが無い。

 

「隊長。朝食です。」

「おう。置いとけ。」

 

 マイクがトレーを置く。

 ここでは点呼と同時に朝食が配られる。

 

「……ん?」

 

 トレーを受け取ると、いつもと様子が違う事に気が付く。

 パンの置いてある皿がいつもと違う。

 皿の下を見る。

 すると、小さな紙が置いてある。

 マイクに静かにするように指示する。

 この部屋には盗聴器が仕掛けられている。

 ほんの少しでも情報を聞き出す為だ。

 

「……パンいるか?」

「ちゃんと食べて下さい。」

 

 他愛の無い会話を続けつつ小さく折りたたまれた紙を開く。

 そこには『準備良し』と書かれていた。

 それをマイクに見せる。


「……いいから食え。俺は寝る。」

「隊長……。」


 ベッドに横たわり、目を閉じる。

 いよいよこの時が来た。

 三年前の柏木の最後の依頼を果たせる時が来た。

 三年前の事を思い出す。



 

「私の作ったAIを破壊して下さい。」

 

 そう最後に言われた。

 

「今更なんですがあのAI、アイという名前なんです。」

「お前の妹と同じ名前か。」

 

 止血を続けるが血は止まらない。

 

「やっぱり……日本にお詳しいんですね。」

「……まぁな。」

 

 ほんの少しだが、日本については知っている。

 

「だが、どうやって勝つ。奴等に使われたら勝てんぞ。」

「……弱点が……あります。」

 

 段々と喋るのも辛そうになってきている。

 

「あれは……人の感情に疎いです……。第二次大戦の日本軍のデータを読み込ませたら……大抵エラーが……。」

「あぁ。それで?」

 

 傷口を押えつつ、話を聞く。

 せめて、最後まで聞いてやろう。

 

「特に大戦末期の……行動が……。」

「しっかりしろ!絶対にお前の依頼は果たして見せる!教えてくれ!」

 

 すると、柏木は少し笑った。

 

「……なんだかんだ言って、優しい……ですよね……。」

「……。」

 

 段々と柏木の力が抜けていく事を感じる。

 

「どうか……アイを……。」

「柏木……。」

 

 その言葉を最後に柏木は息を引き取った。

 あれから三年、俺は柏木のヒントをずっと考えていた。

 そこで、一つの答えにたどり着いた。

 それがあっていれば勝てる。

 柏木の最後の依頼を完璧に果たして見せる。

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