第11話危機

「待て!今は……。」

「待ちません!はぐらかされてずっと先延ばしにされてきたんてすから!今日こそはちゃんと話をさせてもらいます!」

 

 どうやら柏木はかなり怒っているようである。

 まぁ、仕方のない事だが今はまずい。

 非常にまずいのだ。

 

「どうした?何やら騒がしいようだが。」

「ちっ!」

 

 背後の扉が開く。

 今回訪れた査察団はアメリカ、それもCIAの近くに本部を置くという。

 つまり、CIAと密接に関われる組織なのだ。

 

「あなたは……。」

「あ、えと、柏木恋といいます。」

 

 査察団の主、ティムは柏木の顔を見て暫く考えた後、ニヤけた。

 

「なるほど……。それがお前達が急変した理由か。」

「何だと?」

 

 その口ぶりや様子から柏木の事をしっているようだ。

 

「いや、柏木恋殿。初めまして。私は民間軍事会社査察団のティムと申します。よろしくお願いします。」

「ど、どうも……。」

 

 二人は握手を交わす。

 

「さて、あなた程の研究者が何故こんなところに?」

「あ、えと……私の研究に協力してもらうため……。」

 

 そこまで聞き、実験の話が出ると確信した。

 

「待て!柏木!」

「え?」

 

 すると、ティムはニヤけた顔を隠さず柏木に近寄る。

 腹黒い。

 握った手を離さず、逃げられないようにしている。

 柏木も怯えている。

 

「は、離して下さい!」

「柏木を離せ!」

「何をそんなに慌ててる?私は査察団だぞ?ここにいる人間を調査して何が悪い?」

 

 気が付けばティムと共に入ってきた者達が銃を構えていた。

 銃口はスミスにも向いている。

 俺は腰の銃を抜け無かった。

 

「く……。」

「分かれば良い。さて、実験について聞かせてもらおうか?」

「カイルさん……。」

 

 柏木が助けを求める顔でこちらを見る。

 柏木もこいつらがアメリカ人であること、そして俺の行動からCIAと繋がりがある可能性のある組織だと気づいたようだ。

 

「……好きにしろ。」

「懸命だな。」

 

 査察団はティムの指示の元、銃を下ろした。

 こいつらは査察を拒もうと反発した民間軍事会社を制圧するため、それが可能な戦力を持ってきている。

 今回も例外ではない。

 

「……これです。」

 

 パソコンを開き、ティムに見せる。

 柏木は渋々AIの説明を始めた。

 

「……ほう。これでこいつらは勝てたのか。で、完成しているのか?」

「……はい。」

 

 俺はスミスに目線を送る。

 スミスはこちらの視線に気付くとケータイを気付かれないように操作し始めた。

 

「そうかそうか。やはり、柏木の姉妹は天才だな。」

「え?」

 

 ティムはAIの入ったUSBを抜くと、懐にしまった。

 

「ちょ、何するんですか!返して下さい!」

「……まな殿と宜しくやってくれ。」

「……え?」

 

 二発、三発と銃声が鳴り響く。

 それと同時にティムに掴みかかった柏木がその場に崩れ落ちる。

 ティムの手には拳銃が握られている。

 

「貴様!」

「カイル!伏せろ!」

 

 スミスの声で伏せる。

 すると、部屋に銃弾が撃ち込まれる。

 

「何っ!?」

 

 ティムの連れてきた兵は殆どが撃たれ、死亡する。

 こういうときのために緊急の作戦を作っていたのだ。

 スミスがそれを指示した。

 生き残った数名はティムを護衛し、その場を後にする。

 

「くそっ!逃がすな!追え!カイル!柏木は任せた!」

「あぁ!」

 

 柏木はまだ息はある。

 腹部を押さえる。

 重症だ。

 ここでは治療は不可能だろう。

 あいつは柏木姉妹のことを知っていた。

 やはり、CIAが絡んでいたのか。

 油断した。

 あいつから託された柏木を救えず、世界を危険に晒すかもしれない。

 最悪の状況である。

 だが、今は柏木を救わなければ。

 絶対に死なせてはならない。

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