第10話 仲間の為

「カイル。エンジントラブルだそうだ。」

「……そうか。」

 

 あれから数日後。

 俺達は新たな実験のため、新しい依頼をこなしていた。

 が、予めの打ち合わせ通りトラブルが多発している。

 柏木の実験の成功を阻止するためだ。

 

「第二砲班。全員腹痛。奴等は昨日宴会していたらしいです。」

「……そうか。」

 

 先程からスミスや無選手からトラブルの報告が殺到している。

 因みに第二砲班の腹痛は知らん。

 後で説教だな。

 

「カイルさん。実験は……。」

「これじゃあ厳しいな。」

 

 前線も支援砲撃がまともに出来ていないので、崩壊し始めている。

 先程からAIのモニターには最適解の指示が表示されているが、そのどれも行えていないのでエラーが発生していた。

 概ね想定通りだ。

 

「撤退するか。おい、第二砲班の回収をしろ。編成はスミスに任せる。」

「分かった。」  

 

 踵を返し、その場を後にしようとするスミスの前に柏木が立ちはだかる。

 

「まだ撤退は早いですよ。」

「何だと?」

 

 スミスと柏木の間に割って入る。

 すると柏木はパソコンを弄り始める。

 

「何をしているんだ?」

「……この数日、私も研究を更に進めていました。あの大砲って方位と射角を入力したら自動でそこにいきますよね?」


 確かに柏木の言う通りだ。

 

「それがどうかしたか?」

「勝手ながら火砲の方を少しいじらせてもらいました。」

 

 柏木がパソコンを操作する。

 

『た、隊長!』

「とうした!?」

『火砲が勝手に!』

 

 まさか、そういうことなのか。

 柏木に視線を合わせる。

 

「火砲が自動で情報を共有するようにして自動で砲を座標に合わせるようにしました。これで、全員で前線が張れますよね。」

「……。」

 

 確かにそれなら可能だ。

 だが、ついに人がいらなくなってしまった。

 まぁ、厳密には陣地変換に人がいるだけだが。

 銃を引き抜き、柏木へ向ける。

 そして、安全装置を外した。

 

「今、お前は依頼者という枠を超えて俺達に命令している。いや、もはや強制されている。流石に俺達を舐め過ぎじゃないか?調子に乗りすぎだ。今すぐ解除しろ。」

「ま、またおもちゃですか?そんな手には…、。」

 

 俺は銃を上に向ける。

 そして、引き金を引いた。

 天幕を突き抜け銃弾が空を舞う。

 

「今度はおもちゃじゃないぞ。」

「う……。」

 

 銃口を再度向ける。

 流石に萎縮している。

 

「なんでですか……。」

「ん?」

「私のAIを使えば勝てるんですよ!勝ちたいと思わないんですか!?」

 

 柏木は涙を流しながら叫ぶ。

 よほど怖かったのか、それとも裏切られたとでも思ったのか。

 どちらにせよこうなったらあいつが黙っていない。

 

「柏木さん!ジョークだよ!ジョーク!だからほら、泣かないでくれ!」

「はぁ……、スミス……。」

 

 こいつは女の涙に弱い。

 柏木は内面は案外子供なのかもしれないな。

 俺は銃をしまう。

 

「まぁいい。今回はスミスの好きなようにしろ。」

「あぁ。ありがとうカイル。上手いことやるから心配するな。」

 

 こいつが上手いことやると言ったら大体上手いこと行く。

 信用して俺は見守っておこう。

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