第9話 懸念点
「スミス。」
「カイルか。どうした?」
パーティーが終わり、解散した後スミスの元を訪れた。
スミスは酒が入っているというのに、仕事をしていた。
俺は例の実験の懸念点について話しておきたかったのだ。
「少し相談したいことがあってな。」
「お前が俺に?珍しいな。」
パーティーで余った酒を差し出す。
ああ見えてこいつは酒には強い。
酔っているように見えたが、実は殆ど酔っておらず、雰囲気で楽しんでいただけなのだ。
「例の実験、どう思う?」
「……カイルも感じてたか。」
どうやらスミスも懸念を覚えていたらしい。
こいつとはもう長い付き合いだ。
こいつのことは良く知っている。
「あの実験は危険だ。もし独裁者の手に渡ればその国は絶対に負けることが無い。至る所で侵略が繰り広げられ、世界は一つの国に支配されることになる。」
「あぁ。それに機械が発達していることも含めて、いよいよ俺達の居場所が無くなる。この時代、多くの兵器が無人化されているからな。それに多くの傭兵は軍縮に伴って職を失った奴らだ。あのAIが普及すれば多くの傭兵はテロに手を染めるかもしれない。」
正直、柏木が作ったあれは世界を変え得る程の価値がある。
「……カイル。これ以上戦績を上げれば査察が入るかもしれない。」
「そうなれば、あのAIは世に出てしまうな。」
傭兵査察。
世界中に分布した民間軍事会社を管理するため、国連の組織として傭兵査察機関が設立された。
テロやクーデターを警戒してのことだ。
よって、全ての民間軍事会社は管理、監視されている。
戦績、資金等からその民間軍事会社が保有できる戦力を定められており、急に戦績が良くなったりした場合は不正を疑われ、査察が入る場合がある。
今回、それが入るかもしれない。
もしそうなれば柏木のAIが世界に露見し、最悪の場合……。
考えたくもない。
「最悪の場合、世界は戦争に覆われるぞ。」
「最終的に平和になっても、それではな。」
容赦無くスミスが口を開く。
二人で暫く黙り込み、考える。
「また新しい依頼が来ている。先日の勝利で評判が良くなったらしい。」
「……スミス、旨い酒が暫く飲めなくても大丈夫か?」
スミスは顔を合わせること無く頷く。
「問題無い。慣れてるさ。」
「……お前ならそう言うと思っていた。」
今度の依頼、失敗するのだ。
そうすれば柏木の実験に不備があったことになる。
柏木はまた研究をし直す事になるだろう。
「あまり夜ふかしするなよ。」
「あぁ。言われなくても。」
そのまま部屋を後にする。
あいつは一度仕事を始めたら中々終わらないのだ。
だが、次の日も顔色一つ変えること無く仕事をこなす。
普段はふざけているが、本当に優秀なやつなのだ。
俺は俺の親友でもあり副官でもあるこいつと掛け替えのない仲間達さえ守れればそれで良い。
世界平和は二の次だ。
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