【削除されました】 〈中〉
頭ん中がぐるぐるして、ちっともねむれない。
保健室のベッドの上で、ずうっと考えている。
台本が配られたのは一週間前。まりちゃんに「あたし、主人公やりたいんだ」って話をした。そのときは、ちえりちゃんとはお話ししていない。ちえりちゃんもその時にはもう主人公やりたいって思ってたかもしれない。
不思議なのは、お兄ちゃんだ。お兄ちゃんが、いつ今回の劇の内容がわかって、どこでちえりちゃんも「主人公をやりたい」のかを知って、どうしてちえりちゃんに「ゆずってほしい」だなんて言ったのか。
台本をもらったその日。家に帰ってから、ママに「学芸会の台本もらったの!」って、台本を渡した。
ママは本を読むのが好きで、前の学芸会のときはママから「どんな劇なのか気になるわ」って言われて、台本を貸したの。だから、今回も気になっちゃうだろうなって思って、渡した。
台本を受け取ったママは「ありがとう。あとで読んでおくね」って、リビングのテーブルの上に台本を置いた、ところまでは知ってる。あたしが部屋に入って、宿題をして、ママから「夕飯、できたわよ」って呼ばれて出てきた時には、台本はテーブルの上になかった。
その日に学校で起こったことは、その日のうちにお話しするようにしている。ママとの約束でもある。ママはテストで点数が低くても、かけっこが遅くても、怒らない。
ただ、ゆきちゃんとケンカしたときだけは「一二三も悪いわ」って言われた。ママに話したら「あたしも言いすぎちゃったな」って気付いて、次の日にゆきちゃんに謝ろうとした。
ゆきちゃんは次の日、学校に来なかった。その次の日も来なくて、どうしたんだろう、って思って先生に聞いたら、おうちのジジョーで転校したってことだった。ずいぶん急な話だから、先生もびっくりしてたらしい。
夕飯を食べながらママとお兄ちゃんに「今度の学芸会は絶対に主人公をやりたいんだ」って話した。パパはお仕事でいそがしいから、帰ってくるのはあたしが寝ちゃってからになる。学校が休みの日でもパパは休みの日じゃないから、ママとお兄ちゃんとあたしの三人で食べることが多い。パパがいる時は、お兄ちゃんはいっつもどっかに出かけてる。
このことをまりちゃんに話したら「お兄さんがパパみたいね」って言われた。他のおうちは、パパもいっしょにごはんを食べるんだって。まりちゃんからそう言われたの、ってママに言ったら、ママはちょっとヘンな顔をしてから「いろんなおうちがあるの」と返された。
今のパパと前のパパ、どっちが好きかっていえば今のパパのほうが好き。前のパパはママをいじめていたから。今のパパは、最初こわかったけど、あたしが「これほしい!」ってほしいものを見せると買ってくれるから好き。
次の日の朝には台本が返ってきてた。ママに「どうだった? 面白そう?」って聞いたら「うん。主人公、なれるといいわね」だって。なんて言われちゃたら、絶対やるしかないじゃん。あたしはママのこと、大好き。ママも、あたしのこと大好きだと思う。絶対にそう。
「参宮さん、具合はどうかしら?」
しゃーっとカーテンが開いて、保健室の先生が様子を見にきた。どうもこうも、まだお兄ちゃんがなぜ、の部分にたどり着けていない。
「さっきおうちの人と連絡ついたの。お兄さんが迎えにきてくれるそうよ」
向こうから来るみたい。
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