第十一話 本当の僕

僕は泣きながらベッドに行った。

すぐにでもカナエに会いたかったのだ。

なんであの時、何でいなくなったのか

その真実すらわかってしまったからこそ

僕はまたあの部屋に行った。


眠ると暗闇の中だった。

やっとだった。

僕が真実を知らなかったからこそ

この部屋は受け入れてくれなかったんだと

そう感じた。

暗闇から光が差し込む

そして僕はカナエがいる部屋に入る事ができた。


カナエは僕が来る事をわかっていたように

座って待っていた。

カナエは隣に座ってと手でポンポンと

隣を叩いた。


僕は座ろうとしたがその前に色々と失ったものとその時の恐怖心がまだ残っていた。


そのまま泣き崩れる。


「カナエ……ごめん

僕はわかってなかった。

自分の事をちゃんとわかっていなかった。

僕は……僕は……カナエみたいに女の子になれなかった。

怖かった……

男の人が怖かったんだ。誠が怖かったんだ

僕は女の子になりたかった気持ちはあった

けど好きにはなれなかった。

ずっと好きだと思っていたのに

いざ愛されると思ったら怖くて怖くて

だから小学生のあの時も誠にキスされそうになった時にカナエは助けてくれた。

僕が怖がってどうしょうもできない時に

そんな大事な事も忘れてまた繰り返してしまった!!

どうしょう……全部、大事なもの失っちゃった。全部!失っちゃった!!

汚れちゃった……」

僕はその場で大声で自分の過ちを大きく

悔やみながら泣いていた。


そんな僕を見ながらカナエは僕に近づき

優しく抱き寄せてくれた。

久々に彼女の体温を感じた。

その安心感に僕はまた甘えて

その場で声が枯れるまで泣いた。

自分の罪を声で消すように


泣きじゃくる僕にカナエは

優しく声をかけてくれた。


「僕は知っていたんだ。こうなるって……

望は女の子になれないって

でも望が望んだ事だから僕は答えてあげた。

どんなに辛い結末になってもそれは望がしたい事でやりたい事だから

僕にはそれの後押ししかできない。

また否定したら自分が自分でいられなくなって空っぽになってしまう。

それは僕も自身も知っていたからね……

でも真実を知って受け入れなきゃ

いけない日が来る。

それが今日だったんだよ」


僕はカナエに強く抱きつき

また泣いた。


声はもう出なかった。

でもやるせない気持ちと

自分自身を許せない気持ちと

認めると全ての自分を否定してしまう矛盾に僕は泣く事しかできなかった。

泣いて……泣いて……泣いて……

気持ちだけがぶつける事もできず

空回りしていた。


何も解決できずその場で立ち尽くす事と

悔やむ事しかできなかった。

もうそれしか僕には選択肢がなかったのだ。


立ち尽くす中、カナエは下を向く僕の顔を

両手でおさえて上を向くように上げた。

カナエの顔が見えた。


白い肌にきらびやかな瞳

本当に彼女は綺麗だった。

そんな彼女に僕は憧れていた。

憧れていたからこそ僕が作り出したのだ。


そしてそんな彼女は僕に答えた。


キスをして……


暖かった。

その温もりは紛れもない愛だったのだ

何度も唇を重ねる。

そのたびに幸せを感じれた。

虚無感ではなく

ちゃんと愛を感じれたのだ。

お互いの唾液が交わる。

そのたびに興奮を覚えた。


そしてカナエは僕に言う

「わかる?

ドキドキするでしょ?

好きだからこそ興奮するんだよ

気持ちいいんだよ。

…………幸せなんだよ。

だからこれが君の初めてだ。

君は初めて僕とちゃんと

愛し合ってキスをした。

これが本物だよ」


そのまままた唇を重ねる。


僕は涙を流しながら幸せを噛み締めた。

これが初めてなんだと

好きな人からされるキスは違うのだと


僕はただ愛される人が欲しかった

その愛される人になるには女の子になるしかないと思っていた。

それは叶恵が憧れで近くにいたからこそだった。

だから女の子になるために色々とやった。

可愛い服も着てみた。ぬいぐるみも好きになった。

全部、自分の渇いた心を埋めるために

歪んだ、歪みきった愛を埋めるために

でもそんな事は必要なかったんだ。


僕はカナエが好きだ。


やっと自分自身をわかることができた。

空っぽじゃないと

僕の心はちゃんと満たされる人がいると

その日、僕はちゃんと愛を知る事ができた。

僕は僕が好きなんだと……


12月24日

クリスマスイブ


僕とカナエはその日に一緒になる事にした。

歪んだ愛を満たすために

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