第十話 偽物の愛
誠はその帰り何も言わないまま
僕が泣いているところを強く
身体を抱いてそばにいてくれた。
少し落ち着いた後
僕は誠にカナエと会えなくなった事を
話した。
「何でかわからないけどカナエと会えなくなったんだ……あの日、ちゃんと普通の日常に戻ってからやっと全部、上手く行ったと思っていたら取り戻せた分、大事なものを失ったんだ……」
僕は下を俯きながら話した。
その事に誠は
「そうか……辛かったな」
そのまま僕の頭を撫でてくれた。
帰っていく中、僕の家が近くなった。
僕はそのまま誠に
「今日、家に帰りたくないんだ……
あそこに帰るとまた僕は一人
また孤独に襲われてすごく寂しいんだ」
そんな僕をみて誠は少し一呼吸おき
「じゃあ俺ん家でも行くか?
明日は土日で休みだし
部活も大会が終わって休みだ。
お前が帰りたくないなら
今日ずっと一緒にいてもいいぞ」
と言ってくれた。
僕は振り向き、誠の顔を見ながら頷き
そしてそのまま誠の家に泊まりに行った。
誠とのお泊まりは久々だった。
小学生以来かなと思う。
僕はあまり食欲もなかったので
先にシャワーだけを借りて誠の部屋で
座って部屋の中を眺めていた。
誠は野球をしていたので
たくさんの野球の大会での賞状やメダル
目標なんかも書いてあったり
本当に努力家だと感じていた。
誠がご飯を食べ
シャワーを浴びて帰ってきた。
「ふぅ〜少しは落ち着いたか?」
誠は部屋に入りながら僕に声をかけた。
その声に応えるように振り向き
「少しだけ落ち着いたよと」
答えて振り返ったら
誠は上半身は黒のタンクトップに下は下着のままだった。
男同士ならそれが普通だろうと思うが
僕はその姿をあまり見れず
すぐに目を逸らした。
タンクトップから出る筋肉質の白い腕
鍛え上げられた下半身
僕は目を当てれなかった。
目線を逸らしたまま僕は誠と会話した。
「誠はすごいね!久々に来たけど
またメダルとか賞状が増えていて……
しかもプロになるって書いてある目標とか
本当にすごく尊敬できるよ」
誠は少し照れながら
「そんなにジロジロと見るなよ
恥ずかしいだろ、まあ目標は大事だからな
自分の道を見失わないようにするために」
誠の言葉を聞いて僕はやっぱりすごいなと
思った。
そして誠はそのまま僕を後ろから抱いた。
あまりにもまたとっさの事に僕は戸惑った。
白い筋肉質の腕が僕の身体を強く抱きしめる
暖かい体温とほんのり香るボディソープの香りが僕をまた赤面させた。
「ねぇ?誠どうしたの?お風呂入りすぎた?
のぼせちゃったんじゃないの?」
誠は僕を抱いたまま答える。
「そんな事ねぇよ
俺はさ、目標も大事だけどそれ以上にお前の事も大事なんだ。
ずっとこの前からさ
お前がまた遠くを見つめ始めて
また、悩み始めてるって気づいたよ
頼るって約束したのにそれも忘れて
どんどんまたお前が悲しい顔していて
俺も辛かったんだよ。
せっかく約束したのにお前は俺をまた頼ってくれないんじゃないかって」
僕はそのまま
「ごめん……」
と謝った。
誠はまた僕を強く抱きしめる。
「お前がいなくなるのが怖いんだ。
また離れるんじゃないかって
ずっと一緒にいたいんだ……
なあ望、俺もお前に話したい事があって
今日、誘ったんだ。」
その答えに僕は戸惑いを隠せなかった。
少し沈黙が続く
その中で誠は話、続けた。
「本当は怖くて俺も言えなかったんだ
お前に嫌われそうで
望、俺さ……
お前のこと好きなんだ」
あまりにもいきなりの告白に
僕の思考は追いつけていなかった。
誠が僕のことを好き
そんな事、全然、考えてもいなかった。
僕はその告白に対して
「そうか……ありがとう教えてくれて」
それしか答えれなかった。
そのまま僕は誠と一緒に
とりあえずゲームをする事にした。
あまりにも突然の事に僕は戸惑いながらも
誠と一緒に過ごした。
寂しさを埋めるように……
そしてその夜、僕は誠と一緒のベッドで寝る事にした。
どこに目線を向けばいいかわからなかった。
どうやって誠の気持ちに答えればいいか
そんな事を考えている中
誠は僕を見ながら話した。
「なあ望、ぎゅーってしていいか?」
僕はそのまま手を誠の身体に向けた。
誠は僕の身体を求めていたかのように
強く抱きしめた。
彼の吐息が耳元にあたる。
体温もお互いに高くなっていた。
そのまま耳元で誠は話す。
「ずっとお前とこうしていたかったんだ。
おかしな話だろ?
俺もわかんないんだ。
お前のことさ、なんかすごく可愛く見えて
俺も男に興味持つなんて疲れてんだろって思って少し距離を置いていたんだ。
けどお前が急に学校に来なくなって
そしたらさ自分の事のように心配になって……
いてもたってもいられなくなってさ
お前が部屋から出てくれた時に確信したんだ
俺、お前のこと、すげー好きなんだなって」
僕はすごく嬉しかった。
少しでも誠の気持ちに答えてあげたいと感じた。
「誠、ごめんね
僕は今、誠の気持ちには正直、どう答えていいかわからないんだ。
カナエが好きなのか、誠が好きなのか
僕自身、どっちなのかよくわかっていないんだ……でもね
誠は僕の事をなんども助けてくれた。
何回も悩みも聞いてくれて答えてくれた。
本当に大切な人だと思っている
だからこそ恩返しはすごくしたいと
思っているんだ……
ねぇ?誠……本当に僕の事、好き?」
誠は僕の耳元で
「大好きだよ」
と言ってくれた。
なぜかわからないが僕はニヤニヤが止まらなかった。その状況を楽しんでいた。
まるであの子のように
そのまま誠の耳元で話す。
「僕と〜どんな事したい?
誠のしたい事、今日だけしてあげる♡」
僕は気づいたらカナエのモノマネをしていた。
誠はそれに答えた。
「メイド服、着てほしい
学園祭で使ったやつがあるんだ。
可愛い女の子になったお前を見たい。
そしてそのまま昔みたいに
またずっと可愛いお前ずっと抱きたい」
と言ってくれた。
僕は誠が言ってくれた要望に応えるように
メイド服に着替えた。
「ねぇ〜後ろのリボン、結べないから
結んでくれる?」
僕は誘うように話し、誠はそのまま後ろのリボンを結んでくれた。
誠の方を可愛く振り向き
「どう?可愛い?」
満面の笑みで聞いてみた。
そしたらさ案の定だった。
誠は僕に抱きつきそのまま顔をみた。
そして僕のあごを少し上げて
そのままキスをした。
唇と唇が重なる。
生暖かさを感じた僕のファーストキスは
誠になった。
嬉しかった……嬉しかったはずなのに
僕に虚無感が走った。
そのまま誠は話す。
「これでお前とキスしたの2回目だな
ずっとあの日からしたかったんだ。
俺さ、あの日、お前にキスしてから
すごく可愛く見えてさどんどん忘れられなくてずっと好きだったけど言えなかったんだ
お前とこうやってまた一緒に入れて嬉しいよ」
僕はその言葉を聞いて現実に戻った。
なんでカナエが誠にだけ言ってもいい事を知っていたのか
何で僕が誠に告白しても大丈夫だったのか
全てを察した。
そしてなぜか僕の身体は小刻みに震え
恐怖心が強くなった。
そのまま誠は僕をベッドに押しやり
そのまま獣のように僕を求めた。
たくさん愛されていた。
僕が前に求めていた事を全部してくれた。
でもその気持ちは僕に向けてのものでなかった事も知っていた。
そしてその気持ちに絶対になれない自分自身もいた。
何度も何度も唇を重ねる中、僕は少しだけ涙が出た。
どうしょうもできない気持ちの中
僕の寂しさは埋まらずその夜を過ごした。
僕はその夜、眠ることができなかった。
誠が寝た後に静かに着替えて家を出て行った。
暗がりの中、また虚無感が襲う。
ただ僕は真実にたどり着いた。
きっと今日はカナエに会えると
なぜかわからないが確信していた。
家についた途端
僕は大事なものを失っていた。
それを知っていたが
どうしょうもできない結果に
涙を流す事しかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます