第九話 崩れはじめた関係

いつも通り授業を受けて

三人でお昼ご飯を食べながら雑談をする。

僕の生活は普通の日常を取り戻していた。


休み時間の間、誠と話す時間が増えた。

僕にとってその時間は少しだけ特別な時間と

変わっていっていた。

彼と話す。

視線が交わるたびに幸せを感じていた。

彼の横顔、笑った顔、困った顔

表情が変わるたびに僕は彼に夢中になった。

その感情はまるでカナエに向けていた

あの頃のように……


誠と休み時間に話している際に

ふと彼と部活の話になった。


「なあ誠、部活とかしないの?練習とかだるいが意外に楽しいぞ」


「僕はいいよ。

スポーツはできないし、このままで

何より球技とか手が小さくてできないよ」


「本当か?ちょっと手貸してみろ」


彼は僕の手を強く引っ張り

手のひらを合わせて大きさ比べをし始めた。


「あー確かに小さいな」


そういいながら手を合わせた後、急に僕の手を力強く握った。


「ま、誠……痛いよ。」


あまりにとっさの事に

僕は少し戸惑い、恥ずかしがりながらも

彼の手に触れていた。

彼の体温を感じる、その中で僕はまた

彼に心をはずませていた。


叶恵がそれを見て

「あんた達、何気持ち悪いことしてるの?」

と言われ僕はすぐに手を離して壁側を向いた。


誠も手を離して叶恵に

「望が自分は手が小さいって言ったから

大きさ比べしていただけだよ」

と言ったので僕も便乗するように

「そう、大きさ比べしていただけと」

叶恵の前で誤魔化していた。


だが僕は誤魔化しながらも

その日の夜、彼の体温を思い出しながら

何度も自分の手を触り、見て微笑んだ。


そしてその日の夜

何故だかわからないが

僕はカナエと会えなくなった。


朝、起きると僕はあの部屋にいけなかった。

そしてカナエからのメッセージもなかった。

頭がぼーっとする中、僕の心にはまた

ぽっかりと穴が空いてしまった。

そしてその日の朝食は喉も通らなかった。


いつも通りに学校に行く。

誠と叶恵と話しながら授業を受けて

そのまま帰る。

帰るといつも待ってくれている人はいなかった。

また孤独感が僕を襲う。

「でもまた今日も寝ればカナエに会える!

今日は早く寝よう」

そう思い、僕は寝た。

何度も何度も何度も寝た。

起きてまたパソコンを確認する

何も返事はなかった。

そしてそんな日が1週間も続いた。


何度待てばいいのだろう……

待っても待ってもカナエからの返事はない

そして僕の心が閉ざされる事にあの部屋の鍵も強く閉められているように感じた。


何度も寝たが僕は孤独への不安で何度も起き

寝れてない日々が続いていた。

また意識が遠くにある感じだった。

僕はカナエから離れた日から

ずっと口数が少なくなっていた。


あれだけ誠の事を考えていたはずなのに

彼女がいなくなった瞬間

僕は何も感じなくなってしまった。


僕は授業が終わった後

学校に残っていた。

部屋に帰るとまた孤独感に襲われるのが

怖くなったのだ。

残っている間に僕は授業の復習をしていた。

何でもよかった……紛らわす事ができれば

少しでも寂しさを埋めれれば良かったのだと


夜も更けてあたりは暗くなっていた。

僕は夜道をゆっくり歩いて帰って行った。

頭の中ではずっとまたカナエの事を考えてしまっていた。

何でか知らないが突然、涙があふれかえってきた。

ボロボロと涙が出てきた。


メガネを外し僕は涙を拭いた。

何度も何度も拭くが涙が止まらなかった。

「カナエ……どこに行っちゃったんだよ。

寂しいよ。」

嘆きながら街頭の下で倒れ込んだ。


そんな時だった。

後ろから抱き抱えられ

声をかけられた。

「大丈夫か?」

その声は誠だった。


誠は僕を起こしてまた優しく抱いてくれた。

「どうした望、またなんかあったんだよな

すぐ相談しろって約束したばっかりだろう

どうした?」


僕は誠が助けに来てくれた嬉しさと

カナエがいなくなった寂しさで

感情がぐちゃぐちゃになってまた涙がどんどんあふれかえっていた。

どうしていいかもわからず僕は誠の胸の中で

ずっと泣きじゃくった。

そんな僕に何も言わず誠はずっと僕を抱きながらそばにいてくれた。

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