戦闘員Aさん異世界を往く~悪役なのに悪役が出来ない戦闘員は異世界に行ってヒーロー(冒険者)になりました。ヒーローの必殺技を駆使して戦って元の世界に戻る方法を探します
第13話 戦闘員Aは美人エルフと食事に行く
第13話 戦闘員Aは美人エルフと食事に行く
夕方になったので採取依頼を諦めて冒険者ギルドに戻るとユフィリシアさんと再会した。
護衛任務の時には急所を守る為の革の胸当てを付けていたユフィリシアさんだったが。
今日の装いは緑色のシャツに白色のロングスカート。
日本の街中で見掛けたら海外のトップモデルがエルフのコスプレをしているのかな?と思うぐらいに凄まじい美しさである。
私が冒険者ギルドに入った時、彼女は何故か魔物や植物の特徴が書かれた木札をボーっと眺めていた。
博識なユフィリシアさんであれば当然頭の中に入っている知識だろうに、と不思議に思っていた所。
振り向いて私に存在に気付いた彼女は私のもとへ駆け寄って来た。
『こんにちはユフィリシアさん』
『こんにちはエーさん』
『打ち上げ以来ですね。お元気でしたか?』
『お陰様で元気です。エーさんは雑用依頼を沢山受けられたみたいですね。受付の人達が塩漬け依頼が減って助かったと話をしていました』
年齢も性別も種族も違う。
生まれた世界すらも違う私とユフィリシアさんの共通点と言えば喋らない事だ。
私の場合は呪いで脱げない戦闘服の効果で「イー!」しか声が出せなくなっているのだが。
ユフィリシアさんの場合は声を聞かれるのが恥ずかしいので喋らない。
なので自然とミニホワイトボードを使った筆談となり。
お互いに筆談なので喋りと言う高レスポンスな意思疎通の手段を取る相手に気を使う必要が無く。 私にとっては最も気楽に話せる相手と言っても過言では無いかもしれない。
ユフィリシアさんも楽し気に筆談をしてくれるので私を良い話し相手として認識してくれているのだと思う。
私の自惚れでなければだが。
護衛依頼を終えた打ち上げの日から今日まで。
ユフィリシアさんは何やら考え事をして常宿の部屋に引き籠っていたそうだ。
その考え事をしている間も本などを読んで過ごしていたらしいが。
ディーンさんとモニカさんには何度か顔を合わせて挨拶していたのだが。
ユフィリシアさんとは一度も顔を合わせなかったのはそういう理由があったのか。
『何かあれば話を聞きますよ。私で力になれるかは自信がありませんが』
『いえ、エーさんに話せる内容ではないのです。そう言ってくれるのはとても嬉しいのですが』
どうやら私に話すのは難しい話題らしい。
女性同士でしか話せない内容とかだろうか。
将又エルフでなければわからない内容だろうか。
幾ら考えても答えは出ないので、ユフィリシアさんが話す気になったとしたらその時は親身になって話を聞こうと思う。
10分少々ユフィリシアさんと筆談をしていると、依頼を終えた冒険者達が帰って来てギルド内の人口密度が上がって来た。
するとユフィリシアさんは私の手からミニホワイトボードを取って真剣な表情をして。
私から見えない様にして文字を書いている。
書き終わってからうーんと悩む様な表情をしつつも私の目を見て文字が書かれた面をこちらに向けた。
『野菜が美味しい店を知っているので夕食を食べに行きませんか?』
ユフィリシアさんからの思い掛けないお誘いに。
私はその文字を三度も読み直してしまった。
逆から読んでみたり。
何かの暗号が隠されているのではないかと疑ってみたりしてみたり。
無い頭をフルに使って謎解きに当たってみても何も見当たらない。
どうやら文字通りの意味らしい。
私は中学を卒業して15歳で(株)悪☆秘密結社に入社してから。
仕事と模倣の為の研究とボランティアに明け暮れていたので、恥ずかしながら女性と二人きりで食事に行った経験などは一度も無い。
忘年会や新年会や送別会や友人の結婚式などで女性が同席する事はあったが。
それらは全て周囲を職場の知り合いに囲まれていたし、プライベートと言える様なシチュエーションでは無い。
中学までも周りがヒーローを推している中で悪役怪人を推していた私はかなり浮いていたのだが。
残念ながら浮いた話は一つも無かった。
それがユフィリシアさんと言う地球上にはまず存在しないであろう美しさの女性と二人で食事に誘われるなど。
これは現実に起こった出来事なのだろうか。
なんて考えているとユフィリシアさんの表情がどんどんと曇っていくので。
私はホワイトボードを受け取って返事を書いた。
『是非行きたいです。よろしくお願いします』
私の返事を見てユフィリシアさんはホッと安堵の表情を見せた。
今まで殆んど喋る事の無かったユフィリシアさんにとって誰かを食事に誘うと言うのは中々勇気が必要だったのではなかろうか。
私を誘った真意は掴めないが、きっと筆談で誰かとコミュニケーションが取れる事に喜びを感じているのだろう。
であれば私はユフィリシアさんと筆談での会話に付き合うのみである。
私自身も彼女との筆談は楽しく非情に勉強になる事が多いのだから。
美味しい食事を楽しみながらユフィリシアさんと筆談が出来るなら、これ以上に充実した時間は他に無いだろう。
夕食を共にする事を決めた私達は冒険者ギルドを出てユフィリシアさんの案内で野菜が美味しいと言う食堂に移動した。
この世界に来てから食事処と言うと冒険者ギルドで。
冒険者達の豪快な声とお酒の匂いが充満しているのが常だっただが。
この店は落ち着いた雰囲気で食堂と言うよりもレストランと言った感じだ。
自慢じゃないが、私は日本でもレストランなんてファミリーレストランしか行った事が無い。
本当に自慢じゃないのだが。
店に入ってすぐ給仕の女性スタッフさんに案内されて席に着く。
冒険者ギルドも同じなのだが、席は全て丸テーブルの4人席になっていて。
私とユフィリシアさんは筆談をするので隣り合って座った。
メニューが掛かれている木札が運ばれて来たので目を通す。
文字については読めるのだが、私の知っているメニューは一つも無いのでどれを頼めば良いのかわからない。
蒸し野菜とか。
コールスローとかシーザーサラダとかが載っていない。
どうしようかと考えているとユフィリシアさんがミニホワイトボードを取って文字を走らせた。
『私のお勧めの料理を頼んでも良いでしょうか』
有難い助け船を出してくれたので快諾する。
ユフィリシアさんが手を上げて給仕のスタッフさんを呼ぶとメニューを指差して注文を済ませた。
ユフィリシアさんはこの店の常連なのか、給仕のスタッフさんから「いつものですね?」と聞かれて頷いた後で指を二本立てて二人前注文する事を示した。
普段は筆談ではなくこうしてジェスチャーで人とコミュニケーションを取っているのかもしれない。
『エルフは菜食が多いんです。この店は野菜が新鮮だし。種類が豊富なんですよ』
『それは楽しみです。野菜は美味しいですよね。健康にも良いですし』
『私もエルフなので野菜が好きなのですけれど、美味しい野菜を出す店は少ないんです。この店の料理はとても美味しいですよ』
『そうなんですね。私のいた世界では聞いた事の無い料理ばかりなので食べるのが楽しみですね。冒険者ギルドでは肉料理が殆んどですけど、どこもそんな感じなんですか?』
『そうですね。魔物の肉が手に入りやすいのと、野菜は肉に比べて割高ですから肉料理が多いです。お肉はお酒にも合うそうですからね』
『成程。ユフィリシアさんは肉料理も食べられますけど、他のエルフは肉を食べないのですか?』
『私は人族の街に住んで長いのでお肉を食べるのにも慣れました。里にいるエルフは、、、』
料理を待っている間にユフィリシアさんと筆談をしてユフィリシアさんがエルフについて教えてくれた。
ユフィリシアさんは18歳でエルフの住む里を出たが、多くのエルフは里に住んで自給自足の生活を送っているらしい。
エルフの里は森の中にあって。
畑を耕し森の恵みを頂いて生活をする。
畑で野菜と豆を栽培し、森から果実を採って食べる。
素材の味を生かす調理をするので薄味が基本だそうだ。
エルフは弓が得意なので狩りも行うのだが。
狩った魔物や動物は素材を売却して生活必需品を買い揃える為に使われる。
肉も食べずに干し肉にして人族の行商人に売却するそうだ。
生活必需品は。
具体的に言うと塩や食器や調理器具、矢じりなんかの武器だ。
エルフは風の魔法も得意だが、魔法だと範囲が広かったり威力が強過ぎたりして森の木々を傷付けてしまう事があるからとあまり魔法を使う機会は少ない。
魔法は干し肉を作る時に肉を乾燥させる目的で風を起こしたりとかそんな感じで使うらしい。
『私の生まれた里は世界樹の傍にあって森の恵みも沢山採れました』
ユフィリシアさんがミニホワイトボードにそんな言葉を書いた所で料理が運ばれてきた。
世界樹とは何なのか気になったが、美味しそうな料理が冷めてしまう前に食べる事にする。
目の前に並んだ料理はゆで野菜のサラダ。
具沢山の野菜スープ。
野菜のステーキ。
豆と野菜を煮た物。
カットした果実。
飲み物は先に果実ジュースが来ている。
見た目的には肉が一切入っていないビーガン料理といった感じだろうか。
『いただきます』
心の中で言えば良いのかもしれないが何となく文字にしてから料理を頂く。
まずはゆで野菜のサラダからだ。
この世界の野菜は地球にあるものと似ている物もあれば、全く見た事の無い物もある。
私が木のフォークで刺したのは巨峰ぐらいに粒の大きなコーンらしき野菜だ。
ユフィリシアさんに聞いたらモロコの実と言う木の実の一種らしい。
口に入れて噛んでみると本当に大きなコーンと言った感じで大きさの割に薄皮はプツリと簡単に噛み切れた。
一噛みしただけでジュワリと甘い果汁が溢れて味はスイートコーンに近い味だ。
これは美味しい。
もしも日本人にモロコの実を食べさせたら皆が一様に同じ感想を口にするだろう。
モロ好みと。
、、、
『とても美味しいです』
『良かったです』
気を取り直して他の野菜も食べてみよう。
次は日本ではあまり食べる事の無い多肉植物の葉っぽい野菜を食べてみよう。
ユフィリシアさん曰く、この葉野菜は一般的にはあまり食べられていないらしい。
見た目はぷくっとした丸っこい観葉植物だが、噛んでみると少しねっとりとしてクリーミーな食感。
少し青味のあるアボカドと言った感じでこれも美味しい。
こんなアボカドっぽくて美味しい野菜が食べられていないなんてアホかと。
、、、
『これも美味しいですね』
『良かったです』
気を取り直して。
これは見た目にもミニキャロットっぽい。
歯応えがシャキシャキしていて火を通しているのに食感が楽しい。
味も癖の無い甘みで人参嫌いの子供達でもペロっと食べられそうだ。
キャロットだけにペロっと。
、、、
『所でユフィリシアさんはどの野菜がお好きなんですか?』
『私はこのマルオニオが好きです。焼くと甘みが増すんですよ。熱を加えると油が染み出す珍しい野菜です』
私はこれまでの色々を無かった事にして、楽しく食事をする事にした。
マルオニオは大きくて肉厚な玉ねぎらしき野菜で、輪切りのステーキになっている。
表面が飴色に焼けていて、木のフォークでも切れるくらいに柔らかい。
口に入れるとトロッとした食感でユフィリシアさんの言う通り甘みが強い。
仄かに効かせた塩味が甘みを一層引き立てていて、野菜から染み出た油で焼いているからだろうか。
脂っこくなくてあっさりしている。
『これは絶品ですね』
『はい。単純な料理なのですけれど、自分で料理しようとするとこう上手くはいかないんです。シイプ豆のスープも野菜のエキスが出ててとても美味しいんですよ』
私達は筆談を交えながら楽しい食事の時間を過ごしたのであった。
料理は全て美味しかったが、本日のMVPはマルオニオのステーキだったとここに宣言しよう。
『美味しかったです。ここは野菜を食べるのに最高の店ですね』
『私も誰かと来るのは初めてでしたが、何時もよりも美味しく感じました。これまでよりもお気に入りの店になりました』
一人で食べるよりも誰かと食べた方が美味しい、なんて言葉があるが。
ユフィリシアさんにとって私がそんな相手になれたのだとしたら喜ばしい限りだ。
食事を終えた周りのテーブルでは晩酌が始まっていて。
お酒が入って騒がしくなるのはどんな店でも同じらしい。
『そろそろ行きましょうか』
『そうしましょう』
時計を見ると時間は既に20時になっていた。
店に入った時が18時頃だったので、筆談が盛り上がって随分と長居をしてしまったみたいだ。
私達は支払いを済ませて店から出る。
因みに支払いはユフィリシアさんが全額払おうとした所をどうにか割り勘にして貰った。
ヒーロー(冒険者)としてはユフィリシアさんの方が先輩で歳も上だが私も稼ぎのある身としては対等でいたい。
と言うか御馳走になるのに慣れていなくてどうにもこそばゆいのだ。
駆け出しの戦闘員達に御馳走する事はあっても御馳走される事はまず無かったからな。
悪役怪人さん達は私が食事に気を使っていたのを知っているので。あまり誘われる事も無かったのだから仕方が無いだろう。
社長であり憧れの存在でもあるビッグゴリラさんに誘って貰えたなら、例え行く先がどんな飲食店であっても喜び勇んで馳せ参じたであろうが。
残念ながらその様な機会は一度も無かった。
『宿まで送らせてくれませんか。ユフィリシアさんはあまりにも美しいので暗い夜道を一人にさせるのは心配になります』
店を出た所でそう伝えるとユフィリシアさんは横を向いてしまった。
尖った耳の先が赤くなっているのだが、もしかしたら先輩ヒーロー(冒険者)に対して失礼な事を言って怒らせてしまったのだろうか。
確かにまだまだ駆け出しヒーロー(冒険者)である私がユフィリシアさんの事を心配するなど余計なお世話だったかもしれない。
そう思い直して私がミニホワイトボードに全身全霊の謝罪文を書き綴ろうとしたタイミングでユフィリシアさんがこちらに向き直って私の手からペンを取った。
『よろしくお願いします』
ユフィリシアさんの表情を見る限り怒ってはいない様子だった。
ユフィリシアさんが歩き出したので私も隣を歩く。
歩いている間は筆談が出来ないのでユフィリシアさんの真意は聞けずじまいだが。
何となく楽し気な雰囲気に見えるので私が邪推しても仕方が無いだろう。
ユフィリシアさんの宿はギルバートさんの商店から見える位置にあった。
確かにこの立地で街灯の灯りがあれば暴漢に襲われる様な事にはならないだろう。
翠色の果実亭と言う宿はギルドが経営する宿よりも小さくて可愛らしい見た目をしていた。
『宿まで送ってくれてありがとうございました。嬉しかったです』
そう書いて微笑んだユフィリシアさん。
『それだったら良かったです。今日は楽しかったです。素敵な時間をありがとうございました』
微笑む彼女に私は今日の感謝を返す。
『私も楽しかったです。素敵な時間をありがとうございます。また誘っても良いですか?』
ユフィリシアさんはとても嬉しい言葉を返してくれた。
『はい、勿論です。ユフィリシアさんといる時間はとても幸せな時間ですから』
私の書いた文字を読んだからなのかユフィリシアさんの耳が真っ赤に染まってしまった。
いや、私の言葉など関係は無く。
夜になって少々肌寒いからエルフ特有の長い耳が冷えてしまったのかもしれない。
このままではユフィリシアさんが風邪を引いてしまう。
ユフィリシアさんが文字を書く様子が無いので私が続いて文字を書く。
『それでは、そろそろ行きますね。ごきげんよう』
『私も幸せな時間でした。ごきげんよう』
文字を書き終えて微笑みを浮かべたユフィリシアさんが小さく手を振る。
私も小さく手を振り返してから背中を向けて歩き出した。
10メートル程進んでから気になって振り返ってみるとユフィリシアさんはまだ宿の中に入らずこちらを見ていたので、私は小さく手を振った。
ユフィリシアさんも私が手を振ったのに気付いて手を振り返してくれる。
更に10メートル程進んだ所で、また気になって振り返ってみるとユフィリシアさんはまだ宿の中に入らずにこちらを見ていたので手を振る。
ユフィリシアさんも手を振り返してくれた。
更に10メートル進んで建物の角を曲がる直前。
気になって振り返ってみるとまだユフィリシアさんは宿の中に入っていなかった。
私は彼女が気付く様に大きく手を振る。
するとユフィリシアさんも手を振り返してくれたので手を振ったまま角を曲がって彼女の前から姿を消した。
建物の陰から様子を窺うと未だユフィリシアさんが宿の中に入る様子が無い。
私は様子を窺うのを止めて5分間時間を置いてから再度様子を窺うと。
ユフィリシアさんはまだ宿の中へ入らずこちらの方向を向いていた。
私は堪らずユフィリシアさんのもとまで走って彼女に宿の中へと入って貰った。
見送りはとても嬉しいのだが姿が見えなくなって尚。
現場待機にて見送りをされているのは流石に気になって仕方が無い。
どうやら声を聞かれるのが恥ずかしくて喋らない博識のユフィリシアさんは。
人との交友の常識だけは足りていないみたいだった。
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