戦闘員Aさん異世界を往く~悪役なのに悪役が出来ない戦闘員は異世界に行ってヒーロー(冒険者)になりました。ヒーローの必殺技を駆使して戦って元の世界に戻る方法を探します
第10話 一方その頃。(株)悪☆秘密結社の話
第10話 一方その頃。(株)悪☆秘密結社の話
インディーズヒーローのブラックロダークが自爆テロ事件を起こしてから三日後。
世間は深い悲しみに包まれていた。
特に(株)悪☆秘密結社がある区では失った者の大きさに多くの者が涙を流したという。
事件に巻き込まれたのは(株)悪☆秘密結社に勤めていた戦闘員A。
彼は悪を名乗りながら超が付く善人で。
途轍もない地域貢献を果たしていた事は子供から老人まで知らない者はいない程だったのだ。
そんな戦闘員Aが勤めていた(株)悪☆秘密結社の社長室では。
社長の悪役怪人ビッグゴリラと悪役怪人ビジンヒショが会話をしていた。
「Aの行方はまだわからないか?」
「はい。悪の秘密結社や警察だけでなく、ヒーローの方々も動いてくれているのですけどね。戦闘員が行方不明になってヒーローが動くだなんて。Aさんの人柄のなせる業ですね」
「そうか。マスコミも面白がって動いているから手掛かりぐらいは見付かってもおかしくないんだけどな。お前はどう考えてる?」
世間的には死亡扱いになっている戦闘員Aだが二人はまるで彼が生きているかの様に語っている。
ビジンヒショはビッグゴリラの問い掛けに顎を抓んで思考した後、自らの考えを述べる。
「幾ら大きな爆発だからと言って死体どころか所持品すらも出て来ないのは不可解ですからね。我々はAさんが生きていると考えて捜索をしている訳ですし。その可能性はあると考えていますが」
ビジンヒショの返答にビッグゴリラはうんうんと頷いた。
「そうだな。だが俺はあいつがいなくなって、これからうちの会社はどうしていけば良いんだよって酒を浴びる程飲んで。顔がお前の肌みたいに青白くなった時に一つの可能性に気付いたんだよ」
ああ、それで今日は異常なほどに酒臭いのかとジト目を向けつつ。
ビジンヒショはビッグゴリラが続ける言葉を待つ。
どうせ酔っ払いの戯言でしかないだろうと思いつつも、戦闘員Aを探す手掛かりとなる事はほんな戯言であっても聞いておきたい。
ビッグゴリラは何か物凄い大発見を語る前の様に溜めに溜めてから口を開く。
「あいつって主人公属性が異常な程に高いじゃん?だから爆発の瞬間に異世界転移とかして異世界で元気にやってんじゃねぇの?」
やっぱり酔っ払いの戯言だった。
そう思って大きく溜息を吐いたビジンヒショだったが。
ビッグゴリラの言葉をもう一度噛み砕いてから戦闘員Aの姿を思い浮かべる。
「有り得る、、、」
「だろ!?それだったら死体が見付かんないのも持ち物が見付かんないのも説明が付くじゃん!」
ビジンヒショのまさかの同意にビッグゴリラのテンションが上がる。
彼だって自分の言っている事が、どれ程に非科学的でありえない話かは理解しているのだ。
その中で戦闘員Aだったらあるいは、、、
そう思ってしまうのは彼の事を息をする様に命を救う全盛の悪役戦闘員と評するビッグゴリラだからだろう。
それに同意するビジンヒショも社内でも戦闘員Aに対する評価が高い人物である。
「異世界を日本だって思い込んで行動しそうですよね」
「魔物を新種の動物とかって思い込んでな」
「そこは異世界だって教えてくれる人に出会えていれば良いのですが」
「その辺はあいつの主人公属性でどうにかなるだろう。異世界でも人助けしたりして、その内フラッと帰って来たりしてな」
「それは有り得ますね」
「、、、」
「、、、」
二人の間に沈黙が流れる。
「さ、真面目にAさんの捜索を続けましょう。異世界転移なんてある筈が無いんですから」
「そうだよな。現実逃避してても仕方が無いよな。Aの隠れファンが多かった女子社員達のモチベーションアップ作戦を考えなきゃいけないし、やる事は山積みだからな」
現実逃避の末に辿り着いた単なる酔っ払いの戯言でありながらも。
非常に惜しい所をついている二人なのであった。
―――――――
(株)悪☆秘密結社のビルに併設された訓練場。
訓練場では今日も熱の入った訓練が行われていた。
その中心に戦闘員Aの姿は無い。
「何時までも悲しみに暮れている訳にはいかない!Aさんがいなくなったからと言って戦闘員の質を落としてはAさんに笑われてしまうぞ!対脳筋戦隊アマレスラーンをイメージした立ち回り稽古を始める!」
「「「「「イー!」」」」」
訓練場の中心で声を上げるのは戦闘員B。
(株)悪☆秘密結社では戦闘員Aの名は永久欠番的な扱いとなり、戦闘員を取りまとめる代表は戦闘員Bが引き継ぐ事になった。
気合いの入った掛け声が上がり稽古が始まる。
戦闘員Aがブラックロダークと戦い爆発に巻き込まれたと聞いてから。
誰よりも気丈に振舞っていたのは戦闘員Bであった。
淡々と訓練に打ち込む彼の姿は見る者によってはあまりにも薄情に映っただろう。
しかし。
同僚の戦闘員達は戦闘員Aが犠牲になった事をもっとも悲しんでいるのが戦闘員Bである事を知っている。
戦闘員Bが(株)悪☆秘密結社に入社したのは3年前の事。
当時の戦闘員Bは戦闘員Y´´のアルファベットを与えられた最も下っ端の戦闘員であった。
右も左もわからぬ新入社員なのだからその位置に配置されるのは当然なのだが
当時の彼は入社から最速で悪役怪人に昇格する事を目指し、それが当然の事であると考える傲慢な人間だった。
当時15歳だった事を考えれば多少は図に乗ってしまうのも仕方の無い事だったかもしれない。
そんな戦闘員Y´´は入社から初めての訓練で、当時既に戦闘員Aとして戦闘員の頂点に立っていた男に決闘を申し込んだ。
決闘で自分が勝ったら戦闘員Aの座を自分に譲れと言う無茶苦茶な要求をした彼に対して。
戦闘員Aの返事は『いいよ。やろう』だった。
既に戦闘服を着ていた戦闘員Aがミニホワイトボードを使って返事をしたので。
舐められていると感じて戦闘員Y´´が激昂したのは説明するまでもないだろう。
そして始まった決闘で戦闘員Y´´は知覚する余裕すらない程に。
正しく一瞬で地面に転がされていた。
戦闘員Y´´は幼い頃から悪役怪人に憧れて肉体を鍛え上げ。
当時の彼は間違いなく戦闘員の中でも上位に食い込める実力を持っていた。
その実力に裏打ちされた自信があったからこそ彼は決闘を挑んだのだ。
しかも相手は入社から7年も経って未だに戦闘員を続けている万年戦闘員のベテランだ。
どうせ大したことは無いのだろうと高を括っていた相手に喫した完全なる敗北。
これ程の実力者でも昇格出来ない悪役怪人とは。
どれ程に高く分厚い壁なのだろうかと戦闘員Y´´の鼻っ柱は入社早々に砕け散ったのであった。
『君には素晴らしい才能がある。そう焦らなくてもしっかりと訓練を積めばそう遠くない将来立派な悪役怪人になれるさ』
喋れる筈なのに何故か喋ろうとしない戦闘員Aから文字で掛けられた言葉が彼の心を軽くした。
その日から戦闘員Y´´はより一層の訓練を積み、メキメキと頭角を表して行ったのだった。
「悪役怪人さんの壁が高くて分厚いんじゃなくてAさんが滅茶苦茶なんじゃないかよ」
入社から3ヶ月。
既に´が外れて戦闘員Kまで昇格していた彼は。
入社から初めての撮影で悪役怪人の戦闘シーンを間近で見て一つの事実に気付いた。
それは普段からヒーローを模倣して戦闘員達に稽古を付けてくれる戦闘員Aが明らかに悪役怪人よりも実力者である事だった。
当時既に再現率97%を誇っていた戦闘員A。
どんなに実力のある新人ヒーローが現れようとも、殆んど完璧に模倣して戦闘スタイルまで再現するのは。
冷静に考えればヒーローよりも上の実力を持っていなければ不可能だろう。
ヒーロー以上の実力を持った悪役戦闘員。
戦闘員Kはそんな偉大過ぎる存在に憧れを抱き、彼の背中を追い掛けて必死で訓練に臨んだのであった。
そして入社から僅か半年。
戦闘員Aに個人的な稽古を願って実力を付けた男は異例の早さで戦闘員Bへと昇格したのであった。
戦闘員Bへの昇格目前、彼は社長室に呼ばれていた。
社長室には悪役怪人の頂点と言われる悪役怪人ビッグゴリラが待っていて。
その存在感と威圧感に気圧された。
入社前も今でも憧れの存在であるビッグゴリラは、戦闘員Bに悪役怪人への昇格を告げた。
入社から半年余りでの悪役怪人昇格は正に栄転と言って良い。
これは彼が入社した時に目指した通り、(株)悪☆秘密結社が株式上場してからは最速となる記録となる。
しかし彼は予想外の言葉を返した。
「すみませんが昇格はお断りします。俺はまだAさんを超えてません。あの人を超えた時、俺は自信を持って最高の悪役怪人になってみせます!」
そう答えた戦闘員Bに対し。
内心で絶対無理なやつじゃん!と叫びながら頭を抱えたビッグゴリラであった。
そんな悪役怪人以上に憧れ慕う戦闘員Aがいなくなって戦闘員Bが悲しみを感じない筈が無い。
事実戦闘員Bは誰よりも深い悲しみを抱きながら。
戦闘員Aが守って来た国内最高の悪役戦闘員と言う称号を守る為に訓練に打ち込むのであった。
「Aさん見てて下さい。俺が貴方の後を立派に受け継いで見せます」
強い決意を胸に戦闘員Bは戦闘員Aの背中を追い掛ける。
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