第48話 宿場町の温泉と男2人

リコス峠の麓の宿場の宿に入りましたが、まだまだ日が高いです。


「まだまだ日が高いですが、やる事がありませんね」

「そうですね。何か食べるにしましても、宿の主に聞きましたら夜にならないと開かないそうです」

「ご飯もいいけど、それよりお風呂だよ。これからどんどん入れなくなるからは入れるうちに入らないと」

「トリシャはお風呂が好きですね。そういえば、宿の主が温泉があると言ってましたね」

「アルニル、そういう事は早く言うんだ」


温泉と聞くと、トリシャ様の目の色が変わりました。


「そうですが、フローラ様のお相手が優先です。それに場所がわからないでしょ」

「だから、場所を教えるんだ」

「トリシャ1人だと町の中は迷うでしょ。わたしとフローラ様もご一緒しますよ」

「これぐらいの町じゃ流石に迷わないよ。でも、どうせなら姫様も一緒でいいかな」

「わたしもですか?」

「ええ、やる事もありませんし、入れるうちに入っておきましょう」

「それもそうですね。そう言えば、イザベラの姿ありませんね」

「イザベラなら先に温泉に来ましたよ」

「そうでだったのですね。しかし、いつのまに行ったのでしょう」


アルニルが言うには宿の主の話を聞いて、そのまま温泉に向かったそうです。

入浴施設になっており、一通りそろっているので何も持たずに行っても大丈夫との事です。


「イザベラらしいと言えばらしいけど、あたしたちも急ぐよ」

「フローラ様が居ますのでゆっくり行きますよ」

「姫様はアルニルにまかせるから、あたしは先に行きくよ」


トリシャ様はそいうと、小走りで部屋を出ていくのでありました。


「本当に、温泉好きが多いですね。では、わたしちも行きましょう」

「そうですね」

「そういえば、トリシャを温泉の場所を知らないのに大丈夫ですかね」


アルニルがこう言いますが、宿の部屋は2階なので1階へ向かうため階段を降りますと

階段の下にはトリシャ様がおりましたが、宿を出る前に温泉の場所を思い出したので

わたしとアルニルを待っていそうなので、温泉へ一緒に向かうのでした。


――――――――――――――――――――――――


「今日もアランと一緒の部屋とはな」


エモリーはこう言ってベッドに寝転がってるが、自分だってエモリーとの同室は嫌だ。

ただ、宿は事前に決めてあり、男は自分1人なので予定外にエモリーがついて来たので仕方がない。

ただ、用意された部屋は幸いな事に部屋は全て2人部屋だったため同じベッドで寝る事がないだけましではあるが。


「自分もお前と同室は嫌だ。ただ、部屋は事前にフローラ様のために用意されたから仕方がない」

「ま、俺がついてくるのも予定外だしな」

「通常の料金よりかなり多めに払っているから、追加料金はないとはいえ1人増えたら宿だって面倒だ。それに、宿に居たら捕まるんじゃないのか」

「大丈夫だ、指名手配と言っても人相書きがないからわからんよ」

「確かにそうだったな」


指名手配と言っても賊の顔はわからないので人相書きは用意されていない。

自分はまじまじと見てはいるが、エモリーの顔をはっきり見たのは宿に忍び込んだ時。

それ以外は顔のほとんどは隠しているので、人相について聞かれた時ははっきり見ていないと

言ってたなぜそう言ったか自分でもよくわからない。


 そして、エモリーの盗賊団の活動場所から遠く離れたらこの場所なら、顔もわからないだろう。

だから、こうして宿に居ても捕まる事はないと言える。


「それに、姫様お付きの騎士様もおりますからな」

「確かにだな」


まさかフローラ様が盗賊団の団長と旅をしているとは思わないだろう。

エモリーの格好はフローラ様を護衛するようには見えないが、護衛の1人は街中で目立たない様にあえてそれらしくない格好をしている。

理由は情報収集をする役目もあるためだ。

だから、エモリーの様に護衛らしくない格好でもおかしいとは思われない。

ただ、普通はばれないように別行動をするのだが……。


「しっかし、暇だな。流石にこの宿で盗みをする訳にはいかないからな」

「盗賊団の団長がそれを言うか」

「流石に姫様と旅をしてる間は盗みはしないぞ、当り前だろ」

「いや、盗みをしないのが当たり前だ」

「まったく、騎士様は堅いね」

「お前がおかしいだけだ」

「それもそうだな。とはいえ、まだまだ日が高いのにこうやってベッドでゴロゴロするのも悪くはないか」

「それもそうだが、フローラ様の護衛である事を忘れなるな」

「わかりましたよ。でも、姫様には侍女やエルフ、修道女がいるから大丈夫だろ」

「確かにそうだが……」


エモリーが言うより、アルニルさん、トリシャ様、イザベラさんが居れば自分の出番はない。

しかし、フローラ様直属の騎士でありこうやって旅に同行しているので、自分も騎士としては活躍したいのは本音だ。

しかし、トリシャ様は伝説の勇者と魔王を倒したエルフの魔法使い。


 アルニルさんとイザベラさんは姿は女性になっているが、やはり魔王を倒した英雄の生まれ変わり。

強さも前世同様の様で、アルニルさんには勝てるとは思えない。

イザベラさんは回復に長けていて、ここまで道中、怪我や病気の人を見かけると治療をしていたが

熱にうなされてる人も1度で熱を下げて元気になるぐらい、イザベラさんの回復の力は強力。

そして、自分は3人の足元に及んでいない。


「エルフに女だが元は魔王を倒した勇者の元仲間なんだから、ペーペーの騎士のお前が敵う訳がないよ」

「それもそうだが、なんだかんだで魔導通信は見てるんだな」

「一応、世の中の事はちゃんと調べてるさ」

「そうか、殊勝な事だな」

「ま、盗賊で俺みたく魔導都信を見てるのは珍しいけどな」

「やはりそうか」

「捕まるリスクもあるが、そもそも盗賊ってのは世間の事なんてどうでもいいからな」

「そうなのか?」

「俺が会って来た連中はそうだったよ。だが、他は知らんが」

「なるほど」


盗賊なんてものは人の物を奪い、それで楽して暮らせればいいって事なのか。

それに、エモリーは騎士団長の言うエモリーと同一人物ならば元騎士でもある。

今はこうだが、エモリーの剣は騎士が習う物と一緒だ。

そうでなくても、我流でなくちゃんとし剣術を習っている。


 つまり、元はちゃんとした身分だったって事だ。

折角の機会だからエモリーに話を聞きたいが、どうせはぐらかすだろう。

だから、聞かないがこの機会を逃したら、エモリーと話す事ないだろうから

何とか旅の最中には聞きたおきたいが、今ではないな。


自分はそう考えてエモリーの方を見ていると


「おい、男に見つめられる趣味はねえ。もしかしてお前……」


と言ってきたが、そんな事はない。


「いや、そんな事ないぞ」

「ならいいが、騎士はそういうのがいるからな。俺が居た頃も……いや、なんでもない」

「なんだ、気になるだろ」

「別にいだろって、廊下を歩く音がするな。他に客はいないようだから、この足音は姫様と侍女だな」

「足音でわかるのか?」

「歩幅や速さで音が変わるからな、大体わかるが他に客がいないのもあるけどな。

ただ、、10日も一緒にいればある程度はわかるようになるぞ」

「そうだったのか」


廊下を誰かが歩くのはわかったが、その自分まではわからなかった。

エモリーも盗賊ではあるが、足音だけで相手がわかるとは。

そう考えると自分はなにもないが……。

あと、エモリーは思わず騎士団にいたような事を言ったが、こちらから聞くより

自分から思わず言う方が待つ方が良さそうかもしれない。


「この時間に姫様たちはどこに行くんだろうな」

「まさかつていくのか」

「暇だし、姫様がこんな狭い宿場町でどこに行くか気になるだろ」


エモリーはそう言ってベッドから起き上がると、部屋を出ていく。


「おい、自分も行くから待つんだ」

「なんだ、興味があるのか?」

「違う、お前をフローラ様に近づける訳にはいかないだけだ」

「そうか。ま、ついてくるのは自由だからな」


エモリーはそう言って、どんどん階段を降りていくが自分も慌ててその後を追うのだった。

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