第47話 これから超える峠の話

出発早々、足止めされましたがその後は順調に進み初日の宿場に到着。

小さい宿ではありますが、前回の旅でこのような宿に泊まる事には慣れましたし

ベッドで眠れれば十分です。


 そして、翌朝は日の出とともに宿を出発しましたが以後はこれの繰り返しで

特に問題なく進んで行き、気づいたら王都を出発して10日が経過していました。


「ここまでは順調でしたが、間もなく山越えの峠道になりますね」


馬車の中でアルニルが地図を見てこう言いますが、アルニルの見ている地図は一般の地図と違い精細な地図であります。

この地図は国家機密なので、これを見る事が出来るのは王族や一部の貴族、騎士団や王国軍司令部のみです。

ただ、この地図が作られて10年以上経っていますので、変わっている所がないかの

確認も合わせて特別に持ち出す事が出来ました。


「峠は1日で超す事が出来ないと聞いていますが、山中に泊まる場所があるのでしょうか?」

「フローラ様、峠の両側と峠の途中の平坦地に宿場がありますので、余程の事がない限りは大丈夫ですよ」

「余程の事とは何ですか?」

「そうですね、山賊に襲われたり、馬車が壊れたりした場合ですかね」

「それはどちらも起って欲しくないですね」

「馬車の故障は直せなくいけど、山賊はあたしが片付けるから大丈夫」

「トリシャだけなく、私もいますから大丈夫でよ」

「それは心強いですが、アランとエモリーもいますよね」

「あの2人の出番はほとんどないけど、いないよりはいいと思うよ」


トリシャ様は2人の出番がないと言いますが、山賊の相手のみならトリシャ様1人で

十分とは思いますが、折角2人が居ますので少しは出番があった方良いと思いましたが

一番良いのはトリシャ様もアラン達も出番がない事ですよね。


「一番良いのはトリシャ様やアルニル、アランたちの出番がない事です」

「そうですね、それが一番です。ただ、出た時は仕方がありませんね」

「その時は仕方がありませんので、頼みますよ」

「任せておいてよ」


トリシャ様は自信たっぷりにいます。


「トリシャがやる気があるなんて珍しいですね」


イザベラがこう言いますが、トリシャ様はは何か楽しそうです。


「久しぶりの旅だし、ファーガスの子孫がどんな風か見たいからね」

「長生きすると、そういう楽しみもあるんですね」

「そうだよ。エルフの森に行くと毎日同じ事だから、どうしても暇だからね」

「エルフもお金を稼いでいますよね?」

「もちろん、あたしもお金を稼いでたよ。ただ、王様から貰ったマオを倒した報奨金があるから、エルフにとっては数百年暮らせる額だからね」

「そうなのですか?」

「そうだよ、姫様。エルフの森にあれば水と食べ物、温泉には困らなかったよ。

家の近くの温泉は土砂崩れで埋まっちゃったけど、エルフの森自体には温泉がたくさんあるよ」

「でも、行くのは面倒でしたよね?」

「イザベラ、それは200年前の話だから。今は村の中の温泉にちゃんと行ってるよ」

「そうでしたか」


ファーガスたちがトリシャ様と出会った頃は面倒くさがりで、すぐ近くの別の温泉に行くの面倒だったそうです。

ただ、トリシャ様が言うにはマオの討伐から戻って来た後はしっかりした暮らしをしていたそうです。


「200年も経てば成長するよ」

「そうですか?」

「アルニル、どこを見て言ってるのかな」

「全身ですよ」

「それはそれでどうなかと思うよ?」


トリシャ様はこう言いますが、トリシャ様の姿は200年前から変わっていません。

エルフの容姿と言いますか、さらに成長するのかはわかりませんが多分、成長はしないと思ってはいます。


「見た目なんて気にしなくて良いのです。最も年上なのに、このような容姿なのが良いのです。

といいますか、この方が興奮しますので」

「イザベラ、昔の生臭ぽいことを言ってるよ」

「失礼。でも、本心ですの」

「それはそれでどうかな」


イザベラは前世よりも聖職者らしくなりましたが、根は変わってない様です。


「そろそろ峠越え前の宿場に付きますね」

「まだ日が高いですね」

「そうですが、今から峠を越えたら山中で夜を迎えますからね。

なので、まだ早いですが今日は宿に行きましょう。」

「そうですね」


時間は昼を過ぎてしばらく経ったぐらいですが、今から峠に入りますと

何もない山中で夜になりますので、宿に泊まる事にします。


「1つ目の峠はいいけど、2つ目の峠は今の季節だと日のあるうちに越えられないよね」


トリシャ様は地図を見て言いますが、ファーガス地方は王都や今まで通った街道のある領内平野部と

高い山脈を隔てていますので、最短ルートであるこの街道でも峠を2つ超える事になります。


 王都からこれから超えるリコス峠はアルニルが言うように、峠越えの途中に平坦地がありリコスの宿場が整備されています。

そのため、リコスの宿場に行けばよく、リコスの宿場からは緩やかな峠道なので峠としては楽な方です。


 一方、2つ目の峠は最も険しいファーガス峠でう。

ファーガスの名の付く峠ですが、名前の通り最短ルートとしてファーガスが切り開いた峠道です。

今までのルートは標高の低い峠を何度も超えるルートでしたが、道としては

峠の昇り降りが緩かったものの距離も所要時間も現在の倍かかっていました。

そこで、ファーガスが標高は高いもの、最短ルートでつなぐ道を作る事決め

費用はファーガスが持つという条件で、王国も道を作る許可を出しました。


 ただ、この道を造るは非常に大変で、途中にある火山から出ている瘴気や

冬は凍える寒さと雪により、作業が出来るのは1年の4か月程しかなかったので

道が完成するには15年かかりましたが、冬でも通れる道を造り道幅も荷馬車がゆったり通れる広さになっています。


 ただ、整備された道ではありますが2つ目のファーガス峠は1日で超す事の出来ない峠道です。

通常ではこの峠を越すのは2日ないし3日かかります。

しかも、平坦地がないので宿場は整備されておらず、代わりに寝泊まりが出来る小屋が一定間隔に置かれています。

なので、峠で夜を超す場合はその小屋で寝泊まりする事となりますが

雨風を避けるだけの小屋ですので、ベッドはおろか風呂もトイレもないそうです。


「最初の峠越えは良いですが、2つ目のファーガス峠は大変そうですね」

「そうですね。峠の入口の宿場から次の宿場までは峠を越えるまでありませんからね」

「それは聞いていますが、代わりに途中にある小屋に泊まるのですよね」

「はいそうです。本当に雨風を避けるためで、火はおこせますがベッドなどはありませんからね」

「事前にそれを聞いていますが、寝られるかは心配です」

「大丈夫ですよ、1度経験すればなれますから」

「そういう物ですか?」

「そういものです。それに、ここはまだ主要な街道ですから小屋が整備されているから良い方ですよ。

マオの城までは道なき道を歩き、野宿ですからね」

「それもそうですね」


アルニルが言うとおり、小屋があるだけ良いですかね。


「とはいえ、ファーガス峠の麓まではリコス峠を越えてさらに2日かかりますから今から考えても仕方がないですよ」

「それでもそうですね」

「それに、宿場に到着しましたよ」


馬車の外を見ますとすでに宿場に到着していました。

そして、馬車は宿の前に止まりまが、今回の旅では宿場の宿は事前に用意してあります。

なので、宿に到着すればすぐに部屋に入れます。

わたしたちは馬車から降り、宿に入りますが、トリシャ様は青い顔をしています。


「トリシャ、顔が青いけどどうしたの?」


それを見てアルニルが聞きますと


「馬車で……地図を見てたら……気持ち悪く……吐きそうになったけド……その前に馬車が止まってよかった……」


と言って、ふらつきながら宿に入っていくのでした。

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姫様は最強勇者の生まれ変わり……だけど女に転生するのを拒否したため記憶と知識はあるけどチートも無双もできません。 しいず @shiizuu

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