失った者たち

kikurage963

No.1加賀阿螺紀〜第一章現れた少女〜

俺の名は加賀阿螺木

ただ珍しい名前ってだけの独身サラリーマンだ。

今日もいつも通り自分のオフィスで書類を作っている。

いつも通りじゃないことはいきなり、久しぶりと声をかけられたことだ。

顔を上げるとそこには顔の整った綺麗な少女が立っていた。

「いつからそこに!?……ていうかさ、どちら様...?」扉が開いたのなんて気が付かなかった。

俺が尋ねると、その少女は気まずそうな顔で俺を見た。「あの事件のことも、最後の戦いの事だって私はあんたが悪いだなんて思ってない、だからさ!お願い...また一緒に立ち上がってよ...」

「いきなりなんですか!?立ち上がるも何も、私は君のことを知らないですし、あの事件とは何の事ですか?問題も起こさず、平凡に変わらない毎日を過ごせることが取り柄の自分がどんなことを...?」

「え...あのことを...私を覚えてないの...?」

何やらショックを受けた様子の少女を見て少し申し訳なくなったものの知らないものは知らない。

「すみませんね、きっと人違いです。私も仕事があるので出ていってもらえませんか?」

そう言って、また机に目を向けた時、女に首元を掴まれた。

「待ってよ!」

「っ!?」

そのまま壁に押し付けられ、身動きが取れなくなる。

……おい、ここはオフィスだぞ?こんなところ誰かに見られたらどうするつもりなんだ。

「忘れたというの?一緒に過ごした日々のことも、全てが壊れた事件のことも、」「事件……?」

なんだ、もしかして宗教か何かか?それともカルト的なアレだろうか。

どちらにしても俺はそんなものには一切興味は無い。しかし、この少女は俺のことを知っている素振りだ。間違いなく危機的状況に置かれてるというのに俺はどこか冷静でいた。

「話は聞くのでまずは落ち着きませんか?」

「クッ!...はぁ...」

少女は大きなため息をつくと"俺の席"に遠慮なく座った。ため息をつきたいのはこっちなのだが...

少女はうなだれて手で顔を覆った。「..........」「..........」信じられないぐらい気まずい。

何か声をかけようかと思っていた時、少女が顔を上げた。

そして俺のことをまじまじと見つめた後、何かを決心したように立ち上がった。

「もう時間もないみたい...ほら、返すわ。」

少女は球体の"何か"放り投げてきた。それはとても軽くて金属でできた球体のようであった。

「それは"バグ"、自らを使うものを選び、大きな力を与えてくれるもの...でも同時に大きな災いも引き寄せてしまう...」

「おい!待て!何を言って...」

少女はオフィスの扉の方へ近づいていく。

「近い将来、あんたはバグが示すある場所に向かうことになる。それまでにあんたはきっとバグによる怪異に巻き込まれることになる」

「怪異ってなんだ!何勝手なことを言って...」

「大丈夫、あんたならきっと乗り越えられる...負けないでね、阿螺木」そう言う少女はどこか悲しそうな顔をしていた気がする。「どうして俺の名を...」

俺が言い終わる前に少女はオフィスのドアに手をかけ、外へと出ていった。これはまずい、俺がオフィスに少女を連れ込んでいたなんて言うことになれば、周りから白い目で見られる...いや、下手をすればくびだ!

「おい、待て!」俺は勢いよく飛び出した。

しかし、そこにはもう少女の姿はなく、その場にいた社員に別の意味で白い目で見られた...

「あっ...えーっと...気にしないいでください...」そう言って俺はオフィスに避難する。

その日の仕事は手につかず、社内に広まった噂で俺は完全に変人扱いされてしまったが、白い目を掻い潜りバグとやらを持って会社を後にした。


俺は冷蔵庫から安い焼酎を取り出すと一気に飲み干す。いつもならこのアルコールが喉を通る感覚に歓喜するのだが、先程の出来事が頭から離れない。俺はバグとやらを乱雑に机に置き、スーツを脱ぎ捨てるとシャワーも浴びずにベッドへ倒れ込んだ..


何やら周りから悲鳴やら怒号が聞こえる。俺は慎重に目を開ける。どういうわけか俺は燃え盛る炎の中心にいるようだ。どうやらかなりの大きさの家屋が燃えているらしい。よくみるとそこには1人の少年が世界の終わりかのような顔をして四つん這いになっている。少年に向かって声を出そうとしたがなぜか喉から音を出すことができない。それだけでなく体も動かない...向こうはこっちに気づいていないらしい。しばらくそんな世紀末のような光景を眺めていると、いきなり少年が叫んだ。

「全部...全部なくなった...オレのせいで...オレがこんなものを持ってきたから!」

そう叫ぶと同時に少年は何かを地面に投げつけた。それは高い金属音を立てながら転がっていった。間違いなく昨日あの女から受け取ったバグだった...しかし、少年が持っていたバグには細かい電子的な線のようなものが張り巡らされており、その線は赤く光っていた。その光はどこか懐かしいような、切ない気持ちになる光だった。

「おい、少年!どうしてそれを持ってるんだ!バグってのはなんなんだ!」この声も音になることはなかった。

どこかの支えていた部分が燃え尽きたのか、ふと上を見上げると木材やらの家屋が火の粉を散らしながら落下して来ていた。咄嗟に目を瞑る...


俺は汗だくでベットの上に飛び起きていた。「夢...だったのか...?」

さっきまでの光景はあまりにも鮮明すぎてとても夢オチで済ませれるようなものではなかった。

ふと机に置いていたバグを見た。それはあの夢で見た時のように赤く不気味に発光していた...

第一章end.

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