来人VS『赫』の鬼②
「まだだ!!」
ボロボロになっても、何度でも立ち上がる。
来人は拳に鎖を纏う。
それはテイテイから伝授された、鎖を扱う拳法――『
『赫』の鬼の拳に、鎖の拳をぶつける。
鎖は回転し、まるでドリルの様に赤い甲殻を打ち砕く。
そして、ボロボロの両手を後方へ伸ばすと、弾かれて地に落ちた二本の剣は来人の手元へと帰って来る。
そして、両の剣を振り下ろす。
「小賢しい真似をッ!!」
『赫』の鬼は自身の腕を剣の形へと変える。
そして、数度の剣と剣の打ち合いの末。
「ぐあああああああ!!!!」
『赫』の鬼は来人の剣を弾き、返しの刃で来人両腕を切り落とす。
「終わりだ」
そして、トドメの一撃を振り下ろそうとした時。
「――終わらせて、堪るかよ」
「――ギリギリ、間に合ったネ」
雑魚を蹴散らしたテイテイとガーネが、助けに来た。
ガーネが『赫』の鬼の剣を受け止め、テイテイがそのがら空きの胴に鎖の拳を叩き込む。
『赫』の鬼はその拳の一撃で吹っ飛ばされ、岩山の壁にその身体を埋める。
「らいたん、まだ立てるネ!?」
「あたり、まえだ……」
来人はゆっくりと立ち上がる。
腕の傷口の隙間から鎖が伸び、それが新たな腕を形作る。
天界でのティルとの戦いで一度見せた、イメージによる肉体の修復。
今回はあの時よりも、より大きく、より強靭な腕。
鎖で構築した腕で、再び剣を握る。
しかし、その刃はもう先程までの激しい戦闘でボロボロだ。
来人は剣に鎖を巻き付け、刃の代わりとする。
『赫』の鬼はまるで堪えていないみたいに、依然立ち上がり、またケタケタと気味悪く笑いながらテイテイの方を見る。
「お仲間が来たかと思えば、ただの人間じゃねぇか」
「――『赫』の鬼、やっと会えたな」
「ああん? 誰だよ。雑魚の事なんかいちいち覚えてねえよ」
両者、激突。
拳と拳、赤い稲妻とマグマ、両者の力を激しくぶつけ合う。
しかし、テイテイがどれだけ強いと言ってもやはり人間だ。
鬼の中でも最強格の『赫』の鬼を相手では、押し負けてしまう。
しかし、それでもテイテイは一人ではない。
「後ろだネ!――『
『赫』の鬼の背後から、ガーネが斬りかかる。
氷を纏った斬撃。
しかし、『赫』の鬼はすぐさまそれに反応し、一瞬の内に片腕を剣の形に変形させて、その斬撃を相殺。
そのままもう片方の手で赤い稲妻を放ち、ガーネを一蹴した。
「てめえら雑魚に用はねえんだよ」
『赫』の鬼が二人を倒し、再び来人に狙いを定める。
しかし――、
「――今だ!!」
テイテイは倒れたまま、全力で大地を殴りつける。
その強烈な振動で、地に散らばっていた無数の“金のリング”が弾き上がる。
それは一番最初に来人が散らしておいた布石。
カンガスという獣人の男から入手した隠し玉――“サブウェポン”だ。
これまでのテイテイとガーネの動きは全て、後ろで準備を整えていた来人の為の
「――『
武器屋のカンガスが選んだサブウェポン、それは元は投擲武器としての用途で造られた
それを『鎖』の
来人はその光輪の輪の隙間から鎖を産み出し、鎖の牢獄を『赫』の鬼の周囲に創り出し、縛り上げる。
「なっ――!? 小癪な真似を――」
そして、来人の鎖の腕は先程よりも巨大化していた。
同じくその手に握る剣の刃に巻き付く鎖も幾重にも重なり、巨大な一本の丸太の様になっている。
巨大な鎖の腕に、巨大な鎖の刃。
テイテイとガーネが作り出した時間で、来人は『赫』の鬼を殺す為の準備を万全に整えていた。
「やめろ、やめろやメロ、ヤメロォォォ!!!」
『赫』の鬼は身体を暴れさせ、抵抗する。
「いいや、ここでお前は終わりだ」
「だネ!」
しかし、光輪から伸びた鎖の上から、テイテイが更に鎖できつく何重にも縛り上げ、ガーネが氷漬けにする。
もう、逃げられない。
「――父さん、僕の欲が何なのか、分かったよ」
最後の攻撃の時、来人は誰にも聞こえないくらいの声で呟く。
「――僕は陸と違って、家族も居て、裕福な良い暮らしもしている。でも、それじゃあ満足出来ないんだ」
来人は親友の秋斗を奪われた。
それは富も、家族も、恋人も、全てを持っていた来人がこれまでの人生の中で唯一失った物だ。
「――僕は、全てが欲しい。たった一つでもこの手から取りこぼす事が、許せない」
“全て”を求める
「秋斗の仇――、お前は、ここで殺す」
振り下ろされる巨大な鎖の刃は回転し、『赫』の鬼の甲殻を砕き、肉を抉り取る。
「グギャアアアアアア!!!!」
ジャリジャリと鎖の擦れる金属音と共に、『赫』の鬼の最後の絶叫が地の色に染まる岩山の世界に木霊する。
宿敵が最後に口にしたのは人の言葉ではなく、鬼の奇怪な鳴き声だった。
『赫』の鬼の核が、ごとりと重い音を立てて落ち、異界の膜がじんわりと溶けて降りて行く。
「――終わったネ」
「来人、やったな」
戦いを終え、来人の元へと駆けて来る二人。
来人の髪色も、白金が抜けて茶へと戻る。
「ガーネ、テイテイ君、ありがとう――」
「おっと」
来人はそう言うと、緊張の糸が切れたみたいにふらりと倒れ、それをテイテイが受け止める。
いつの間には、来人の腕は鎖の鉛色から元の肌色に戻っていた。
「ごめん」
「言っただろ、来人の事は守るって。今度は、親友を失わずに済んだ……」
「ああ、格好良かったよ、親友」
来人は姿勢を立て直し、テイテイと拳を合わせ健闘を称え合う。
幼き頃に親友を殺した『赫』の鬼は来人のその手で殺された。
仇討ちを果たしたのだ。
しかし、親友の秋斗はもう帰って来ない。
復習を果たしても、気持ちは晴れる事は無かった。
全てを求める来人は、満たされない。
(王の力が有れば、秋斗を――)
失った物を、取り戻す。
秋斗を、生き返らせる。
来人は決意を新たに、覇道を突き進む。
中国の百鬼夜行、『赫』の鬼は討たれた。
残すはティルの南極部隊のみ、大異界はあと一つだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます