来人VS『赫』の鬼①

「――総員、周囲の鬼の掃討にかかれ! 俺は親玉を叩く!」

「「うおおおおおお!!!!」」


 天界軍の神々は来人の号令を合図に、進軍を始める。

 そして、来人たちはこの大異界の主であり、秋斗の仇――『あか』の鬼の元へと向かう。


 大異界の主である『あか』の鬼の元へと辿り着くまでに、数多の小鬼の軍勢が来人たちの前に立ち塞がる。

 来人は二本の剣で、そしてガーネは咥えた日本刀で次々と雑魚を薙ぎ払って行く。

 しかし――、

 

「くそう、流石に数が多いな」

「天界軍の数も足りてなくて、処理が追いつていないネ」


 来人が『あか』の鬼と対峙する為に行った情報操作によって、ここ中国部隊に配置された天界軍の数は他の部隊よりも少ない物になっていた。

 それもあって、一匹一匹の強さは大したことの無い小鬼でも群れを成して数の暴力で襲い掛かって来られると、処理が間に合わなくなっている。


「仕方ないな。俺も“奥の手”を使おう」


 そう言ってテイテイは前に出て、首から下げた十字架のアクセサリー、絆の三十字さんじゅうじを握り締める。

 すると、テイテイの周囲の地面が熱を帯び、ボコボコと吹き上がり始めた。


「これは……、溶岩!?」

「これが、俺のもう一つのスキル――怒りに燃え滾る『マグマ』だ」


 テイテイの使う『鎖』のスキルは来人由来の物であり、使用する器のリソースは来人の物だ。

 つまり、理論上はテイテイももう一つのスキルを有する事は可能。

 秋斗を守れなかった弱い自分への怒りがルーツとなり、テイテイの色となる。


「――『炎鎖葬滅えんさそうめつ』!!」


 テイテイは鎖を纏った拳を地面に叩き付ける。

 すると、地面に大きく亀裂が産まれ、そこから『マグマ』が吹き上がり、それと同時に『鎖』も亀裂の隙間から生み出される。

 『マグマ』と『鎖』の二重の嵐が吹き荒れ、テイテイの拳の直線状に居た小鬼は一掃されていった。


「お前、本当に人間だネ?」

「当然だろ、普通の人間だよ」

 

 テイテイは人間であり、波動量も器の大きさも神々には大きく劣る。

 そのはずなのに、自力だけで新たなスキルを構築し、その力を振るって見せた。

 鍛え上げられたテイテイの肉体と精神は、明らかに人間のそれを超越していた。


 しかし、それでも小鬼の軍勢は無限に湧いて来る。

 その上、上空にも翼を生やした鳥の鬼の群れが居て、やはり鬼の数に対して天界軍の数が足りていない。


「俺も『赫』の鬼を一発殴ってやりたかったが、この分だと難しそうだ。俺とガーネで道を切り開く。来人、お前は奴に借りを返しに行け」

「だネ! こいつらを全部やっつけたら、すぐにらいたんに追い付くネ!」

「二人共……。分かった、ありがとう」


 来人は頷き、二人を天界軍の応援に回す。


「ガーネ、行くぞ」

「ネ!」


(来人の為に!)(らいたんの為に!)


「「――『マグマ・ブリザード』!!」」


 テイテイとガーネは『マグマ』と『氷』の相反する二つの力を合わせて自分たちの大将の進む道を切り開き、来人は『赫』の鬼を目指して、真っ直ぐとその二人の作った道を突き進む。


 そして、来人は鎖を使ったワイヤーアクションで鳥の鬼を踏みつけてながら岩山を駆け登り、頂上へ。

 赤黒い血の様な甲殻に覆われた、つるりとした頭部の人型の鬼――『赫』の鬼の元へと辿り着く。

 

「よう、久しぶりだな。と言っても、お前は覚えていないだろうが」


 来人は周囲に『泡沫』のスキルで作り出したバブルを展開し、両手の金色の剣を構えて、臨戦態勢を取る。


「イいヤ、そのハドウ……。覚えているゾ」

「――!!」


 目の前に居る『赫』の鬼が、言葉を喋った。

 その事実に来人は驚いて、一歩後退る。


「ドうした、鬼人きじんを見るのは初めてか?」

 

 『赫』の鬼は少しずつ、流暢に喋り出す。

 

 来人の記憶の中の『赫』の鬼は、喋る事は無かった。

 奇怪な鳴き声を発する怪物だったはずだ。

 つまり、この八年間の間に奴にも変化が起きているという事。


「鬼人……?」

「いつだったか、女の魂を喰ったんだ、そしたらこの通り。頭がすっきりして、気持ちがいい! 最高の気分だ!」


 『赫』の鬼は何が面白いのか、頭部を二つに割る程に裂けた口を大きく開いてケタケタと高らかに笑う。

 

「……お前は、何人殺したんだ」

「さあなァ。生前から数えようとすると、もう指が足りねえよ」


 来人はかっと頭に血が昇り、地を蹴る。

 しかし――、


「おせぇよ、雑魚が」


 『赫』の鬼は人差し指一本を立てて、そこから“赤い稲妻”を放つ。

 その稲妻は来人の肩口を貫き、そのまま来人の身体は後方へと投げ飛ばされ、周囲に来人の持っていた“何か”が散らばる。


「ライジンだったか、あの時はアイツのせいで一番美味そうなお前の魂を喰い損ねたからな。――だが、今回は馬鹿みてえに一人で突っ込んで来やがった。意味が分かんねえが、美味しく頂いてやんよ」


 『赫』の鬼はじゅるりと裂けた口から伸ばした長い舌で舌なめずりをした後、再び指先から赤い稲妻を放つ。

 しかし、今度はその稲妻が来人の元へ届く事は無かった。

 赤い稲妻が来人に届く前に、それは搔き消える。

 

「何だ、そ――」


 『赫』の鬼がそう言いかけた時、今度は“来人の剣先から”赤い稲妻が放たれ、『赫』の鬼の片腕を吹き飛ばす。


 見れば、来人の周囲を漂っていたバブルから鎖が伸び、その先は来人の持つ剣の柄へと繋がっている。

 そして、バブルの中には“赤い稲妻の記憶”が浮き漂っていた。


 それは、来人の器の世界に有った記憶の泡と同じ物だ。

 来人はそこからイメージを膨らませて、“相手の色を記憶するバブル”をスキルとして作り出していた。

 これまで誰にも見せて来なかった来人の奥の手、相手の攻撃を反射する、『泡沫』のスキルの真の力だ。


「――ぶっ殺す」


 『赫』の鬼は怒りに全身の赤い甲殻を更に赤く染め上げ、バチバチと赤い稲妻を全身に纏う。

 吹き飛ばした腕も、ぐちゃぐちゃと蠢く肉塊が生え、すぐに再生。

 

 本気を出した、『赫』の鬼との激闘。

 連続で放射される稲妻、固い甲殻で覆われた拳、激しい攻撃の雨が来人を襲う。


 稲妻を剣で受け、『泡沫』で反射するが、連続で繰り出されてはその全てを返し切れない。

 来人は剣を弾かれ、取りこぼす。

 しかし――、

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