服は欲望でもあります

「ルナは何か欲しい服とかあるのか?」


 この際だからルナの服も足りないものがあれば補充しておきたい。


「いえ、特に補充する必要もないですかね。服が傷んでいるということも、下着がダメになったということもないので大丈夫です」

「そうか。ならいいんだけど、欲しいのがあったら言ってくれよ。買うからさ。それで可愛い姿を俺に見せてくれ」

「はあ」


 ピンときていなさそうだ。でもルナのを買い足す必要は無いということはエレナの服だけになるのか。水着はどうするかな。実は川沿いもすぐに通過してしまったせいで移動中ほとんど水着の出番はなかった。王都に温泉施設があるかは分からないけど、混浴の風呂に入るときのために買っておいてもらうのもアリではあるな。メイド服よりも優先度は高いかもしれないな。でもこんなこと面と向かって提案するわけにもいかない。メイド服を買おうとしていることよりもセクハラになるだろうし、何より変な目で見られてしまいそうだ。ルナはそういう癖も持っているからまだマシではあるのだけど。


 エレナは流石にノーマルだろうし。まさか、女騎士が敵に捕まって何かされそうになっているときに『くっ殺せ』などと言ったはいいが『身体が正直だな』となってすぐに堕ちるような人間ではないと信じたい。容姿、言葉遣い、そして恰好的にはまさしくやられる女騎士のそれでしかないが……。実は色々とちょっと試してみたくもある。しかし、それを試すわけにもいかない。さすがに信頼関係が壊れる可能性があることを躊躇なくできるほど、俺の肝は据わっていない。結局のところ俺は小心者でしかないのだ。


「エレナは必要なもの以外で何か欲しい服とかないのか?」

「そうだな……」


 こういうときには本人の意思を尊重するのが一番だ。


「遠慮はしなくてもいいぞ」


 これをあらかじめ言っておかないと、エレナは遠慮をしてしまいそうだからな。


「軽装が欲しいとは思うな」

「軽装っていうのは例えばどういう感じの?」

「うん、私も常にこの鎧を着ているわけではない。だからこれを鎧を身に着けていない際に、街中を歩き回っても大丈夫な服が欲しい。戦闘で使わないから、そのあたりのことは全く考えていない。だから見つけやすいとは思うのだが、どうだろうか」

「どうだろうかも何も、エレナが欲しいのなら、気に入ったのを買えばいいよ。俺はそれに対しての金を惜しむつもりはないし、それをタネにしてゆすろうともしないから」


 こういっておけば、遠慮して買わないということはないだろう。ネグリジェとかは純白のものが特に似合いそうだから俺からの贈り物として買っておくか。もちろんエレナも買うだろうけど、寝間着が二着、三着とあったところで困るものでもないだろう。


「ご主人様は何か買いたい服とははないのですか?」

「俺か……」


 急に聞かれたけど、考えたこともなかった。確かに俺はどういう服が欲しいんだろう。ジャージのような伸縮性抜群の服があると楽なんだけど、この世界にはないしな。だからと言って、スーツとかタキシードのようなカチッとした服も必要ないし、改めて考えると難しいかも。


「俺は特にないかな。現状、困っていることはないし、予備も何着かあるから」

「そうですか。私的には恰好いいマントとか似合うかもと思ったんですが……」


 マントって……俺をどこかの中二病とかみたいじゃないか。いや待てよ。この世界の人間はそういったものを羽織っていることが多い。羽織るものとして考えれば悪くはないか。あとはデザインだけだな。気に入るものがあれば悪くないかもしれない。ローブのようなものであれば邪魔にもならないだろうし、着合わせによってはいいな。


「気に入ったのがあったら買ってみるよ」

「ご主人様は絶対に羽織るものが似合うと思うので頑張って最高のを探しますね」

「それは何だか面白そうだな」


 エレナまで入ってきたな。というか、お前そういうのに興味とかあったのか。もしかして厨病のきらいがあるのかね。


「エレナはまず自分のを選んでからにしれくれ。優先するのはそっちなんだから」

「えぇーっ」

「えぇーっ、じゃないよ。そんなこと言うなら利子を千%くらいにして返してもらうからな」


 口に出したはいいけど、冷静に考えると利子率千%は恐ろしいな。仮に借りたら、返済時には元金の十倍を利子分として用意しなければならばいって……。利回りであれば相当なハイリターンだけど、借金の利子であれば闇金も真っ青かもしれないな。いや闇金の利子ならあるのか? 知らんけど。


「それで返せなかったら私も奴隷にして言うことを無理やり聞かせて酒池肉林をする気だろう。なんておぞましい」

「ちょっと冗談で言っただけなのに面倒臭いな本当に!」


 エレナも悪乗りをしてくるから大変なのだ。基本的に俺が蒔いた種だし、それをエレナも本気とは受け取っていないからそこまで問題はないのだが。


「ご主人様が酒池肉林の乱交をする姿は見て見たくもありますね。その時には私も乱されてしまいそうですね」


 ルナも悪乗りに乗っかってくる。というかルナは乱れたパーティーをやりたそうなのはどうしてだ。自分の欲望をかなえられるとでも思っているのだろうか。怖いよ俺は。


「さ、さあ服屋に着いたしさっさと買おう」


 話を無理やりそらして服に興味を持っていく。ちょうどいいタイミングで服屋に着いてくれたものだ。ミーティアの速さに感謝したい。


「二人とも好きなものを買うといい。お金のことは本当に気にしなくてもいいからな」

「感謝する」

「私、エレナさんと一緒に見ていますね」


 どうやら女子は二人で見て回るようだ。そうであれば俺はマントを見たり、エレナのメイド服や水着を見ておくことにしよう。いいのがあればいいけど。この店も大きいから品揃えは良いと思うけど、あの女店主のような変態でしかない店員はいないだろうからな。もしあんなのがここにもいたら驚きを通り越して呆れる。この世界の服屋はみんな変態というレッテルを貼ってしまいそうだ。


「いらっしゃいませ」


 店に入って出てきたのは若い女店員だ。この時点で嫌な予感がするのはどうしてだろうか。というかルナの着ている巫女装束を見て目の色を変えたんだが、一体どういう考えに至ったのだろう。金を持っていそうとかそういうことであるほうが気は楽なんだけど。


「あの、私にことを見ているみたいですけど、どうかされたんですか?」

「あ、いえ申し訳ありません。素晴らしい服でついつい見入ってしまいました」


 巫女装束に見入るのは職人ならあり得るからいいか。ルナも少し困惑しているけどどうとも思ってはいなさそうだし。


「済まないが今日は、こっちではなくて、こっちの奴の服を買いに来たんだ」

「左様でございますか。ではこちらへどうぞ」

「うむ」


 あとは任せておけば大丈夫だろう。あ、そうだ店員に耳打ちだけしておこう。


「すまないが、あいつに合ったメイド服を水着もこっそりと見繕っておいてくれると助かる、水着は本人に渡してほしいけど、メイド服は俺に渡してくれ」

「……全力で選ばせていただきます」

「感謝する」


 がっちりと固い握手を交わしてお互いに頷いた。この店員できる……!

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