初報酬の使い道は嬉しいものです
「聞いていなかったんだが、これでどのくらいの報酬になるんだ?」
「報酬か。ちょっと確認してみよう」
依頼書を取り出して三人でのぞき込んだ。
「時間がかかっている割には安いですね」
「正直割安感は否めないな……」
二人が言うこともわかる。薬草十本で銀貨十二枚。薬草一本あたり銀貨一枚で十本集めたことによる報酬が二枚。そしてそれ以降は一本あたり銀貨一枚だ。俺たちは三人で十六本くらいだったから銀貨で十八枚ということになる。これいい店に行かず、酒も飲まないなら夜ご飯を外で三人が食べてることができる金額だ。食費くらいにはなると考えればいいとも言えるし、それしか稼げないとも言えるから安いとも言える。俺的にはこの報酬だからこそ新人のための依頼となっているし、ポーションもそれなりに安い値段で購入することができると考えれば妥当な額と考えている。
「基本的には時間さえかければ誰でもできるからな。特殊な能力はいらないから安く設定されているんだ。今日の食事分くらいにはなりからそれだけで良しよしよう」
「確かにそうだな。初心者用の依頼報酬が高かったらそれはそれでも問題だものな。それに安くても私にとっては冒険者として初報酬だ」
金額でない嬉しさがありそうだ。ルナがこそっと今回の依頼報酬は全てエレナに渡しませんかと提案してきた。なるほどそれは何か粋でいい。そうしよう。
ギルドに戻ってきて、依頼の達成報告をした。その時にエレナからはワクワクとドキドキという擬音が素振りから聞こえてきた。だけど初めての報酬ともなればそういう気持ちになるのも理解できる。何者にも得難い感覚だった。高揚感とも興奮ともまた違う感じだ。
「それではこちらが報酬となります。またよろしくお願いいたします」
受付嬢がカウンターに銀貨を置いた。それをエレナが丁寧に受け取り、袋に詰める。その後、ギルド内にあるテーブルに三人で座った。
「私には配分の相場というものが分からないのだが、今日のはどう配分したらいいのだ?」
配分のために座ったらしい。
「分配の相場に関してはパーティーなた基本的に公平に分配する。一人だけ突出した功績があれば相談しながら配分してく感じだな」
「なら。一人銀貨六枚ずつか」
「いや、今回に関してはいいよ。これは提案してくれたルナに言ってもらおうかな」
ルナに振る。やや唐突だったかもしれないけど、こういうのは提案した張本人が言うべきだろう。別に俺が言っても何ら変わるものではないのだが。
「私が説明したほうがいいんですか?」
「こういうのは発案者が言うのがいいと思うんだ」
そうですかと納得してくれた。
「今回の依頼の報酬は全部エレナさんに渡そうって話をご主人様と私でしていたんです」
「それはどうしてだ?」
「それについては決定したのはご主人様ですので理由の説明はお願いします。それに私ではじ上手に説明できそうにもありませんから」
見事に返されたな。でもその通りとも言える。
「最初の報酬は何にも得難いものだと思うんだ。でもこの依頼を受けたのは俺たちじゃなくてあくまでエレナだろう。俺とルナはそれに少し手を貸しただけだし新人の依頼をこなしたのはエレナなんだ。だからこの依頼の報酬については分配なんかせずにエレナに全額を受け取ってほしい」
「そこまで言うのなら全額もらっておくが……。何だか私ががめているみたいだな」
「そんなことは全く思っていないから安心してくれ。俺に関して言えば現状お金にも困っていないから、そのお金は自分の使いたいことに使ってくれればいいんだ」
何に使ってもいい。
「そうか。なら今晩の夕食代にでもしよう」
「そんな使い道でいいのか?」
確かに金額的には良いくらいだけど、本当にそのような使い方をしていいのだろうか。
「いいんだ。私は二人に拾われてここまで生きてこられた。その感謝の気持ちだよ。もちろんそれで返せるほど安くはないんだがな」
感謝の気持ちということであれば、それを無下にすることはない。ありがたく受け取ることにしよう。
「分かった。今晩はエレナに美味しいご飯をごちそうしてもらおう。な、ルナ」
「楽しみです。そうと決まったら早くエレナさんの服を買って、宿屋を見つけましょう」
あ、受付で紹介してもらうの忘れていたな。
「すまん、二人は外で馬車の準備をして待っていてくれ。俺は宿と服屋のこと聞いてくるから」
「承知しました。では外で待っていますね」
二手に分かれた。先ほどの受付で聞いてみると、馬房のついている宿は商人も多くいる関係でありふれているとのことだった。同様に風呂に関しても大浴場くらいなら整備されている宿は多いとのことだったので安心だ。馬房と温泉があって三人で宿泊することができる宿を紹介してもらった。値段は少し高いとのことだったが、ギルドとしても保障できると言われたので問題はないだろう。服屋はその宿屋から近いらしく、品ぞろえも豊富とのことだった。変態店員がいなければ……いや、案外あんな店員がいたほうが楽しく買い物ができるかもしれない。
外に行くと馬車の準備はもうできていた。
「お待たせ。しっかりと聞いてきたよ。お風呂も馬房もある宿を教えてもらった。服屋も方向は同じだから進もう」
「分かりました」
御者台にはルナが座っていたので、方向を教えて荷台に乗り込む。
「エレナは普段着とかは買うのか?」
「そうだな。今は予備もない状況だから何着かは欲しいな」
「分かった。別に金は俺は出すし、金額のことは気にせずに選んでくれ」
「いやそれは……。いや頼む。必ず返そう」
「そこまで意気込まなくてもいいよ。ゆっくりと返してくれればいいんだ」
別に利子欲しさでやっているわけでもないから、いつだっていいのだ。何なら俺の奢りでも構わないのだが、それはエレナが許しはしないだろう。何というか律義な奴だと思う。
エレナに似合う服を考えてみる。金髪のロングヘアでそれをポニーテールにしている。身長も女性の中では高い方だし、スタイルも抜群だ。さらに顔立ちも凛々しいから、格好いい系の服は似合うだろう。だが俺には一つ着てみて欲しい服がある。それはメイド服。絶対に似合うだろう。そしてメイド服を着てルナと二人で並んでみて欲しい。絶対に素晴らしい光景が待っている。だからメイド服は絶対に購入したいが、問題はそのサイズだ。採寸をしてから、店員にこっそりと伝えてみるかな。俺に渡すように言っておけばエレナに知られることなく、作ることも出来るだろう。
もしメイド服を作って、それがばれたらすごく怒りそうだけど、少しくらいわがままを言っても許してほしいものだ。そうは思っていても、所詮は俺の欲望を満たすためでしかないからエレナが何を言ってきたとしても文句など言えないのだが。
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