王都で最初の依頼です

「早速で申し訳ないのだが、エレナでも受けられる初心者用の依頼はないだろうか」

「今から受けるのか」

「明日の方が良かったかな?」

「いやそういうわけではないのだが……」


 余りにも急すぎたのかもしれないが、こう言っておけば仮に無かったとしても、明日優先的に教えてもらえるかもしれない。それに別に簡単な内容だからと言って以来の数が少ないというわけではないから、今日受けられるのではないかと判断したのだ。


「そうですね。今からでも受けることのできる依頼となりますと、薬草採集になります。具体的な内容はこちらに記載の通りです」


 受付嬢が依頼書を俺たちに差し出した。エレナと二人で除きこんでみると、薬草を十採集してきてほしいという依頼だった。十本以上で追加報酬もあるとことだ。よくある初心者向けの依頼と言ってもいいだろう。本数に感心しても問題はないし、これであれば、すぐに終わらせることも出来るから今日受けても大丈夫だ。


「エレナはいけそうか?」

「問題はないと思うが……」


 エレナさえよければ受ける依頼で、若干不満そうではあるものの、一応は了承をしてくれたのでエレナの初依頼は薬草採集ということになった。受付嬢に受けると言い、手続きをしてもらい、ついでに馬車をどこにおいておけばいいのかを教えてもらった。すると、ギルドの裏に馬房があるからそこで料金を払えば預かってもらえるとのことだったし、荷台についても追加料金を払えば預かってもらえるということだったので、早速預けて三人で初めての冒険に出発する運びになった。馬車を預ける料金は少し高かったが、都市部で駐車場が高いのと同じようなものなのだろうと納得することにした。


「馬車を預ける場所があってよかったですね」

「だな。宿屋によっては預けられる場所もあるそうだからギルドに置いておくのは今後あまりなさそうではあるけどな。きちんとした馬房じゃないと、ミーティアも機嫌を損ねてしまいそうだからきちんとしたのを選ばないといけないだろう」


 ミーティアのことがあるから、宿屋もそれがあるものを選ばないといけないということで、料金も割高になりそうなのでちょっと怖いが仕方がない。こればかりはケチるわけにはいかないからな。ケチッてミーティアの機嫌を損ねてましたら今後荷台を引いてくれなくなるかもしれない。


「それにしての最初の依頼が薬草採集だとは思わなかったな」

「なんだ、不満なのか?」

「不満というわけではないのだが、簡単そうに感じてしまってな。私ならもう少し難易度の高い依頼を受けることができると思っていたからな」


 確かにエレナは強く、戦闘力という点に関してはルナの数倍は強い。だからこの依頼について疑問を持つことは至極当然と言える。


「確かに今日受けるとしたら時間の関係でこれしかなかったというのもその理由ではある」

「それだけではなかったのか」


 やはり時間的なコトしか理解していなかったか。


「今のエレナは冒険者としては雛だ。だからいくら強かったとしても、右も左も分からないと思う。そんな時に冒険者として一番最初の基本的な部分を知らないで進んでいくのは危険だと思うんだ。もちろん、難易度の高い依頼を受けるなとかそういうことを言っているのではなくて、それらと平行して基本的な依頼もキチンと受けて冒険者の仕事というものを知って欲しいんだ」


 これは俺のわがままかもしれないが、それでも最初の一歩は大事にしてほしい。


「そういうことなら承知した」

「千里の道も一歩からだ。エレナが強いことが十分に知っているから着実に階段を上がっていこう」

「うむ……」


 エレナは納得していなさそうだが、いつか理解ってくれる日が来るだろう。俺だって冒険者としての歴が長いわけではないけども。その点はルナも同じかな。


「まあここでうだうだ言っていいても依頼が終わるわけではないから、さっさと行こう」


 依頼書に目をやると珍しくもない薬草だ。俺もこの手の依頼は何回か受けたことがある。あ、ルナは初めてかもしれないな。最初に戦闘を伴う依頼を最初にやったはずだ。でもあれは冒険者というよりも俺の奴隷として、戦闘力を確かめる目的でもあったから、エレナと単純な比較をすることは出来ないじゃな。


「ご主人様、私のことをじっと見ていましたけど、どうかされましたか?」

「いや何でもない。ルナと最初に行った依頼のことを思い出しただけだよ」

「あのゴブリンは強敵だった記憶がありますね。まだそんなに経っていないのにすごく懐かしいです」


 あのゴブリンは確かにあの時のルナにとっては強敵だったに違いない。


「それだけ濃密な日々を過ごしていたということだろう」

「ですね。エレナさんとのこれからの日々も濃厚なものになりそうな気がします」

「そうだと良いな」


 こればかりはエレナ次第とも、これから起こること次第とも言える。いずれにしても俺が予想することなど到底できないということだ。


 薬草採集を行う場所は湖の近くと王都の門を出てからすぐだ。どうやら水辺に生えている薬草らしい。遠い場所でもないので焦る必要はないだろう。エレナも少しは肩の力を抜いてくれるといいのだが。


「薬草を十本採集するだけとは随分と少ないのだな」

「それだけ見つけるのが初心者にとっては難しいということでもあるな。この手の依頼は舐めてかかった新人が全然見つけることが出来なくて失敗することも珍しくはないんだよ。俺も最初は見分けがつかなくて意味不明だったもんなあ」


 懐かしい記憶だ。数か月前の黒歴史に近く、思い出すと笑いしか出てこないが、教訓としては良い例になるだろう。


「さあ俺のことはいいからさっさと規定量集めるぞ」

「分かった」


 三人で手分けして薬草を採集していくが、なかなか十本は集まらない。瞬時に見分けがつくような魔法があればいいのだが、残念なことに俺は持っていないので手作業で確認していくしかない。エレナもやはり苦労しているようだ。ルナは三人の中では一番ペースが速いようだ。田舎育ちだからこういったことには慣れているのかもしれないな。

 三人で手分けしても十本の薬草を集めるのには数時間がかかりそうだ。しかしそれが別に特段遅いということではないのが異世界の現実を突きつけられている気分になる。

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