王都にたどり着きました

「見えてきたぞ、あれが王都、かな?」

「自信なさげに言うんじゃない。あそこまで大きな建造物がたくさん見えるんだ。王都でしかないだろう」

「あれお城ですかね。もう感動です」


 三者三様の反応をしているな。だがちょっと感慨深いものがある。ここまで何日もかかって、やっと王都に着いたのだ。ようやく始まる。俺たちの活躍はこれから始まる。この長い時間でエレナもかなりなじんできて、固さもなくなり、素の部分が出てきた。可愛らしい場面も見て取れるようになってきた。だが服はまだ何着も持っていないから洗濯中には俺の服を着ている。


 王都で補給しないといけないのは食料もそうだが、エレナの服もかなり優先度が高い。食料に関しては補給というよりも美味しい店を探し当てたいというほうが正しいな。


「それじゃ、いざ王都へ行かん!!」

「ですね!」


 ルナが一番ウキウキしているかもしれない。とにかく尻尾が揺れている。いやこれは暴走しているな。もおう尻尾が飛んでいきそうな勢いだ。これは早いうちに王都観光もしないと怒られそうだな。だれか案内してくれる人とか紹介してくれないかな。ギルドではさすがに斡旋してくれないだろうけど、一応聞いみるかな。


「あれは王都の検問ですかね。王都なら結構厳しそうですよね」

「そりゃ王都だから変な奴を入れるわけにもいかないだろうから、厳しめにやっていそうだな」


 もしかしたら出入りする人数が桁違いに多いという理由で、案外警戒がざるかもしれないな。でも身分証くらいは必要だろうな。あれ、身分証か……身分証、身分証ね。今、とんでもないことに気が付いたかもしれない。


「エレナ、一応聞いておきたいんだが、身分証は何か持っていいるのか?」

「あーっ、それはな……」


 視線が泳いでいる。もしかしてコイツ……。


「エレナ、もしかして身分証、持っていないのか?」

「持っていない」


 はい、完全に問題が発覚したな。これは入れるのか分からないな。


「だって仕方ないじゃないか。身分を証明するものなんてあの時に吹き飛んで粉々だ」

「それは仕方ないけどさ、もう少し早く言ってほしかったよ‼」

「だって翔太は今までそんな話しなかったじゃないか。なんであの日数があってこのことにきがつかなかったんだ!?」


 俺とエレナでギャーギャー言い合うが、それだけでは当然、打開策など浮かぶはずもなく、しかし馬車を止めてはいないので、門はどんどんと近づいてくる。衛兵もいるし、時間帯も日中ということがあって、列ができている。


「あの、奴隷のような身分のない人でも街の門を通過することができるので身分証がなくても通れるとは思うのですが……」


 確かにその通りだけど、奴隷と一般人ではちょっと違うのではないか。


「今はそれで行くか。それにエレナが魔物に襲われた結果、荷をすべてなくしたというのも事実でしかないからな」

「それで通れなかったら恥ずかしいんだが」


 エレナは半泣きになっている。こういう時のエレナは可愛いが可愛くて可愛さが飽和して溢れかえるのだ。


「ルナの唱える奴隷でも通れるんだから問題ないんじゃね説を信じるしかないな。それで通れなかったら、ごめんね」

「笑いごとで済まされる話でもなさそうだけどな」

「時間はあるんだからいいんだよ」


 多少時間がかかるだけなら問題などない。


 ギャーギャーと言い合ったが、結局大丈夫だろうという結論に至ったところで列に並ぶことになった。それなりに長いから時間がかかりそうだ。


「結構並んでいますね」

「時間かかりそうだな。ルナの恋焦がれた王都を寸止めされているな」

「なんか、言い方に悪意を感じますけど、そうですね。確かに焦らされているような気分です、ね?」


 なぜ、疑問形と思ったが、それは前を見て納得した。並んではいるけど、すごく流れている。絶対数が多いから、並んでいるだけのようで待ち時間それ自体はほとんどなさそうだ。


「身分証をお願いします」

「俺のコイツの分だ。それからこっちの女の身分証なんだが……」

「魔物に襲われてなくなってしまったんだ」


 衛兵は俺とルナに身分証を返した後で少しお待ちくださいと言い、奥に何か言いに行った。


「大丈夫だろうか」

「大丈夫だろう。衛兵も特別変な顔はしていなかったしな」


 そう言っている間に衛兵は戻ってきた。よく見ると、手に紙を持っている。


「お待たせしました。こちらに名前と必要事項を記入してください。問題がないようでしたら王都に入ることができますので」


 エレナは紙を受け取って名前などの必要事項を記入していき、書き終わったら衛兵に渡した。


「はい問題はないようです。では王都での良い時間をお過ごしください」

「手間かけさせたな」

「いえ、こういったことが私たちの仕事ですので」


 衛兵に謙虚な対応をされて、気持ちよく門を通過することが出来た。


「案外すんなりとは入れたな。びっくりだよ」

「私もあれだけ焦ったのが一瞬であったとしてもすごく恥ずかしいよ」

「俺もだ」


 エレナと反省会を開きたい気分だな。


「これが王都……」

「本当に水にあふれた街だなんだな」

「私の見てきた中で一番、美しい都市だ」

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