語りあいました


 ルナのお仕置きには若干の怖さを感じたところであるが、とりあえず穏便に終わったと言えるだろう。


「本当に大丈夫なのか?」

「問題ないです。ダメでも私への罰ですから受け入れないといけないんです」

「真面目なんだな」


 この真面目さというか、勤勉さというか、ストイックさというか、とにかくこれらには感心させられる。俺も見習う点はありそうだ。


 ゆっくりとしか歩けないルナに合わせて歩くけど、お互いに終始無言だ。気まずいということもないけど、少しけ孤独を感じてしまう。この様子ではあまり話さずに寝てしまいそうだから、エレナと少し話そう。一人はもう勘弁してほしい。人の温もりを覚えた今、俺を止めることなど不可能だ。


「それでは私は先に休みますので……」

「そうか。身体をしっかりと休めろよ」


 元気がないけど、当たり前だ。多分だけど、瞬間的には前に奴隷紋が発動したときよりも、強い痛みが生じていた感じがする。精神的なダメージがあってもおかしくはない。まったく、任意に発動させるにも練習が必要で難しい限りだ。


「終わったのか」

「終わったよ。できるだけ穏便にはしたけど、少し加減をミスったかもしれない」

「まったく、それでよく私には穏便に済ませると言ったものだな。呆れて何か言う気も起きないぞ」


 エレナの指摘も最もだな。甘んじて受け入れるしいかない。


「そしりはいくらでも受けるよ。俺がミスをしたのは絶対的な事実だからな」

「ミスと言っても、一体何をどうミスしたんだ」


 詳しく知りたいのかもしれない。いや、話の流れ的に聞いているだけかな。


「奴隷紋を発動させた」

「奴隷紋だと!? あれは主人に明確な危害を加えたり、裏切ったりしない限り発動しないのではないのか?」


 エレンはどうやら奴隷紋の隠し機能を知らないようだ。奴隷商も知っている人はほとんどいないと言っていたし、当然のことと言える。


「確かにそうなんだけど、実は任意で発動することができるんだよ」

「何、そんなこと初めて聞いたぞ」

「俺も奴隷商から聞いて知ったし、その奴隷商が言うには知っている人もかなり少ないし、任意に奴隷紋を発動させる主人もほとんどいないらしい」


 この世界における奴隷の運用方法は基本的に凄惨の一言に尽きるからな。いや、この世界というのは言い過ぎか。少なくともこの国における運用は、人権というものがきちんと保障されていた国に住んでいた身からするとにわかには信じられない光景が広がっているという。


「信じられんが、奴隷商が証言したことなのだから正しいのだろうな」

「俺もさっき試してみるまで半信半疑だったよ」

「奴隷は基本的に使いつぶすというのが習わし、常識のようなものだから試すものもほとんどいないのだろうな」


 つくづく俺の周りにいた連中はルナが奴隷だからと言って、変なことを言わなかったというのは奇跡に近しいくらいには恵まれていた。これが王都でもあればいいのだけど、そこは運次第とも言えるし、不安ではある。


「エレナもそういう認識を持っているのか」

「持っているかいないかで言えば持っている方に入るだろうな。だがルナはそういう目では見られない」


 価値観を変えることは難しいから別にすぐに改めろなんて押し付けをする気もないけど、どうしてルナにはそんな見方をしていないんだろうか。


「不思議そうにしているな。私の言ったことがそんなに分からないか?」

「正直な。どうしてルナだけ例外的なんだ? いや俺としては歓迎するべきことなんだけど」


 天を見上げて、どうしてかなと言いながら教えてくれた。


「ルナはとてもいい子だから、という理由では浅すぎるし、そんなこと聞きたいわけでもなさそうだな。実を言うと私にも分からんのだが、何というか、私のことを包み込んでくれる気がしているからな。あの包容力は半端じゃない。それについては私よりも翔太の方が知っていそうだがな。お前が買ったときからあんな感じだったのか?」


 包容力か……確かにそれも出ていたな。


「いや俺が買ったときはもう少しやさぐれていた。それなのに数日で今のような感じになったんだよ。どういう気持ちの変化があったのやら」

「きっと感受性も高く、そして敵応能力も高いのだろうな」


 適応能力に関しては考えたこともなかったけど、思い出してみると心当たりがある。あれだけのトラウマがあるはずなのに戦ったりしているし、俺との生活もすぐに慣れた。天性のものということか。


「適応能力の高さについては、思い当たる節がある。神様からもらった能力と言われた方がすっきりするかもな」

「違いない」


 こうして二人でルナが知らないところでルナのことをほめたたえながら夜は更けていく。


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「おはようございますご主人様、エレナさん。あれ何だかお二人とも眠そうですね。」


 気付かれてしまった。あのあと、結構長いことエレナと話をしていた。途中からお酒も多少入れていたので、かなり盛り上がって寝たのは結局深夜だったからエレナともども寝不足である。


「おはよう。眠くはあるけど大丈夫だよ。多分エレナも同じかな」

「その通りだ。私も問題ない」


 ルナを褒めた結果、二人とも寝不足になるというには情けない限りだな。エレナも少し恥ずかしそうだ。幸いなのは酒が残っていないことか。これで昨日でエレナと随分と話しをすることが出来たし、信頼を深めるとまではいかないかもしれないけど、少なくとも信頼できない状態ではなくなっただろう。


「ルナはもう大丈夫なのか?」

「私ですか? 私は元気ですよ。それに欲求不満はまだまだ解消できていないので王都では覚悟しておいてくださいね」


 王都では何らやましいとことをしなくても搾り取られるという表現がまさしく正しいという事態になりそうだな。王都への旅はまだ何日か続くからその間に体力と気力をつけておこう。


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