しばらくは一緒にいることになりました

 そのあとはお茶をすすって飲み終わったら寝た。エレナがどうして圧倒的な強さを求めているのかは分からなかったけど、一緒にいる期間はそれなりにながくなるだろうから、その時に少しずつ分かってくるかもしれない。別に俺が知る必要はないだろうが、それでも真摯にまっすぐに強くなりたいと言っているのだ。協力くらいは俺でもしたくなる。


 朝には素振りをする。エレナは昨日までの疲れが溜まっていたのか、まだまだ夢の中だ。折を見て起こそうとは思うが今はまだいいだろう。素振りをしているときには何も言葉は交わさない。集中力も乱れるし、真剣な時に何かを話すのは間違っている。終わってからエレナのことは話そう。ルナにもきちんと話を通さないと、俺の命が危ういことになりかねない。


「ご主人様、エレナさんのこと、そろそろ起こしますね」


 素振りが終わって食事の準備に取り掛かっているところで寝床にいこうとしている。その前には一応言っておくか。


「ちょっと待ってくれ」

「どうかしたんですか?」


「あのな、昨日、ルナが寝てしまってからエレナと少し話をして王都まで連れて行って欲しいと頼まれたんだ。ルナには事後承諾になってしまって申し訳ないけど、王都まではエレナと一緒に移動することになるけどいいかな?」

「どこまで一緒に行くかまでは想像できませんでしたが、エレナさんの状況的にきっと、しばらく一緒にいることにはなるんだろうと思っていたので大丈夫です。それにエレナさんは信用できる人だと思うので。感覚ですけどね。それじゃ、ちょっと起こしてきますね」


 ルナは思っていた何倍も周囲の状況を見ることが出来ていたということか。エレナとしばらく一緒にいるという結構な重大事項を告げたはずなのに、それを予想していたみたいで、まったく驚いていなかったし。でもまあ、ルナの勘でも信頼できると言っているのだからエレナはきっと人格面では問題のない人間なのだろう。


 昨日話していても人格が歪んでいるとかは感じなかったしな。内面的な部分とかそれこそ、ルナもそうであるように性癖に関してはまったくの未知数ではあるけど。これでもし、大変態だったら手に負えないな。いやいや、俺は朝から何を考えているんだ。これじゃ、ただいやらしい妄想をしているみたいじゃないか。


「……おはよう」

「おはよう。よく眠れたかな」

「おかげさまでな」


 エレナが起きてきた。服は俺のもののままで萌え袖だ。ルナが洗ってくれた服はもう乾いたはずだから、これももうすぐ着替えてしまうのだと思うと寂しい気分になる。


「それならよかった。疲労の方はまだとれていないかもしれないけど、これからゆっくりと、とっていってくれ」

「そうさせてもらおう。安心できる環境なら身体も心も休めることが出来るだろう」


 座ったエレナとルナに朝食の器を渡す。熱々で目が覚める料理だ。


「これも美味いな」

「これは二人で作ったのか?」

「いや昨日もそうだけど、俺がほとんど作っている」


 エレナは目を見開いて驚いている。そんなに驚くことでもないだろう。


「いや、ルナも作っているのかとばかり思っていたから意外だったんだ。他意はない」

「私はあまり料理が上手ではないので……でもご主人様にちょっとずつ教えてもらいますからきちんとした料理も近いうちに作れるようになると思います」

「そう、なのか」


 なぜそこで悲しそうになるのだ。別にそうなる要素、今の会話中になかっただろう。


「ルナ、もしかしたらもう聞いているかもしれないが、私は王都までルナたちの旅に同行させてもらうことになった。よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。私、なんだかお姉ちゃんが出来たみたいですごく嬉しいんですよ」

「そうか。そう言ってもらえるのは嬉しいな」


 ルナにも姉はいたはずだけど、家族を失っているからその寂しさがあったのかもしれないな。


「王都までって言っていましたけど、王都についてからはどうするんですか?」

「稼ぐために冒険者になろうと思っている。そしてまずは王都まで連れて行ってくれた報酬を渡さないといけない」


 ルナが俺の方を向いてジト目で見つめてくる。やめて、そんな顔しないで。俺の何かが削られていくから。


「ご主人様、もしかしてエレナさんからお金をとるつもりなんですか?」

「こういうのはギブアンドテイクだ。報酬云々の約束をして契約の形にしておいた方がお互いに変な疑心暗鬼を生まずに済むんだだよ。別に困っているエレナをゆすって金儲けしようとか、やましいこと考えているわけじゃないから」

「なるほど……。そんな考え方があるんですね。私ももっと知らないといけないことありそうです」


 そこに気が付いてくれたことはいいことだな。昔の偉い人も無知の知と言っている。自らが何も知らないことを知ることが肝要である的な意味らしいが、本当にその通りだと思う。俺にあんな目を向けたことについては何もないのか。


「王都でならもっとたくさんのことを学べるし、知ることもできるだろうさ」

「ですね。それでエレナさんは冒険者になりたいと言っていましたけど、冒険者登録はまだしていないんですか?」

「していない。初心者も初心者だ」


 ギルドも新人冒険者のことは比較的手厚く面倒を見てくれるから大丈夫だとは思うけどな。


「それは大変なことではないですか?」

「昨日、一人で依頼をこなしていくのはお勧めしないと翔太に言われてしまったよ。大人しくパーティーを探さないといけない」


 パーティーを探す手伝いをすることが出来ないのは申し訳ないないと感じるけど、そういった方面の人脈はまるでないのだ。


「ご主人様、私たちは冒険者ですよね」

「そうだな。ルナよ、回りくどいことはいいから何を俺にお願いしようとしているんだ」

「単刀直入に言うと、エレナさんをパーティーに入れてはもらえませんか? 先ほども言いましたけど、信頼できる方だと思いますし、それにちょっと悪い言い方をするとご主人様はエレナさんを借金で縛っているわけなので、それをっ回収できる程度に稼げる冒険者になるまで教育する義務もあるのではないですか?」


 ルナの言うことももっともだな。その観点が俺からはすっぽりと抜け落ちていた、


「俺よりもまずはエレナに聞くのが先だろう。本人不在のまま決めるのはよくないと思うぞ」


 ルナはすぐにエレナの方を向いて聞いている。


「その翔太、もしよかったら私に冒険者としての手ほどきをしてくれないだろうか」


 その妙に艶やかな感じで言わないでもらえるかな。どうしてただお願いをしているだけだというのに色気ムンムンなんだ。


「エレナがいいというのなら、ルナのお願いでもあるし、構わないよ」

「本当か! 感謝してもしきれない」


 エレナは大層喜んでいる。これで期間限定かもしれないが、二人目の仲間が出来たことになるな。もう少し違う出会いをするものかと思っていたけど、人と人はどんな出会い方をするのか全く分からないな。まあ、でもこれでしばらくの間、賑やかになりそうだ。

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