少しは話すことができました
隣に座るとエレナが何かを手に持っていることに気が付いた。そしてそれを噛みしめて見ている。
「それは二人のもの……なのか?」
「そうだ。遺品くらいはと思ってな。これは女の遺品だ。私とずっと一緒にいてくれたのに、もういなくなってしまった」
「二人の亡骸をしかるべき場所に運ぶことができなくて申し訳ない」
このような人は通るとしても、道の側に大切な人の亡骸を埋めてしまうのは、気分のいいものではない。
「いや仕方がないことだ。二人の遺品となるものだけでも回収できたんだ。感謝しかないさ。これから私はどうすべきなのだろうな」
「それは自分で決めることで俺やルナが決めることでもないだろう」
そんな人の道を示せるほど、立派ではないのだ。確たる道を示してくれる人がいるというのなら、それは俺も是非そ話を聞いてみたい。
「そう、だな。私が決めないといけないな。そうだな、確かにその通りだ。だけどな僅かに残った願いも二人が死んだことで実現できるか分からなくなってしまった」
想像以上に思い詰めているな。もしかしなくても、過去に相当なことがあったからこんなところにいるのだろう。もしかしたら心が折れてしまっているのかもしれない。
「エレナが今後どうしていくかなんて決めることは出来ないけど、少し休んでもいいんじゃないか?エレナはきっと今まで頑張りすぎていたんだ。だから今回のことでその張りつめていた糸が切れちゃったんだ。羽を休める期間があってもいいんじゃないかな。きっと沢山頑張らないといけないことなんだろう?」
きっと壮大な願いなのだろう。それは随所から感じられる。ただ誇り高そうなエレナが弱音を見ず知らずの俺に吐露してしまうくらいだからきっと限界なんだと思う。
「それは……そうだな。時間もそして力も必要だ」
「だったら尚更寄り道してもいい。今はその力をつける期間とでも思っておけばいい」
「そう言われても、どうやって休めばいいか分からない」
どうやって休めばいいか分からないときたか。そんなこと俺にだって分からないけど、それでもきっとエレナよりは分かっている自信がある。
「なんだっていいと思う。誰かと美味いもの食ったり、笑いあったりすればいいじゃないかな。その間に、鍛錬をして力をつけて備えるんだ。後はその願いを叶えるために情報を集めるんだ」
「それは確かにそうだな。力を溜めて、情報を得るのは大事なことだ。だが……、一緒にいてくれる人はいなくなってしまった」
俺との会話で戻ってきていたのに、また沈んでしまった。これは完全に言葉を間違えたな。
「一緒にいることは出来なくなってしまっても心でつながっていることはできるだろう。エレナがあの二人にことを覚えている限り、絶対にどこかに残り続ける。それにもしあんたのことを大切に思っていたのなら、死が足枷になることなんて望んでいないはずだぞ」
「そんなものか」
「そんなものだろうさ。俺には死んだ人間のことなんて分からないけどな」
「なんだそれは。適当だな」
エレナはくすっと笑った。初めて笑った。あ、やばい、グラマラスで金髪ロングの美女が笑った。全てを打ち抜かれてしまいそうな破壊力。笑っただけでこれなのか。この月明かりとわずかに発動させている光魔法で照らされていて、神秘性が増しているからか。ああもうまともな思考なんてできない。
「綺麗だ……」
「綺麗……?」
エレナも何を言われたのか理解するのに数秒かかっていた。俺も思わず口に出てしまって驚いているが、エレナのそれはもはやその域ではない。
「な、なにを貴様は言っているのだ!?」
顔を真っ赤にしているし、声にならない声も出している。まさしく、悶絶という言葉がぴったりだ。
「す、すまない。だけどそう思ってしまったんだ。気分を害したのなら謝るから」
「気分など害していない。むしろ……」
むしろの先が知りたいが言わない。
「むしろ?」
「何でもない!」
猛烈に拒否されてしまった。そのまま立ち上がり下に置いた桶を持って馬車の方に走っていく。一体どうしたというのだろうか。
「慌てなくてもいいのに。あ、服渡してないな。このままだと脱いで身体を川で洗ったら着るものがない」
とんでもないことに気が付いてしまったので俺も早く戻って、エレナに着替えの服を渡さなくてはいけないな。
「おいルナ、エレナは川か?」
「はい川で身体を洗うと言っていました」
走って戻り、桶を持っていた慌ててルナに聞いてると、川にいるらしい。これで川に直接行こうものなら大変ありがたい光景と共に三途の川を飛び越えて地獄の門が見えていたことだろう。
「ならちょうどよかった。あいつ服持たずに行ったからこれを渡してきてくれないか。それと洗うのも任せて大丈夫かな?」
「分かりました。洗濯の方もお任せください。さすがに知らない男性の方に自分の衣服を洗ってもらうのは複雑でしょうから」
「助かる。この埋め合わせはまた今度しよう」
ルナの期待に満ちた視線が返ってきたが、そんな期待されても大層なことなど出来ないんだが。いやもしかしなくても、禄でもないこと考えているに違いない。
「一応、言っておくけど、遊びはダメだからな」
「えーっ」
ほらやっぱりそうじゃないか。
「やっぱり淫乱狐の称号があってもいいな」
「何ですかその淫乱狐って! まるで私が変態みたいじゃないですか」
語気を強めるが否定できない明らかな事実を否定しようとするんじゃないよ
「事実だろう。それよりも早く渡してきてくれよ。俺が行ったらマジで命が危ういから」
「あ、そうですね。ご主人様のことは、またきちんと〆て差し上げますから」
そんな怖いこと、いつから言うようになったんだろう。もう少し大人しいかと思っていたのに。奴隷として一度も扱っていないからこうなったのかな。あれ、もしかして俺ルナに舐められているのか? だとしたら由々しき事態だな。何とか打開しないと俺のご主人様としての威厳がないじゃないか。
問題は本当にルナが舐めているのかを確かめる方法だな。今すぐにとまではいかないけど、遊んでいる最中にそれっぽく聞いてみるのが一番確実か。
「服、感謝する。少し大きいがこれも悪くない」
「そうか、ってエレナか」
「なんだ、私では不満か?」
あ、やばっ、完全に油断していた。振り返ると俺の服をきて萌え袖になっているエレナがいて、少しむっとしている。
「いや不満なんてそんなことはない。ただ考えごとをしていただけだ。そんなことはどうでもいいんだが、服は問題なさそうか?」
「ああ、これはこれで新鮮だし大きいことも明日の朝までというのなら問題ない」
萌え袖はもう少し見せてくれと思う。俺のよく見かける感じの萌え袖はルナのようなやつがやることで、凛としているエレナのようなやつがやっていることは中々ない。これが見られただけでも眼福というものだ。
「そうか、問題なさそうならよかった。今夜はゆっくりと眠ると良い。ルナの隣に寝床があるから」
予備の寝袋を出したのだ。きっとエレナは久ぶりに横になって眠ることができるだろう。
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