襲われていた人を助けました
魔物が女に襲いかかっている。剣を抜いて、一気に切りかかる。ルナは倒れかけている女を介抱して後ろの方まで引かせていた。よし、これで存分に戦えるな。
「かかってこいや。全部叩きのめしてやる!」
魔物は俺の声に反応して襲うターゲットを変えて、俺の方に思い切り向かってくる。それをまるごと捌いていく。
「これは……」
魔物たちの下には人がいた。女が逃げられそうなのに逃げてもいなかった理由はこれだったのか。ルナたちの方に一瞬、目を向けると傷の手当てをしている。どうやら戦うことは無理そうだし、兜を脱いだ女は苦悶に満ちた表情をしている。ケガの状態も酷いのだろう。肩や背中からは結構出血しているし、そのような状態になっても、この場に留まるだけの価値が彼らにはあるということだ。詳しい話は後で聞くとしても、ルナが戦闘に参加できないとすると、結構危ないな。魔法までは放つわけにはいかないし……とにかく頑張って全滅させるしかないな。
「これがゴブリンだったら楽だったんだけどなあ……」
いるのはオーガーたちと、それに付随して襲い掛かっているゴブリンだ。大きいし頑丈だから面倒だ。これなら腕が立つような恰好をしていても押されてしまったのも納得できるいうものだ。
「ゴウァァァァ!!!」
吠えているな。でもそんなこと知ったことか。一気に倒していく。何体でも問題なんて絶対に生じさせない。
「ご主人様助太刀します!」
「もういいのか!?」
「意識はあるので大丈夫です!」
ルナが思ったよりも早くこちら側に来たな。これで楽に殲滅できる。サポートがあるのとないのでは大違いだからな。
「援護頼む!」
「お任せください!」
ルナの頼りがいのある声だ。勇ましくて助かるな。これで足元の人たちにのことを配慮しながら戦える。足元からまた魔物たちに目を戻すと、すでにルナが攻撃を始めており、一部がそれに悶えている。その姿はまさしく切ってくださいとお願いされんばかりだ。
「お前の望み通り倒してやるよ」
一太刀でバッサリと切り捨てる。他の魔物も同様に次々に倒していく。言っても三桁の魔物がいるわけではなく、また途中からルナと二人で倒したこともあって、すぐに殲滅は完了した。魔物が完全に停止して倒れていることを確認してから、しゃがんで倒れている人たちを見てみる。
「これは酷いな。ルナはそっちを頼む」
「はい……ですが、この人たち」
もう脈などなく、死んでいるのは確実だった。老人と若い女だったが、二人と胸のあたりを殴打されていた。その衝撃で内臓が破裂してしまい実質的には即死に近かっただろう。殴打の圧力で皮膚が裂けてしまい、背中には大きな穴が開いており、そこからも大量に出血していた。苦しそうな表情をしていたが、せめて安らかに眠ってほしいものだ。
「この二人はきちんと埋葬はしよう」
「その方がいいと思います」
ルナも抱えて起こしていた亡骸を寝かせて、そっと目に手をやって苦痛の表情を柔らかな顔にした。
「それであの女の傷は大丈夫なのか?」
「はい、ひとまずポーションを飲んでもらいましたし、欠損などもなかったので、あとはご主人様の回復魔法で傷口を塞ぐことが出来れば命に問題は起こらないと思います」
「魔法で塞げるくらいの傷だったらいいんだけど」
回復魔法と言ってもそこまで万能ではなくて、ある程度塞げる傷には限界がある。それは俺の魔法の練度が低いこともあって、奇跡と呼べるほどのものは使うことが出来ない。だから塞げなければ本人の自然治癒を待つしかない。消毒用の強い酒足りるかな……。
近くによってみると分かるが、やはりこの女の傷は深い。かなりざっくりとやられている。あの魔物たちはそんな鋭利なものは持っていなかったはずだ……殴打もされている傷もあるけどこっちは骨とかが完全にやられているな。hギリギリ回復魔法で何とかなるかどうかかな。
「大丈夫か」
「申し訳ない。戦わせたうえに治療まで……」
「それはいい。今から回復魔法を使ってみるからじっとしているんだ」
そして魔法を発動させる。傷の範囲も大きいので魔力を多めに込める。魔法陣は俺の下あたりに出てくる。小さな傷ならその傷のあたりや、発動させる俺の手のあたりに現れるが、大きいからそのような場所には現れなかったということか。傷口がふさがっていき、顔を楽になっていくのが見て取れる。どうやら魔法はしっかりと効いたらしい。しかし顔色はまだ悪い。血が不足しているのだろう。残念ながらそこまでは回復させることはできなかったようだ。
「これは……傷がふさがっているな。ここまでしてくれるとは本当に感謝する」
「いや問題はないが、そのだなあの二人は……」
そこまでで女は何を言わんとしているのかを察して唇を噛んで険しい表情になってしまう。そして拳をぐっと握った。
「そうか。いやむしろ亡骸を弔うことが出来るのだから幸運、と言えるのかもしれないな。治療までしてもらって不躾であることは重々承知しているのだが、どうかあの二人の埋葬を手伝ってもらえないだろうか。本当なら亡骸はしかるべき場所に埋めたいが、それは難しいだろう。だからせめて、ここで魂を安らかに眠らせたいのだ」
「分かった。穴を掘ろうか」
三人で二人を埋めるための穴を掘る。火葬して骨を持っていけば、可能だからそうすればいいと思うかもしれないが、この辺りで信仰されている宗教では火葬は絶対NGらしく、土葬が基本らしい。穴は魔法を使えばすぐにできるのかもしれなが、例え知らない人のための墓の穴であったとしても手できちんと掘りたい。スコップのような道具自体は持ってきているので丁寧に掘っていく。女は二人の亡骸を穴の付近に運び、そしてその亡骸を見て、遺品を回収して涙を浮かべている。
「私がふがいないばかりにすまなかった……」
その言葉を聞くだけで胸が締め付けられる。だから一心不乱に穴を掘り進めた。
「掘り終わったぞ。お別れが済んだら二人を休ませてあげよう」
女はうなずいて、立ち上がった。
「もう、大丈夫だ」
三人で亡骸を穴に入れて、土をかぶせた。涙をこらえ切れていなかった女は頬を濡らしていたが、手を休めることはしなかった。気丈な振舞いと言えるだろう。
「重ね重ね感謝する。これであの二人の魂も落ち着いて眠ることが出来るだろう。無念さだって少しは晴れたかもしれない」
「そうだといいな」
気が付けば周囲はすっかり暗くなってきていた。
「あんたはこれからどうするんだ?」
「分からない」
そんなこと考えられないらしい。当然か、いきなり自分と緒にいたと思われる人物が二人も死んだのだ。考えられる状態にあるというほうが異常だろう。
「あの、とりあえず今日は私たちと一緒にいませんか? もう暗くなってきていますし、怪我も完全に治りきっていない状態なのに一人で野営するには危険ですから」
「俺も同じ考えだけど、どうする?」
「……世話になる」
さすがにこんな状態で放りだしてどこかで死体になっていたら目覚めが悪いにもほどがあるからな。ルナだって悲しい気持ちになってしまうだろう。
女もこの夜は一緒にいることになったので馬車のところに戻ると、馬はゆっくりとしていた。あの状況でも逃げ出さず、また暴れずにいてくれたのは本当によかった。ある意味ではズブい馬とも言えるかもな。
「魔物の死骸が近くにあったら他のも呼び寄せてしまうかもしれないから少し先に進もう」
「あれらの魔物の魔石などは回収しなくてもいいのか?」
……忘れていた。まさか仲間を失ったばかりの女に指摘されるとは思わなかったぞ。でも暗くなっているからな。まあ明かりをともして爆速で回収するか。
「そうだな。すっかり忘れていた。助かったよ。馬車だけ近くに持っていこう」
そしてオーガたちの魔石を回収する。素材についてもできるだけ回収して馬車に戻り、少し先まで進んだ。馬車の荷台には俺と女が向き合って座っていたが、言葉を交わすことはなかった。
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