出発して日の出を見ました

 数日はあっという間だった。魔法の練習をしたり、飯を食ったりと休息を満喫していたが、今日ついに出発する。仲間一人だなんて、最初の街を出発する感があってよろしい。あ、そういうときは一人の方が多いのかな。いずれにしてもこれで、俺の異世界における気ままな生活が始まるんだ。


「さあルナ俺たちのあたらしい未来への第一歩だ。あれ、ルナ?」


 ルナは俺をただ冷たい目で見ているだけだ。何かやってしまったか。


「確かに旅で高揚するのも分かりますけど、だからといって日も出ていないのに出発する必要は無かったのではないでしょうか」

「そんなこと言わないでくれよ」

「でも朝ご飯が中々食べられませんよ」


 それは確かに失念していたけど別にいいじゃん。


「日の出とともに朝飯を外で食べたかったんだよ。街でじゃなくてさ、何か綺麗だと思うんだよね。そのために前日のうちに少し用意したんだから」

「そういうことならまあいいですけど……楽しみです」


 チョロいぜ。でも用意をしっかりとしたのは本当だから期待を裏切ることはないだろう。日の出までは時間もあるだろうし、ほのかに明るくなってきている街道をのんびりと進むことにしよう。


「こうみると荷物結構ありますね」

「だな。俺のアイテムボックスにも結構入れたけど、やっぱりすぐに取り出せるというのはそれなりにメリットがあるし、荷物が少なければレアなスキルか道具を持っていることをアピールすることになりかねないからな。大規模な編隊でもないから、そういうので生じるトラブルは避けたい」


 ルナがいる荷台には木箱で何箱かと、布で少し覆ってあるような荷物がある。木箱にはポーションなどの戦闘で必要なものがわんさかと入っている。ここまで買うのかとルナには驚かれたが、備えあれば憂いしの精神で大量に準備した。あとは馬の餌である飼葉も沢山積んでいる。馬がいなきゃこの馬車は引けないからな。多めにしておく必要がある。水も大量に飲むけどそれは魔法で出せるからほとんど持ってきていない。布の中は大体食料とか衣服といった必需品だ。こちらも多くはあるけど、どちらかというと俺のアイテムボックスにたくさん入れている。


「それにしても穏やかですねえ」

「だな。まだ少しくらいからよく見えているわけではないけど、道が必ずしもいいとは限らないから、やっぱり車輪がいいんだな」

「車輪でこんなに変わるなんて驚きです。私が乗ったのことのある馬車はかなりゆれていてそのイメージでいたのでこれは快適ですよ」


 ルナが以前乗ったことのあるものとは雲泥の差らしいが当然と言いたい。幌まで含めた本体と車輪が同じ値段なのだから同じものと思ってもらっては困る。


「いいのにして正解だったな」

「快適な道中になりそうですけど本当に魔物の素材ってすごいんですね」

「魔物の素材も使い方によってはすごいってことか。そうじゃなきゃ、ギルドで高く売れないだろうけどな」


 魔物の素材に感嘆しているが、この馬車をすごいところがそれだけじゃないぞ。もちろん、全ての場にルナも同伴していたから自慢できることなどないが。

 今は俺が御者をやっているのだが、その手綱の下にいる馬も実はかなり良質だ。大きいからパワフルだし、気性も荒くない。それに毛並みも抜群だからきちんとした健康状態であることがうかがえる。これを比較的安く手に入れらたものありがたいものだ。


「お前も褒めてあげないと可哀そうだよな」


 知ってか知らずか嘶いたな。賢い馬だ。


「その馬、本当に綺麗ですよね」

「だよなあ。いくらサービスで負けてくれたと言ってもなんであそこまで安く買えたのか怖いレベルだよ」

「でも気に入らないものは蹴り飛ばすらしいので私たちにとっては気性の荒くない馬でも向こうにとっては超気性難だったのでは?」


 その可能性もあるか。今は気性難じゃないのだから別にいいけど。だけどそれのおかげでこの馬に巡り合えたというのはどこか運命を感じるな。どうもこの世界に来てから運命を感じることが多い。もちろん、未来は自分で切り開いていくものだけど、そういうのって天命による運命というやつも作用しているのではないかと疑うレベルだ。でも俺がなにかをすることはないし、そこまで大それた偉業を成すことも出来ないろう。そもそもそこまではしたくない。


「そうかもしれないな。そしてこの馬はきっとこれから大切なパートナーになってくれるような気がする」

「大切にしたくなるような姿をしていますもんね」


 うんうんと頷く。完全同意でしかない。黒毛の馬体に、顔には大きすぎない流星があり、それが美しさを引き立てている。サラブレッドではないだろうから足の太さや馬体の大きさはよく見るそれとは随分と異なる。ばんえい馬とサラブレッドの中間、いやばんえい馬の方が近いかな。正直、重い荷物を走らないとはいえ引き続けるのだから、足が太い方がケガのリスクも少ないだろう。


「おお、そろそろ日の出みたいだな」

「ですね。何もないから綺麗に見えますよ」

「森の中ではなかなない光景だな。海からの日の出を見ているようだけど、それとも微妙に違う」


 この日の出を拝んだら朝ご飯にしよう。

 日の出自体はあっという間だ。でもその中に趣深さを覚えるのだから、特別視される程度に風情溢るるのも納得だ。これが初日の出であればことさらだろう。そう考えている間に太陽が今日の一日の始まりを告げるために昇ってきて、頭を出した。


「眩しいな」

「でも眩しいことで今日が始まることを教えてくれているんだと思います」

「そういうことにしようか」


 その解釈はなんだかいいな。意思や感情などというものがない太陽も思考を持っているみたいで。

 頭を出してからはあっという間だ。馬車はもう止めて、二人で地面に足を着けて見ている。


「今日も平和だといいですね」

「そのためには朝食だな。少し準備するから、馬に飼葉と水をやって待っていてくれ」


 ルナはすでに準備を進めようとしてくれていたようで、今準備してますと荷台の中から聞こえてきた。俺もさっさと用意しないと何か言われてしまいそうだ。


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