のんびりと進みます
俺が朝食にと用意したのは卵とパン、そして肉だ。肉と言ってもベーコンのような保存食だ。この世界にもさすがに干し肉とか塩漬け以外にも保存食としての肉があるだろうというと思い、この数日の間に見つけて仕入れておいた。高かったけど、味は保障されているに等しい。
スキレットのような鍋にたっぷりの油をひいて、ベーコンもどきと卵を焼いていく。そしてその横で、パンを焼き簡単なスープをつくる。手が込んでいるとも込んでいないともいえるが、旅の道中ということを考えたら、結構贅沢だろう。さすがに鮮度の関係で数日しかできないのが難点か。鶏でも飼ったらいいのかな。
「さあルナできたぞ」
「わぁ美味しそうですね。朝からこんな美味しそうなの食べたら元気いっぱいですね」
「冷めないうちに食べようか」
ちなみにパンにはバターを塗ったから、そのまま食べるも良し、目玉焼きやベーコンを乗せて食べるも良しだ。
「あふっ……おいひいです」
「だから全部飲み込んでから言えよ」
あっつあつだからな。こうなるのも当然ではあるけど、やはり口に入れたままだと、何を言っているか分からないのでやめて欲しいが、ルナにこういうことをしてしまうことを知ってから、これまでにも実は何度か言っているというのに改善の兆しなしだ。粘り強くやっていこう。可愛いとは思うけど、おしとやかさもあってくれるとなんだかいいもんな。
「だって美味しかったので……」
「あとゆっくり食べるんだ。別に食べ物が逃げるわけじゃないんだから」
「はいぃ」
だがルナは食べるのを止めない。少し多くしすぎたかなとも思ったがそれは杞憂で綺麗に完食できた。
「身体も温まりましたね」
「寝起きではないけど、暖かいご飯はやっぱりいいよな」
「そうですね。身体を起こしてくれますよね」
馬を見てみると、飼葉をもしゃもしゃと食っている。俺が近づいて、撫でてもあまり反応はせず、食べ続けている。耳を絞ってはいないので警戒しているというわけではないだろう。そういえば、この世界、色々な種族がいるけど、それらとこういった俺でもよく知っている動物はどこで進化が分岐したのだろう。ちょっと気になるな。
とは言いつつ、そんなこと魔法みたいなよくわからん概念がある世界だから、俺の杓子定規で考えない方が理解しやすいかもしれないな。いずれにしてもこれから先、長い期間この世界で生きていくんだ。知る機会が訪れることを淡く期待しておこう。
「さ、片付けが終わったら出発しよう」
「今日はどれくらいすすめるんでしょうか」
「分からないけど、特に気にする必要もないさ。焦ってもいいことないしな」
旅で焦ってもいいことは何もない。魔物が出てきても、相当な奴でもなければ問題もないだろうし、川沿いも長いから、魚だって釣れるだろう。色々できそうだし、水着を温泉施設で使うのではなくて、きちんと水場で泳ぐという正当な目的で用いる機会だってあるに違いない。
「さ、出発だ」
「はいそれでは行きます」
御者は交代でやることになっている。少し早いけど、ルナがやりたいと言ってせがむから交代したのだ。
「疲れたら言うんだぞ。代わるから」
「なんの、本来こういうことはご主人様の手を煩わせることではないんです。私のような立場の者が行うことですし、それにこの馬の手綱握りたくて」
「本音は最後だな。しばらく堪能するといい。俺はその間、景色を堪能することにするよ」
荷台でくつろぐ。こういう時のために、クッションとかも持ち込んでいる。最低でも座布団のようなものがないと、いくら車輪がよくて快適な乗り心地を実現していても、ケツや腰が大変なことになる。その意味ではベッドのマットレスを持ちこんでも良かったのだが、さすがに場所を取りすぎるということで断念した経緯がある。
「そういえばご主人様」
川沿いに移ろい、そのせせらぎを堪能しているとルナの声がした。どうしたんだろう。
「何か問題か?」
「いえ、ご主人様も私もこの馬のこと、馬としか呼んでいないじゃないですか。何か名前とかあったほうがいいと思うんですけど、どうでしょうか」
「名前か……確かに今のままだと味気ないな。何か候補とかあるのか?」
馬の名前って何がいいんだろう。俺の脳内では馬の名前と言われると、競争馬の名前が出てきてしまうし、それだとちょっとなあ。
「いえ、特にはないです。それに愛を持って接するのなら、よく考えてつけたいですよね」
「だな。今晩、二人でよく考えようか」
「ですね。この子に合う名前を考えましょう」
あれ、そういえばこの馬、牡馬、牝馬のどちら何だろう。それで少し名前も変わってくる気がするけど、なんとなく牡馬な気がするし大丈夫だろう。
「ゆっくりとですね。本当に穏やかです。この前のことが信じられないくらい」
「危険な魔物が闊歩しているような場所でもないしな。街道くらいは安全であって欲しいよ。盗賊とかはいるかもしれないけど」
「ということは魔物はいないんですか?」
ルナよ、さすがにそれは楽観的過ぎるぞ。
「魔物はいるだろう。でも出てくる数が少ないんだよ。魔物に襲われて大変な目に合う商人もいると聞くからいないとは思わな方がいいだろうな。でもさっきも言ったけど、森の中よりは安全だし、魔物も見つけやすい。……さっきまでの平原の街道が続けばな。残念ながら川沿いで街道の隣には森が隣接している以上、さっきよりは危険度が上がっていることは間違いないな」
「綺麗ではあるんですけどね……やっぱり私が捕まったのもこんな感じで森の近くだったので、安全な場所は少ないのは残念です」
ルナの目は悲しそうだ。そもそも治安の関係もあるだろうから、絶対に安全な場所などないだろう。安全で楽しい旅になることを願うばかりである。
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