星空を一緒に見ました

 宿屋に戻り、魔法の練習に関する本を早速開いてみる。これに強くなるヒントがあるのなら何としてでも見つけ出したい。そう思うと集中力も高まる。一方のルナは何かの物語を読んでいる。表紙が幼い子が読むような感じだったから小さいころに読み聞かせられたのだろう。どこか懐かしんでいるようだ。


「そんな簡単に魔力量をかさ上げすることなんてできないよなあ」

「魔力量を上げたいならたくさん魔法を使ったらいいかもしれませんね。体力をつけるために走り込みとかをたくさんするのと同じ理屈だったらですけど」


 たくさん使うか。突飛かもしれなけど、案外正しいかもしれないな。俺の場合、限界まで魔力を使うことがあまりなかったから、感じなかっただけなのかもしれない。その視点で、もう一度本を見てみると、ところどころに疲れても使い続けましょうとの記載があることを確認した。やはりルナの発想は正しいのかもしれない。俺の場合、空っぽになりやすい魔法は何かと聞かれたら転移魔法だな。もしくは特大魔法もあるけど、あんなもの威力が強すぎてホイホイ放っていい代物でもないから実質一択しかねえな。


「今日から魔力を限界まで使って寝るか」

「どうやってですか。というかそんな簡単に魔力を空っぽに……ご主人様ならできそうですね」


 ルナも何を使うのかに気がついいたらしい。普通の人はここまで魔力消費の大っきい魔法を扱えないから出回っていないのかも、だから疲れても打ち続けましょうみたいな書き方になっているもしれないな。さてもう夜だしどこに行って帰ってこようかな。ルナと二人で往復すればいいからな。念のため装備だけは整えておいて……。


「ルナはどこか行きたい場所とかあるかな」

「どこか丘の上とかにはいけないですかね。せっかく夜に出歩くんですから綺麗な夜景が見たいです」


 丘の上、つまりは高台か。ならば近くに小高くなっている場所がある。そこに食べ物とか色々持って行って、星空でも見てみるか。旅をするからそういった景色は珍しくもなんともなくなるけど、でも街の様子までみることが出来る点で異なるし、何より純粋な観覧だからまた趣も異なるだろう。


「一応服装と装備はきちんとしていくぞ」

「ですね。丸腰はさすがに私も怖いです」


 宿屋を出て、適当な食べ物とか飲み物を買い、それらをアイテムボックスに放り込んで建物の裏に行き、人が見ていないことを確認して転移魔法を発動させる。


「相変わらず魔力は結構持っていかれるな」


 この距離では平気な顔して何往復も出来るくらいにはなりたいものだ。今は今から行く丘を往復したらかなりの割合消費されてしまうが、将来的には相当な長距離移動を複数人でいっても問題ない程度には魔力が欲しい。そうすれば作戦にももっと幅は出るだろうし、拠点を作って各地を巡ることも可能だ。


「わっ、すごいいい景色ですよ。街の光も夜空もすごいです」


 息切れしてしまっているが問題はなかった。この前、山奥から帰ってきたときは歩けない寸前だったからそれに比べると魔力消費は甘いということか。ということはもう少し遠くまで行ったほうがよかったということかな。でもこの景色を見たら、そんなわずかな失敗は吹き飛ぶ。


「そうだな。ここまでとは俺も思わなかったよ」


 街が想像の何倍も明るい。火だけでなく、魔法を使っているからか、文明レベルからは考えられない程に明るい。確かに考えてみれば、宿屋でも夜のギルドでも明るかったもんな。電気と同じくらいだった気がする。この世界に来てまで夜景を見ることができるとは思ってもいなかった。本当にいい景色だ。それに今日も月明かりは出ていて綺麗だな。でも……。


「次は月明かりのない新月の時とかに見てみたいな。そうしたらもっと違う星空が見られるだろうな」

「もっとすごいのも気になりますけど、私はこういうのも好きですね。この前、ご主人様が私言ってくださったときと同じくらいの月明かりですから」


 ルナは先日の夜のことを思い出しているようだ。俺は酒も入っていたし、かなり恥ずかしい、歯の浮いたようなことを言った記憶がある。勘弁してほしい。


「そろそろ座ろうか。そのためのさっき食べ物とか飲み物を買ったんだから」

「こんな景色を一人占めにできるなんてすごい贅沢ですね」

「だな」


 これが王都でも出来たら嬉しいな。本来ならば魔力を消費させるために来た。ちょっと目的がそれてしまったけど、こういうのも悪くはない。


「ルナはこの景色を見られてよかったか?」

「そうですね。私は満足しています。もっと色々な街のこういう景色を見てみたいですね」

「俺もだよ。旅をしていくならこういった景色もいっぱい見られるんだろうなあ」


 こういう一つ一つの積み重ねが思い出となっていくんだ。こういう景色は地球でも何度か見たことがあるけど、今日のはそれの何倍だって鮮やかに見える。あの時は隣に誰もいなかった。でも今は隣にルナがいる。見つめると、暖かい飲み物をコップにそそいで渡してくれた。なんだかとても落ち着くことが出来る。


「こういうの見るとさ、人ってのはちっぽけなものだとすごく感じるんだよな」


「大きいですからね。ポケットに収めようと手を伸ばしても絶対に届きませんし、実際すごく大きいんでしょう。私たちが手に入れようとしたり、あれらの輝きを越すことはきっとできないです。でもだからこそ、空に浮かんでいるんだと思います。私たちヒトが手に入れられるものではないと分かっているからこそ雄大な面を私たちに見せてくれているんだと思います」


 スケールが違うからな。まったくもってその通りだよ。ルナの達観した目線には驚かされるな。


「だからこそ俯瞰する時間が大切なんだろうな。こうして一緒にいられる時間を大切にしたいよ」

「……それは私もです。ご主人様ありがとうございます」

「どうした急に」

「言いたくなっただけです」


 ルナの顔は横を向いていたこともあってあまり分からなかった。


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