奴隷商が教えてくれました

「緻密な操作か……俺、苦手なんだけどそれでも可能なのか?」

「訓練次第かと思います。何度もやっていくうちに匙加減がわかってくるようなものですので。ほとんどのお客様はそこまでする必要がなく、またメリットとも特にないということで積極的に挑戦されません」


 だろうな。でも俺はルナとの快適な生活をするためには必須なんだ。絶対に会得しよう。


「それで方法は?」

「方法、それ自体は非常に簡単でして、奴隷紋に直接触れて魔力を流すころで発動できます。またこの時流す魔力の強さで威力が変わります。もう一つは魔力を込めて念じることです。これならば遠くからでも発動させることが可能ですが、前者よりも正確な魔力操作が求められます。どちらが良いかはご自身で確かめられるのがよろしいかと思いますな」

「なるほどな。思いのほか簡単だ」


 ここまで簡単にできるのなら広まらないのにはそれなりに理由があるのだろう。いくら奴隷の命が軽いと言っても、俺たちのような嗜好性で同様のことを望んでもおかしくはないと思うが。


「ここまで簡単だというのになぜ広まっていないんだ」

「……必要がないからです。仮に性的嗜好で奴隷紋を使うにしてももっと恋率の良い楽なやり方があるということです。皆さまそちらで満足されますし、奴隷紋を使ってなぶりたいというお客様は基本的にそれ以外の嗜好も過激なものがありますので……」

「いや怖いな!」


 この世界の住人は俺の思っていた以上に、大変態でした。恐ろしい世界だな。過激すぎるがゆえに、奴隷紋で行うということに対しての需要がないということか。確かに緻密さは求めらるだろうが、そういうことならほとんどの人が興味を示さないのも納得だな。つまり俺とルナはこの世界における特殊性癖ということになるのか、いや特殊というか、まだまだ穏やかな嗜好をしているというべきか。というか、過激なことを望む人が多いのなら、そういうのに使う拘束具のような商品も充実してそうではあるな。


「奴隷を性的なことでお使いになる方は過激な方が大半ですからな。特に貴族や軍人のような身分の高い方々程その傾向が強いですな。お客様のように大切にされている方の方が稀です。私もなかなかいらっしゃらないタイプのお客様を見ていると飽きませんで、これからも当商会をひいきにしていただき、たくさんの奴隷を購入いただきたいですな」


 営業してきたぞ。そこら辺はやはり商売人ということか。でも、奴隷を買うのなら確かにこの奴隷商がいい。怪しさはマックスだが会長というこの男も親切ではあるしな。


「俺たちはもうすぐ王都に行こうと思っているのだが、王都にも支店はあるのか?」

「王都ですか。残念ながら、こちらの本店ほどの規模ではありませんが、愚息が取りしきっています。王都で検討なされる際にはどうぞよろしくお願いいたします。せっかくですので紹介状を私の名前で出しておきましょう。それを見せれば、王都の支店でもよい奴隷が見つかることでしょう」


 何だか至れり尽くせりだな。そんなに俺は上客だっただろうか。


「おや不思議な顔をしておられますね。なぜ私がここまでするのか分からないと。結論から申し上げると、商人としての勘ですよ。お客様は何か大きなことをされるだろうと感じるのです。ですのでパイプを作っておきたいということもあります。それ以外にも私が個人的に気になるからですな。私に存分に面白いものを見せてください。期待していますよ」


 そう言って紹介状の入った封筒を渡してくる。蝋で封がなされている封筒など初めてだな。こうなっていたんだ。見慣れないものだから興味はあるが、封をされているのだから開けないのが常識だ。この封蝋、自分でもやってみたいな。


「その期待に沿えるかは分からないが、せいぜい努力はするよ。それからもう一つ。ここに拘束をするための道具は売っているのか。もしなければ、それがある店を教えてほしんだ」

「お客様も過激ではないとは言え、好きな方ですからね。そういったものに対する欲求があること理解しております」


 いや、理解される必要は無いんだが。というか、いい年した大人に言われると恥ずかしさの方が勝るぞ。


「いや……うん。そうだな」

「ええ、ですからお任せください。当商会ではそういった需要を満たすための専門店をご用意しております。場所はこの建物の隣でございます。明らかにそのような雰囲気の店に仕立ててありますのですぐに分かるかと思います。ああ、王都にもございますのでご安心ください。商品流通の関係で王都の店舗の方が品数が多いのですが、ここでも相当数取り揃えておりますのでお客様の欲求を満たすための道具もあるかと思います」

「マジか。それは助かるな」


 奴隷商がSMショップみたいなのまで運営しているってこの世界で奴隷を買うのは大変態しかいなということなのか。もしそうなら最初、ルナが嫌がっていた理由も納得ではあるけど。今となってはルナの方がヤバい癖を開花させそうではあるけど。一緒に……うん、行きたそうだな。奴隷商から専門店の話が出たあたりから尻尾のあたりがどうも騒がしかったからな。


「そうか助かったよ。礼を言う」

「いえいえ、問題ございませんとも。今後、奴隷をお求めの際に当商会を利用していただくためと思えば何でもありません」


 営業スマイルを見せてくるが、うさん臭さマックスになるなそれ。


「さ、ルナ行こうか」

「は、はいぃ」


 暴れる尻尾をどうにかしようとするルナだ。しかしどうやら諦めたらしい。そりゃ自分の感情で動いているのだから制御は難しいだろうな。


「奴隷商はすぐに分かる雰囲気とは言っていたけど、本当に分かりやすく、それっぽい雰囲気が出ているな。驚きを通り越してもはや呆れるよ」

「ご主人様、早く入りましょうよ」


 ルナはうっきうきだな。この店、全体的に暗い外観をしているし、看板は大きいが扉は小さい。しかし中は明るい。そんな人が寄り付かなさそうな感じなのに、人がたくさんいる。マジでこの世界変態じゃないかと思い、よく見てみると、どうも衛兵などもいる。もしかしてそういった人間が使う拘束具も売っているのか。だとしたら相当に手広いな、あの奴隷商は。


「たくさんありますよ」

「好きなのえらぶといい。俺も色々探すから」


 ルナといったん分かれて好きなものを買うことにしよう。俺も自制のための道具とか、鞭とか、一応縄とかも欲しいし、それ以外にもたくさんあるだろう。アイテムボックスがあるか宿屋に大っぴらに持ち替えることもないし、多少なら買いすぎても問題などないのだよ。そういえばローションとかあるのかな。そういう系の奴があってもいいんだけど……。


「本当にたくさんあるな」


 見渡す限り、パラダイスみたいな空間が広がっている。ここまでのものをよくも取りそろえたものだ。これよりも品ぞろえが豊富な王都の店ってどんななのか気になるな。着いたら行ってみるか。


「ご主人様、欲しいものが多すぎますよ」


 ルナが泣きついてきた。どうやら持ちきれなくなったようだ。こいつ、ここまで欲しいのか。


「これもうお会計済ませたのでアイテムボックスにお願いします」

「分かった……」


 もう会計をしていたし、お金の使い方に困っていたけど、使い道をどうこう言うつもりもないけど、これで本当によかったの!?

 ルナはその後もかなりご機嫌でかなりの量を買っていた。かくいう俺もルナには負けるが相当量買ってみた。なんだか同じような商品でもいくつか色違いを買ってみたりと無駄な感じもするが別にいいだろう。鞭だって1本や2本じゃないし。


 とにかくいい買い物ができたことは絶対的な事実だ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る