ギルマスと話を付けました

「とても安全な夜だったな」

「ですね。健全ではあったと思います。それに尻尾も髪の毛もすっごくつやつやです。ご主人様の髪もさらさらになっていますね」

「まあルナと同じことをしたらそうなるだろうな。軽くて確かにいいけどな」


 昨日の夜はどういうわけか、俺も髪の毛の手入れをした。別にいいとは言いたのだが、ルナがやりたがったから好きにしろという感じでしてもらったのだ。正直、サラサラな髪も悪くない。


「気に入ってもらって何よりです」

「ありがとう。俺も髪のことはもう少し気を遣うことにしてみるよ」


 美意識とまでは言わないけど、少しいい商品を探してみよう。王都ならたくさんありそうだし今から楽しみが増えたな。


「さて、今日はギルドに行ってから奴隷商に行くから。最後に武器屋で昨日受け取れなかった武器を受け取ろう」

「今日も盛りだくさんになりそうですね」


 話しがトントン拍子に進めばそこまで時間がかかることでもないだろう。


「パパっと済ませたいな」


 ギルドは時間もあって盛況だった。今回はギルマスに話を通しておくべきだと感じたので、受付でそのように手配してもらった。受付も俺が旅に出ようとしていることを伝えると、それは絶対にギルマスに伝えなければならない情報であると言ってくれたのも幸いして時間はかからなかった。そもそもまだルナのギルドカードも受け取っていない。本来ならこれは昨日のうちに行くべきだったのかもしれないな。


「失礼します」

「翔太か。それで何の用かを聞く前に渡しておこう。先日言っていたギルドカードが完成した。これでルナも立派な冒険者ということになる。しっかりとその役目を果たしてくれ」


 最初に渡してくれた。ルナは自分のためのカードに嬉しさを爆発させてぴょんぴょんと飛び跳ねてしまいそうだ。


「そんな喜んでくれるのなら作った甲斐もあるというものだね。それで今日、私のところに来たのはカードを受け取るためではないのだろう?」

「ええ、単刀直入に言うと、実は旅をしてみようと思っているんです」

「この街を出ていきたいということか」

「その通りです。俺の立場なら、このことをギルマスに直接伝えるのが筋かと思いまして」


 ギルマスは目を見開いている。どうやらかなり衝撃を持って受け止めたようだ


「お前も冒険者である以上、私が止める権利などないことも重々承知しているがこの街にもう少しいてくれんか」

「俺もこの街だけでなく、様々な場所を見てみたいと思ったんです」


 ギルマスは息をふーっと吐きだした。


「そういうことならば、引き留めることはできないが、魔物の件はどうするんだ」

「そうですね。旅をするので情報自体は集まりやすくなるとは思います。俺も道中や王都で知った情報があればギルドを通じてこの街に送るように手配してもらうつもりです」

「それをきちんとしてくれるというのなら、情報源が複数になって精度を高められるしありがたい話だな」


 それから、とギルマスは続けた。


「先日の一件で貴族からとやかく言われる、というより直接礼を言うために招かれる可能性が高いという話だ。せめてそれが確定してからでも遅くはないのではないかな」


 貴族って……面倒な匂いしかないな。


「貴族とはあまりかかわりたくないです。だからそういうのは断ろうかなと思っていたんですよ。なので旅に出るという事情があるので断りやすくてちょうどいいですね」

「やむをえないな。私が何とかしておこう。それで目的地などは決まっているのかね?」

「最初は王都にでも行くつもりで今、準備を進めています」


 ギルマスは、王都かと呟いた。何か王都にあるのだろうか。経験豊富な人だろうし、かつて王都にいたことがあっても不思議はないけど。


「王都ならギルドも大きい。この街でトップ冒険者の翔太でも埋もれてしまうかもしれないな。きちんと鍛錬して埋もれないようにな。それから冒険者ランクも上げよう。これはこの前、そこのルナのギルドカードについて話をしていたからすっかり忘れていたのだが、さすがにあれだけの活躍をしたのだ。ランクを上げなければ不自然となってしまう。おめでとう。君は登録して僅か数か月で名実ともにこの街で一番の冒険者になったと言っても問題なくなったな」

「……ありがとございます。なんだかそう考えると信じられないですね」


 この数か月淡々と依頼をこなし続けていただけなので、ここまで早くランクが上がっていくとは思ってもみなかった。人生何があるかわからないものだな。


「翔太の強さ故だな。それから頭の方も問題ないからこそ、ここまで早くランクを上げることが出来たのだ。まさに前世の積み重ねといったところだな」

「何が役に立つかわからないですね」

「人生などそういうものだよ。翔太よりも少しだけ長く生きている者の言葉として覚えておくといい。この先、どこに行くとしても鍛錬と敬意は忘れるなよ。それらはどこかでつながっておるのだ」

「覚えておきます」


 それらから得るものはきっと、俺の助けになってくれるだろう。



「ギルドカードを変更するから帰るときに受け取ると良い。カード自体はすぐに更新できるからな。それからいつに出発するのだ?

「馬車や物資のこともあるので最低でもあと数日はかかると思います」

「そうか、あと数日か。この街をしっかりと堪能しておくといい。思い出というのはいくつになっても鮮やかなものだからな」


 驚いた。ギルマスもそんな感傷に浸ることがあるんだ。



「ではしっかりと過ごすのだぞ。翔太と出会えたことは幸運だった。礼をいう」

「俺もです。色々とお世話になりました」

「達者でな」


 ギルマスにお礼を言って、部屋を出て受付でギルドカードを更新した。


「なんだか色が変わりましたね。それに私のとは随分と違います」

「ルナは登録したてだから一番下のランクなんだ。それを示しているのがカードの色」

「そういう仕組みなんですね。なら、最高の冒険者のカードの色は何になるんですか?」

「冒険者は強くなっていくごとにカードの色は煌びやかになっていく。このカードや前のカードのようにな」


 俺のカードを見せてルナに説明を続ける。


「でも最高位のカードになると黒になるらしい。理由は不明だけど黒というのが最高位を表しているらしい」

「黒、ですか。意外な色ですね」

「だよな。俺も初めて聞いた時は何度か聞き返したよ」


 どこのクレジットカードだよと思わなくもない。


「その冒険者カードが黒になっている方はどれくらいいるのでしょうか」

「世界で何人かのみという噂だな。少なくともこの国にはいないらしいぞ」


 もはや伝説級の存在といったほうがいい。黒どころか、その一個前の色でも指で数えられる程度しかいないのに。


「そのうち見てみたいです」

「色々なところにいこうとしているんだ。見る機会があるかもしれないな」


 俺も正直見てみたいものだ。その黒いカードを持った冒険者に。




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