二人で温泉に入りました②
「あ、ご主人様、待っていました」
「早いな。おお、その水着やっぱり似合っているな」
「ありがとうございます。なんだか癪ですけど、あの服屋さんの店員さんは腕と見る目は一流みたいです。なんか癪ではありますけど」
癪という言葉を二度も言ったぞ。マジで一回目に何をされたんだ。いや、大方想像は出来るけどさ。
「まあいいじゃないか。似合っているのは本当なんだから今はそれで納めておこう。実害があったわけでもないんだろう?」
「実害はなかったですけど、なんだか尊厳を少し壊された気分でした」
「はは……」
奴隷という身分に堕とされて、これ以上ないほど尊厳を破壊されていると言ってもいいルナがそんなこと言うなんてちょっと怖いぞ、あの女店主。逆に何したのか聞いてみたくなってきたな。
「でも、最後に言ってくれた言葉は嬉しかったかもです。最初はピンと来ていなかったんですけど、徐々にそれが実感を持ってきているんです」
「へえ、あの店主がかけてくれた言葉か。どんなこと言ってもらったんだ」
店を出るときに何かルナに言っていることは知っているけど、きっとそれのことなんだろうな。
「秘密です」
満面の笑みで拒否されてしまった。
「女の秘密はとっても重いんですよ」
口に指をあてて、笑って俺に言ってくる。それなら仕方がない。諦めるとするかな。これ以上乙女の秘密に立ち入るのも無粋というものだろう。
「そうだ、ここ露天風呂もあるらしいから行ってみようか」
「そんなものもあるんですか!? 凄いですね。ここ気に入っちゃいそうです」
「来たかいがあったな」
ルナの尻尾がぶんぶんと動いている。随分と喜んでいる証拠だ。水気を吸って少し重そうになっているがそれもまた一興だ。
「おお、外は風が吹いていて少し冷えるな」
まだ夏には早い。昼間は半袖でまったく問題ない時期だ。ほぼ裸で、しかも濡れた状態で外に出れば冷えるのは道理だ。
「早く入りましょう。あ、見てくださいこれ」
ルナは看板を指さしている。
「へえ、ここの温泉の効能が書いてあるんだな。肩こり腰痛に……」
何だかよくある効能だな。湯治という言葉もあるくらいだし、それだけ温泉は身体にいいということなのだろう。
「ゆっくりつかれば身体はぽかぽかだな。それで転移で宿屋に帰れば持続したまま寝ることができそうだな」
「えっ……今日は何もしないんですか」
昨日のあれをまたしたいというのかルナは。あれは何度もしていいことでもないだろうに。
「ああ、あれか。あんまり声を出し過ぎると、隣の部屋にいるやつの嫉妬を買いそうで怖いから時々にしような」
「えーっ……」
こういう反応になるのか。旅の途中にはあまり遊ぶことはできない、こともないか。おれの防御魔法もあるし意外といけるのかな。
「まあまあ、これからする機会なんて星の数ほどあると思うし、それにたまにやる方が欲求をより解放できるからもっと気持ちよくなれるんじゃないのかな」
「そういうことならまあいいですけど。今度はもっとすごいのしてくださいね」
ますますプライベートな空間がほしいな。それに明日にでも奴隷紋の発動を調整できないか聞きに行こう。できなかったら俺の方が色々な意味で持たないかもしれない。俺にだって性欲はあるのだから。もちろん、俺の趣味でやっているから性欲が満たされる一要素たり得ることは間違いない。しかしだ、俺のオレは残念ながら、それだけでは満足できない。
ルナとそういうことをやればいいじゃないかといえばそういうことではない。勢いでやっていいことではないと思うし、冒険者としてしばらくやっていく以上は対策もしないとだめだ。なにより、ルナの年齢が問題だろう。もう少しだけ年齢はないともしもの時に危ない気がするんだな。どうしようマジで……。
「期待に沿えるようにはするよ」
そう答えるのが精一杯だ。
「それにしても露天風呂は気持ちいいな。これで満天の星空が見えれば言うことなしなんだけどな」
露骨なまでの話題転換をしてみる。これ以上、遊びに関しての話題を続けたら、墓穴を掘って事後処理が大変になる未来しか見えないからな。
「ですねえ。でも私はこれでもすごく満足です。もちろん、星空が見えたら綺麗だとは思うんです。でも私はご主人様とこういう風に一緒に居られて、思い出を作れたということだけで満足なんです」
「ルナ……」
良いこと言ってくれるじゃないか。そんなこと言われたら泣いちゃうじゃないか。
「何で泣きそうになっているんですか」
「なんだか、嬉しくてさ」
これ以上何かを言われる前に出ようかな。時間的には十分入っているし……だけど、ルナを見たらもう少し入っていたそうにしているんだよなあ。ルナが満足して健康を害さない程度に入っているか。身体が温まるには間違いないし。
「そういえばずっと気になっていたんですけど」
「どうした」
「ご主人様って剣をメインにして戦っているのに凄くきれいな身体をしているんですね。剣を使う方は敵と近接戦闘をしているのでもっと体中傷だらけなのかとばかり思っていたので意外です」
そういえば綺麗な身体をしているのかもしれないな。裸を見せたのはなんだかんだこれが初めてだっただろうし。
「他の奴がどうなのかは知らないけど、俺の場合は傷を負うような状況にはまだ陥っていないしな。それに回復魔法も使えるから傷がないのかもしれない。ルナだって、傷が出来たら絶対に治すから」
「ご主人様って本当に万能型ですよね。攻撃魔法に関しては特化型ですけど」
確かに万能型ではあるけど、それは俺に才能があったからではなくて、神様にそうしてもらっただけだ。
「万能型ではあるな。でもこの前の一件でわかった。俺はもっと強くなりたいかな。魔力量ももっと増やしたい」
「私も強くなりたいです」
「そうか」
ルナも強くなりたいと思っているんだ。
「でも一つ気になるんですけど、魔力ってどうやったら増えるんでしょうか」
「俺も良く知らないんだよな。調べてみないことには何とも言えないよ」
俺もよく知らない。魔力を伸ばす方法の定番としてはすっからかんになるまで使うことを繰り返すということだが、それは幼少期にやっているようなことな印象がある。まだまだ知らないことはたくさんあるみたいだな。
「お互いに頑張ろうか。でも今はちょっと休息だな」
「ですね。私もご主人様の力になれるように頑張りたいです。ずっと横にいるために」
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