大金の使い道を決めました

「でも結局あの金額の使いみちは決められないな」

「あのような大金です。急いで決めなくてもいいのではないですか?」


 今は宿屋に戻ってきた。どこか違うところで食べることも考えたが、どうもルナがこの宿屋の飯をいたく気に入ったようで、ここがいいと言ってきたのだ。もっといい所で食べるのもいいかと思ったが、そういうことなら別にいいだろう。


「それもそうか。別に持ち歩くわけでもないし」

「そうですよ。まあ私ももらったお金の使い道がわからないんですけど……」


 ルナも自分が受け取った金の使い道に困っているようだ。買いたいものとかはたくさんあると思うが、金額が大きくてよくわからなくなっているのかもしれない。俺と同じだ、


「好きなことに使えばいいさ。今すぐに使わなくたっていいんだから。それとこれからはルナにも報酬の一部が分配されるようにしておくから金が増えていくぞ。使い道がないといってため込むのもいいけど適時使っていくんだぞ」

「え? そんな、ダメですよ。奴隷の持ち物はすべて主人が所有するという決まりらしいので。さすがに私も国に逆らうことはできないです……」


 国の決まりを知っているとは。これは奴隷商でそう教わったのかな。でもそれも関係ないし、抜け道位はあるだろう。


「だったらルナに渡す金は主人である俺のものだが、それは奴隷であるルナの采配によって使用可能な金ということだな。別に小遣いとか、お使いで渡すのと変わらないからセーフだ。あ、屁理屈とかそういうことはなしな。それとこれは決定事項だから変わらないし、変えないからそのつもりでよろしく」

「……自由に使えるお金が欲しかったのは事実なので嬉しいです。ありがとうございます」


 ルナも諦めたらしい。というか、何を言われても曲げるつもりはないので素直に受け入れてくれたことは手間が省けて助かる。


「ご主人様、明日は何するんですか?」

「明日か、考えていなかったな。でも魔物の魔石と素材の回収はもう十分だし、休みにしようか。あれほどの激闘のあとだ。休暇をとったって誰も文句は言わないさ」

「やった。嬉しいです」


 ルナも数日振りの休日を歓迎しているようだ。休日なら何しようかな。武器の手入れして買い物行って、うーん色々できそうだな。街をフラフラしてもいいだろう。でもなるべく、ルナの行きたいところに行こうかな。


「明日どこ行きたいのか考えておくんだぞ」

「ふぁい!」

「口に何かいれたまま返事をするな。全部飲み込んでから言え!」


 元気な返事だ。だが、何かを口に入れたまま返事はするなよ。行儀悪いじゃないか。


「はーい……」


 何だろう。さっきと同じで『はい』としか言っていないのに、後者はすごく不満を感じる。そんなに不満かいルナさんや。


 そういえば、ルナと俺は不思議な関係性になっていはいるけど、どうしてルナを、というか奴隷を買おうとしたんだったかを最近のドタバタで忘れていた。そうだ俺は旅というか、色々なところを回ってみたくて、でもそれが一人だと寂しいから仲間が欲しいなと思って奴隷を買う結論に至ったんだ。


 なら、色々懸念事項があるとは言え、俺は冒険者だ。フットワークの軽さこそ冒険者の醍醐味じゃないか。ここいらでルナと色々なところに行ってみるのもいいだろう。もちろんギルマスとかに話を通しておかないと後々軋轢とか生みそうだけど。となると、今回得た大金の使い道は決まったな。


「ルナ、金の使い道が決まった」

「それは何ですか?」

「旅の準備に使うんだ!」


 ルナはなんだか表情が引きつっている。何言っているんだコイツと口にこそ出していないが、そう思っているのが明白じゃないか。失礼な……俺だって考えなしにこんなことを言っているんじゃないんだぞ。まあ、やや突発的であった点は否定できないけれど。


「旅、ですか。私に反対する権利はありませんけど、どこに行くんですか?」

「目的、というか特定の場所に行きたいとかはない。実は色々なところに行きたいとずっと思っていたんだ。そもそもルナを買った当初の目的も旅の連れにしようとしてだからな。その目的を実行しようとしている過ぎない」

「はぁ。でもどこに行くのかくらいは決めておいた方がいいんじゃないですか?」

「確かにそれもそうだな。うーん、とりあえず大きな街に行ってみたい。ルナはどこか心当たりあるか?」


 ルナはうーんと考え込んでいる。俺のわがままで悩ませるのは申し訳ないが、この街以外の街というか場所を俺はほとんど知らないからこの世界で生まれて育ったルナの知恵を借りたいのだ。それに一度大きな都市にでも行ってみて観光でもいいし、そこを拠点にするでもいいからしばらく滞在したい。別に冒険者ギルド自体はどこでもあるから仕事に困ることはないだろう。


「大きな街ということなら王都はどうでしょうか。都ですし大きいと思います。それに色々なものも売っているはずですし、魔物の大群のついても王都は国の中心地なので情報が集まりやすいでしょう。


 それに私も色々なところ行ってみたいですけど、小さなころにお母さんに読んでもらった物語の中に王都が出てくるんです。だからそれを見てみたいかもです」

「なら最初の行き先は王都にしよう」


 行き先は決まったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る