奴隷でもギルドに登録できました

「ここにいるルナにもギルドの登録をしてはくれませんか?」

「ふむ、奴隷をギルドに登録か」

「もしそれが難しいのなら口座だけでも開くことはできないでしょうか」


 ギルマスは腕を組んで目を閉じている。やはり難しいか。


「奴隷のこの国における扱いを知っているのであれば翔太の言っていることが難しいということは承知しているところだろう。それでも作りたいというのかね」

「はい」


 ルナのためにもその方がいい気がする。いや、俺のエゴでしかないなのかもしれないけど、でもルナにも登録してランクを上げて欲しいのだ。しかしギルマスは難しい顔を崩さない。


「やはり無理ですか……」


 ギルマスがあまりにも無言なので作ることは不可能だろうと感じ、部屋を出るために立ち上がった。


「私はまだ不可能であるとは言っていないのに君は出ていこうというのかね」

「え?」


 顔を上げてギルマスを見ると、ずいぶんと悪い顔をしているではないか。俺の信じてるギルマスの威厳を返せ。


「どういうことですか」


 もう一度座り、ギルマスに聞く。ギルマスは手で俺の側に立っていたルナにも座るように促して口を開いた。


「翔太もルナ、といったか。二人とも知っていると思うが、この国において基本的に奴隷がギルドカードのような身分証を作れないことになっている」

「ではやっぱり作れないんじゃないですか」

「まあ待て。それだけなら単に無理だと言っている。つまり例外は存在するということだ。


そもそもギルドとしても優秀な者が奴隷だからという理由で、ギルド登録できないというのはよくないという事情がある。それで国をもまたぐ組織であるギルドが国と交渉して例外規定をつけさせたのだよ。知っている者もほとんどいないし、そもそも奴隷を冒険者にしようとするもの好きが少ないから適用例はわずかだがな」


 ギルマス、もったいぶりすぎだ。例外と言っても条件くらいはあるのだろうからそれが早く知りたい。それによっては登録できないかもしれない。


「そんな背景はどうだっていいという顔をしているな。確かにその通りだから早く言うが、奴隷身分であっても登録することのできる条件というのはな、目立った実績を上げた優秀な者だ」


「それは、あまりにも具体性に欠けていませんか?」

「だからこそいいんだよ。比較的柔軟に適用できるのだからな」

「それでその実績というのはどのようなものなのでしょう」


 実績というのは曲者だな。どうやって積ませたらいいんだろう。


「何か強力な魔物を倒したとかそういったものが該当する」

「ではルナにそういった魔物を討伐してもらえば問題ないんですね?」

「慌てるな。最後まで話を聞いてくれ。実績には特別依頼によるものも含まれているのだよ」


 もしかしてそれって……


「そう、昨日の一件で最前線で勇敢に戦っていたことを聞いている。それに聞けば、あの魔法の発動の際に側にいたというではないか。これは翔太の魔法発動に協力したも同然だ。であれば、実績は十分だろう」

「では登録できるんですか!」

「その通りだ。書類を持ってくるから待っていろ」


 ギルマスは部屋を出ていく。そうか、登録できるんだ……やったぞ。


「ルナ、登録できるぞ!!!!! お前も冒険者だ!」


 ルナの腰のあたりを持ちあげてぐるぐると回った。


「わっ、ご主人様やめてください。ちょ、目が回りますよお」


 ルナは言葉では抵抗しているが、顔は笑っているし声色だって嬉しそうだ。


「さて、この書類に記入をしてく……れ。お楽しみ中だったかな」

「いえ、まったく問題ありません!」


 ギルマスが戻ってきた。少し恥ずかしい所を見られてしまい、ルナを即座におろしてソファに座りなおした。


「これに名前を記入してくれれば大丈夫だ。さすがに奴隷だとギルドカードは変わらないが、書類上では主人の許可と記名が必要だがな」

「書きました。ご主人様、お願いします」


 ルナが自分の名前を書いた。後は主人である俺が記名すれば完了だ。


「これで大丈夫ですか」


 提出した書類を見て、不備がないかを確認していくギルマス。この時間、なんだかすごく緊張する。


「問題ない。後は下で手続きをしておくから、明日カードを取りに来なさい」


 普通はすぐに出来上がるものだが、その特殊性ゆえか、あるいは時間がもう遅いからかは分からないが、カードの受け取りは明日になった。でも嬉しいな。


「ありがとうございます」


 これで奴隷というのもあってもパーティーの仲間という関係に名実ともになれる。ギルマスに頭を下げて部屋を出て、ギルドを出る。もうすっかり夜になってしまった。


「あの、私をギルドに登録して本当によかったんでしょうか」

「登録するのが嫌だったりしたのか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど、私は奴隷です。これは絶対に変わることはないのに、普通のことしていいのかなって」


 ああ、そういうことか。ルナはきっと怖いんだろう。奴隷根性が身についてしまったともいえるかもしれない。でも俺がいる限り、ご主人様ではあり続けるけど、奴隷では決してないこと、ゆっくりと分かっていってもらおう。


「いいんだよ。ギルマスだって問題ないと判断したから登録できるんだから」

「はい……」


 ま、美味いものでも食べれば元気になるだろう。夜には遊びたいし、それに想像以上になっている報酬の使い方も考えたい。金額が金額なのでかなり大きな買い物ができるだろう。何買おう。


「ルナは何か欲しいモノとかないか?」

「欲しいものですか?」

「そう、報酬も莫大だったし何買おうか迷っているんだ」


 こういうときには話題転換が一番なのでルナにも聞くことにした。


「あ、そうですよ。私、本当にあれだけの大金受け取ってもいいんですか?」

「それは大丈夫だから」


 うーん、その育った環境からも大金すぎたのかもしれないな。次からは金額は少し考えないといけないか。いや、そもそもこのようなボーナスタイム自体が稀だから今後は考えなくてもいいか。


「それで何か欲しいものはある?」

「よくわからないですけど、それなら美味しいもの沢山食べたいです」

「そうか美味しいものか。それもいいな。食べよう!」


 ルナの食い意地にはびっくりだ。あれだけの金額を食事に使いたいというのか。いいなそういうのも。現実的ではないけどいいな。そういうのは夢があって。

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