一攫千金かもしれません

「それにしてもすごい眺めですね」

「まったくだな。俺がやったとは言えここまでとは恐ろしいな。滑りそうだし気を付けろよ。それに魔物は凍っているから乱雑にすると砕けるから慎重に作業してくれ。随所で火魔法で溶かすのもいいけど、燃やすなよ」

「神経がいりそうな作業ですけど頑張ります」


 アイテムボックスから籠を二つだして片方には魔石、もう片方には素材を入れていくように言って、二人で行動を開始する。もちろん、近くで行っているが、なにせ数が多すぎる。見渡す限り凍った魔物だ。これらの素材を回収するだけでのかなり骨が折れるだろう。

 これでは競争にもならないのではないかと感じ、周りを見渡すとぱらぱらと冒険者がいる。力技で回収していくもの。ノミとハンマーで慎重に作業を進めて価値を下げないように苦心している者。あるいは俺たちのように魔法で溶かして回収する者もいる。

 

 どの方法が効率が良いのかは分からないが、少なくともさっさとしないとどんどん取られていくことだけは確実だ。急いで回収していこう。


「ルナ、ここからは無駄話している暇もなさそうだ。作業にだけ集中しよう。それだけこの魔物は金の山だ。終わったら美味しいもの食べよう」

「頑張ります!」


 凍っているから溶かすとは言え、やり方をキチンとすればグロテスクな光景というか、血で汚れるということはないだろう。まずは回収したい部位のあたりを局所的にとかす。これは魔法で何とかなる。これくらいなら俺でもコントロールできる類の魔法だ。もしくは剣で欲しい部位の者を切り取り、それをそのままかごに入れて置き自然解凍させる。どちらもやってみたが時間はそこまで変わらない。


 そうやってやり方を変えていたせいか、ふとルナのかごを見てみると俺のよりも多い。そうだ、今回ルナが回収したものの売却益をルナのお小遣いにしよう。定期的に上げるのだと大きな金額は渡しにくいし、これなら自分の仕事に対しての正当な報酬ということで受け取ってくれるだろう。


 ああ、腰が痛い。必然的にかがんでの作業も多くなるので腰に響く。おっさん臭い事態になっているが仕方がない。人間成人すれば体のどこかにガタはくるのだ。例外はない。いや、あってもおかしくはないが、少なくとも俺の身体に例外は存在しない。


「ご主人様」

「どうした」

「ご主人様の防御魔法の中って一つの隔離された空間だと思うんですけど、その中って温度を調整できたりしないんですか? できたら解凍の時間が短くて済むし、効率的じゃないかなって思うんです」


 防御魔法にその発想はなかったな。もしルナの言う通りだった場合はこれからやってくる冬の移動の時にかなり役に立つかもしれない。


「試したことなかったけど、可能性自体はあるな。さっそく試してみよう」


 その籠が置かれている空間に防御魔法をかけて、その中を温める。すると、素早く解凍されていくが、外にその暖気が漏れ出てはいない。これは成功だな。もう少し広い範囲にかけて中を温めておこう。

 結局、俺が剣で切り出してそれを防御魔法内部でルナの魔法によって解凍させるのが一番効率が良いみたいだ。

 その後も、同じ作業を繰り返した。

 気が付いたころには周りにたくさんの人がいて、魔石や素材を回収している。ボーナス期みたいなものだ。これを逃す手はないだろう。この冒険者たちが頑張って回収しているものの収益の一部は俺にはいってくるのだ。まったくこの意図せずこの騒動でボロ儲けできるかもしれない。


「さ、これくらいにしようか。陽もすぐにくれるから帰ろう」

「え、もうそんなに時間が立っていたんですか」

「頑張ったもんな」


 途中に軽食をとったが、それ以外は二人とも黙々と作業をしていたので時間のことを忘れていたがそのおかげで大量に回収することが出来た。これは結構な金額になるのではないかと期待が膨らむ。


「帰りは歩こうか。別に用事もないんだ。のんびり帰っても文句は言われないし」

「そうですね。お話をしながら帰りたいです」

「それじゃ、アイテムボックスに入れるから」


 ルナの回収した分はきちんと分かるようにしてアイテムボックスに入れて街の方へ歩く。ちらりと凍り付いた平原を見てみると、まだまだ回収している冒険者がたくさんいる。俺もそうだが金に目がくらんでいるな。もう暗くなるし気を付けて欲しいな。


「それでルナ、今日の朝は一体何をしていたのか教えてくれないか?」

「朝のこと、ですか。何のことでしょうか。今日の朝は普通におきてギルドに行っただけじゃないですか。なに記憶を改竄しようとしているんですか?」

「記憶を改竄しているのはお前の方だ。そんなこと言うのなら教えてやる。朝、俺が起きたらなぜか全身を拘束されたルナがいた。昨日、俺は宿屋に戻ってすぐに寝てしまったし、状況的に自縛したとみるのが自然ということだ。つまりルナが自分で好んで拘束具をつけて寝た大変態というのが俺の推察する朝の状況だ」


 正直ドン引きしたからな。少しくらいい本人の口からきいてみたい。それに恥ずかしがる姿を見てみたいし、少しからかいたい。


「私の記憶ではご主人様が嫌がる私に無理やり付けたことになっているんですが……」

「嘘つくな嘘を! 前にお前がねだってきたからつけた拘束具で喜んでハアハアと息を乱していたこと知っているんだからな」

「なっ……なんでそのことを、はっ!」


 よっしゃ、ボロが出てきたぞ。自分で拘束されることが好きな変態であることを認めたな。


「~~そうですよ! いつからか私はそういうことで興奮できるようになってしまったんです! これで満足ですか!?」

「いいこと聞けたと思っているよ。これでルナをいじめる方法のレパートリーが増えそうだからな。でもなんかあったときのお仕置きのレパートリーは少なくなったな。動けないようにしておくだけだったら、なんだかそれがご褒美になってしまいそうだからな」

「もうお仕置きが必要な状況は起こさないないようにします。これは信じて欲しいです」


 信じたいけど、人である以上は何はあるかわからないからな。でも今はルナのその言葉を信じることにしよう。


 そして淫乱な会話をしていると、街につきギルドの前に来ていた。


「いくらんになるのか楽しみですね」

「結構いい金額になるだろうな」


 受付に行くと、列ができていて冒険者たちが並んでいる。これは皆、あの平原に行ったものたちだろう。こいつらも俺の金ずるみたいなものだから大いに感謝しなければ。そして俺の順番がきたので受付に行った。


「お待ちしていました。魔石や素材の方ですが、皆さん大変な量を持ち込んでおられるのでこちらでは昨日の報酬をまずはお支払いしてから奥にある倉庫で量を測った後で買い取り金額の方をお伝えします。ですから少々ギルド内でお待ちください」

「そういや、あの平原で凍らせた魔物の売却益の一部が俺に流れてくるっていう話だったけどそれはどういう感じで渡されるのかな?」

「はい、そちらについては計算も時間がかかるとおもいますので翔太さんのギルド口座に直接預け入れられる形になります」

「そうか、そこにいくんだ」


 この世界のギルドは広範な事業を展開していて、その一つが預金業務だ。銀行のように預金を原資とした貸金業務は行っていないが、俺たちのような利用者が毎月利用料を払い続ける限りにおいて、どこのギルドでも預けたり、引き出したりできるのだ。正直とても便利なシステムだ。魔法がこんなところに役立っているとは思わなかった。


「はい、ですので数日後に確認をしていただければと思います」

「楽しみにしておく」


 受付の奥にある倉庫に行き、魔石と素材を担当者に渡し、計算が終わるまで待つことになった。

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