四章「二人目」

今日も平原に行きます

 あれから宴会へと戻り、浴びるように酒を飲まされた後、宿屋に戻りすぐに寝てしまった。もちろん、戦いの疲れが取れていなかったことが大きい。


確認はしていないがルナもさっさと寝ていたに違いないと俺は思っていたのだが、どうやらそれは幻想だったのかもしれない。この俺の前にある光景を見てしまうと昨日の夜の出来事も夢の出来事で全て俺の妄想に過ぎなかったのかもしれないとそう感じてしまう。というか、ルナはいつからこんな子になってしまったんだろう。奴隷商で反抗的ですよという触書で買った記憶があるが、それさえも間違いだったのだろうか……。


「あ、あのご主人様これはその……」

「やっぱり俺よりも変態じゃねえか」


 ルナはもじもじしている。これだけなら可愛いものなのだが、よく見なくともその手足にはどういうわけか枷がついているし、その首輪からは鎖が伸びており、ベッドにつながっていた。少なくとも俺がやった記憶はないので自分でやったということになるのだろうか。


この前、奴隷紋が発動してしまいそのお仕置きとして自分で拘束具をつけさせたが、ひょっとしてそれがさらなるマゾの性癖を開花させてしまったのか。だとしたらあのお仕置きはお仕置きとしての効果を発揮しなかったことになる。ただルナを性的に喜ばせただけじゃないか。


「絶対にご主人様の方が変態です!!」


 どうやら未だにルナの中では俺の方が変態らしい。その姿で言われると説得力皆無だが……。


「それでその、これ外してくれませんか? 私では鍵のある場所に手が届かないので」

「自分で付けたのなら、何かあった時にすぐに外せるように鍵は側においておけよ……」


 もはや呆れしかない。いつも拘束具を入れているクローゼットを開けると、確かに鍵が置いてあった。このまま今日一日放置しておくことも考えたが、それでは逆にご褒美になってしまいそうなので、外すことにする。


「ホラ、外したから早く着替えてくれ。今日もやることがあるんだから」

「ありがとうございます」


 このままだと自傷癖まで出てしまいそうで怖いな。定期的に欲望を開放をさせないとダメかもしれない。でも困ったな。そういうのはどうやったらいいんだろう。肉体関係を持つのも俺が望めばできなくはないが、それでは開放はされないだろう。それに至るにはもう少し段階があるのではないかと思うし。まあ、それは後々考えるとして、今日はさっさとギルドに行ってもらえるものもらってこなければならない。


 今回の緊急依頼に参加した冒険者は多いので報酬の受け取りも早く行かないと混んでしまい大変だと思うので朝一番に行きたい。


「ご主人様はお酒強いんですね。昨日あれだけ飲んでも大丈夫ってすごいです」


どうやらルナは昨日あれだけ飲んで何ともなさそうな俺が酒に強いと思ったらしい。だが実際には昨日帰ってきた段階では二日酔い必至だった。


「いや、大丈夫じゃないよ。だから回復魔法で二日酔いを治したんだ」

「回復魔法って便利なんですね。私も使えるようになるでしょうか?」


 ルナも回復系の魔法が使えたら確かに二人だけのパーティーでも作戦の幅が広がるからありがたいな。


「使えるかもしれないし、使えないかもしれない。こればかりは相性っていうのもあるから。適正に問題はないと思うから、本でも買ってどこかで練習をしてみようか。もし相性が悪くてもかすり傷くらいなら治せるようになるかもしれない」

「相性ですか……。私、魔法使うときにそんなこと意識していませんでした。もしかしてご主人様にも相性とかがあるんですか?」

「あるぞ。俺の場合は使うことのできる魔法自体は多いんだけど、実は狭い範囲での攻撃的な魔法はすごく苦手なんだ。だから普段は魔法じゃなくて剣で戦っているんだ」


 せっかくこんな魔法のあるファンタジーな世界に来たのだから魔法でバンバン戦いたいと思っていたが、俺の攻撃魔法はどうしてもその規模と威力が大きくなってしまう。それは魔力の使用量が多い燃費の悪い攻撃魔法しか使えない。俺には無尽蔵の魔力はないので剣をメインとして戦っている。それしか一体の魔物を倒す方法がないのだ。そうしなければ森の中で魔力切れをおこしてあの世行きだ。神様、魔法の威力は十分なのにどうして魔力をもっと多くしてくれなかったんだ。


「そんな事情が。ではその分を私がカバーすればいいというわけですね」

「それが理想ではあるかな」


 戦い方のスタイルを確立できていないルナにはまだまだ難しいかもしれないな。


「もうギルドに着いたのか」


 一人の時だともう少し遠く感じたギルドもルナと話していればあっという間だ。ギルドに入ると、人が多い。酔いつぶれて寝ている奴もまだいる。昨日は相当飲んでいたから、ギルド内で寝ているのがこれだけなのが冒険者の異常性を表しているのかもしれない。

 こいつらは放っておくしかないのでさっさと受付に向かう。幸いまだ並んではいない。


「報酬の受け取りに来た」

「報酬の受けとりですか。翔太さん、その前に早く昨日の現場に行って魔物の魔石や素材を回収してきてはいかがですか? 昨日参加された冒険者の皆さんもすぐ行かれると思います。もちろん、翔太さんが魔物を凍らせたので、冒険者の皆さんが持ってくる魔石や素材の一部換金額は翔太さんの懐に入りますが、それでも自分で回収したほうが実入りはかなりいいはずですから」


 なるほど。それは確かにそうだ。まったく考えが及ばなかった。でも凍っている魔物の魔石や素材の一部が俺に流れてくるなんてやっぱ特大規模の魔法は違うな。


「教えてくれてありがとう。今から行くことにするから帰りに報酬を受け取るからそのつもりで頼む」

「承りました。魔石や素材もお持ちしています」

「まかせとけ」


 行き先が変わったな。今日も平原で仕事だ。


「ルナ、聞いていたと思うけど今からすぐに平原に行くぞ。今回は時間も惜しいし、魔力も満タンだから移動魔法を使おう。ちょっと人目のないところで使いたいから行こうか」

「はい」


 平原までなら距離も短いし、ルナと二人でも問題なく移動できる。さあ、バリバリ回収するか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る