奴隷と良い雰囲気です
「うーん」
「ご主人様! ご主人様!」
どうやら胴上げをされている途中に意識を失っていたようだ。起きたのはいいけど、知らない天井だ。ここはどこだろう。でも隣にはルナがいる。その安心感は半端じゃない。
「ここは?」
「ギルドの一室です。けがをした方は大きな部屋で治療されていますが、ご主人様はそこだと大騒ぎになるからとギルドマスターさんがこの部屋を用意してくださったんです」
「そうか。ありがとう」
起き上がって窓の外を見てみると暗くなっている。それに下からなんかうるさい騒ぎ声も聞こえてくる。
「俺はどれくらい眠っていたんだ?」
「六時間くらいです。もうすっかり夜ですよ。冒険者の皆さんは下で大宴会をしています」
「そうか、ならまずギルマスのところに顔を出してから宴会に行こう」
部屋を出て、ギルマスの部屋に向かい、ノックをする。
「どうぞ」
「失礼します」
中に入ると、部屋にはギルマスのほかに作戦立案にかかわった街の偉い人たちがいた。
「翔太か。もう身体のほうは大丈夫なのかね」
「ただの魔力切れなので大丈夫です。ここまで運んでいただいたみたいでありがとうございます」
「なに、運んだのは私たちではなく、そこのお嬢さんだよ。私たちも運ぼうとしたんだが、絶対に自分が運ぶって聞かなかったんでな」
ルナがそんなことを言ってくれたのか。なんだか照れるな。
「それであの後、魔物の方は何ともないんですか?」
「向こうで君も聞いただろう。魔物は退却したんだ。まさしく軍隊だよあれは。一体どうなっているのか全く分からないが、街への脅威はいったん取り除かれたといってもいいだろう。この街のギルドを統括するギルドマスターとして本当に感謝している。ありがとう」
ギルマスが頭を下げた。
「私たちも感謝しているのです。冒険者、翔太殿。私には褒章等を与える権利はありませんが、これから報告は上げる予定です。きっと領主様もさぞお喜びになることでしょう。この街を管理する執政官としてもこの魔物の大群、そして勝利のきっかけを作ったあなたに感謝します。このお礼はこうして私が頭をさげることしか今は出来ないことをお許しを」
執政官も頭を下げる。この超偉い人が頭を下げるなんて、ある意味で恐ろしい光景だな。
「翔太殿、貴殿は軍にでも入らないか。部隊の兵士からも歓迎されるだろう」
「申し訳ないですが、軍に入ることはないと思います。俺は自由に活動できる冒険者という職業が天職ではないかと考えているので」
「そうか……それは残念だな。ならばせめてこの酒は飲んでいくといい。美味いぞ」
「いただきます」
机に置かれていた高価そうな酒が俺の持つグラスに注がれていく。色合いも綺麗で透き通った液体だ。
「水で薄めるか、そのまま飲むといい。冷えたものならなおうまく感じるぞ」
そのアドバイスに従い、冷えた水と氷を魔法で出して薄めた。これくらいの魔法であれば魔力消費も少ないので問題なく使える。
「綺麗なお酒ですね」
グラスを傾けると金色に見える。それを飲んでみると、口の中一杯に今まで飲んだことのある酒では得られなかった豊かな香りが広がった。
「これはすごいですね」
「であろう。私の秘蔵品だからな。このような場にこそふさわしい飲み物だ。さあ、それを飲んだら早く側に行くと良い。私たちが貴殿をここで引き留めるわけにもいくまい。下で宴会が行われている宴会に、この戦いにおける立役者たる貴殿も早く顔を出すといい。皆、喜ぶだろう」
軍の司令官に早く下に行くように促されたのでありがたくその言葉に従うことにした。
「それでは失礼します」
部屋を出て階段を降り、声が大きくなっていく。
「お! 若大将のお出ましだぜ!」
「本当か!?」
「本当に生きているんだな。足はあるか?」
「やっと起きたか。もう少しで酒がなくなるところだったぞ!」
こいつら、言いたい放題言いやがって。でも自然と笑みがこぼれる。誰かが俺にコップを渡してきて酒が注がれる。
「おいおい入れ過ぎじゃないか?」
「いいんだよ。祝い事なんだ。パーっといこう」
そして前の方に行かされてなんか喋れと言われて突然のことに困惑しながらも応じることにする。
「最初に言っておく。俺が死んでいると勘違いした奴には悲報かもしれないが、俺は残念ながらぴんぴんしている。よって足もちゃんとついているぞ」
さっき俺が生きていることに驚いたヤツがいたことに対しての返しだ。嫌味の一つくらいは言いたくなるさ。だが、みんな酔っぱらっているせいか笑いに包まれた。
「そして、ここまで戦うことができたのもここにいる全員が必死になって戦ったからだ。そしてひとまずとはいえ、勝利した。今日は腰据えて飲むぞお!!!」
「「「おおおおおお!!!!!」」」
派手な盛り上がりを見せ、俺のコップにも永遠に酒が注がれる。ルナはこういうノリがいまいちわかっていないのか、後ろのほうで困惑している。
「若大将もよくあんな魔法打てるよな。尊敬しかねえや」
「はは、まあそうだな。俺だけの力じゃないしみんなの力が集まって打てたんだと思うぞ」
「そうかそりゃいいな!」
冒険者は豪快に笑う。そうして俺によってくる冒険者もとい酔っぱらいをいなしつつ、俺も酒にそこまで強くはないし、ルナも退屈そうになってしまっているので、そちらに行くことにした。
「少し外に行こうか」
「いいんですか?」
「いいんだ。今はルナと少し話がしたい」
ルナはうなずいてギルドの外に出た。外は夜だからか、少し肌寒い。でも月が綺麗で満月だ。こういうような慶事にはピッタリではないか。
「俺さうれしかったんだよ。ルナに信頼してもらえてるんだってことが分かって」
「そんな、私は奴隷ですから。無条件に、とまでは言いませんがご主人様を信じるのは当然です」
「それでもだよ。なあ、ルナ。これは奴隷とかそんなの関係なくさ、俺と一緒にいてくれないか。オークを倒してもらうときにも言ったけどさ、あんな状況じゃなくてちゃんともう一回言いたかったんだ」
「私もです。ご主人様に捨てられない限り、私はご主人様の、翔太様の横にいたいです。それを許してくださいますか?」
初めてルナが俺のことを名前で呼んでくれた。なんだか嬉しいけど恥ずかしいな。
「許すも何も俺だって、それを望んでいるんだよ」
「これから長いお付き合いになりそうですね」
「そうだな。長くなりそうだな」
座って肩を寄せ合っているからルナのぬくもりを直に感じる。
月が本当に綺麗な夜だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます