戦いに勝ちました

「さあ、戻ろうか」

「はい」


 あっ……


「大丈夫ですかご主人様?」


 歩こうとしたら一歩が中々踏み出せなかった。身体に力が入らない。頑張って一歩進めると、身体がふらついてしまう。


「魔力を使いすぎたみたいだな。一人じゃ歩けそうにないや」


 ポーション類は使いきってしまったからそれを飲んで僅かに魔力を回復させて転移魔法を使うことはできない。


「私が支えるので一緒に歩いて戻りましょう。きっと皆さん待っていますよ」

「だといいな」


 俺が凍らせた方を見てみると、魔物たちが大量に丸ごと凍っている。これでは戦うことはできないだろう。これでも奥の方に魔物がいるのだ。ほんのわずかな時間、俺とルナが本陣に戻るくらいの時間の猶予はさすがにあるだろうが、いつまで持つかは分からない。もう俺は魔力も体力もすっからかんだから戦うことはできない。もしなにかあっても、みんなに任せるしかないのが歯がゆいとことだ。


「ご主人様はあれだけの魔法を放ったんです。休んだって誰も文句は言いませんし、言わせません」

「ありがたい言葉だな」

「それだけの威力がある魔法だったと思います」


 ルナに支えてもらいながら、その手をしっかりと握り歩みを進める。本陣は歩いて10分くらいだ。長い距離でもない。


「あれだけの魔法を発動させても、まだ魔物の大群が片付いていないのは本当にあれだな。魔物の数が多すぎるよ。なあ、ルナ。あんなに魔物が一か所にいるなんてあり得るのかな」


 自分だった重々承知のことをルナに聞いてしまったのは疲れているからだろうか。頭も体も何もかも動いていないんだろうな。


「少なくとも私は知りません。でも私も疑問に思うんです。なんでここまでの数が森にいることが出来たんだろうって。ご主人様と森に入っている間に異変は感じたとご主人様は仰いましたけど、数が少ないとか、そういう系統のお話はなかったので、きっと森にいた数自体に異変はなかったんだと思います。

 だったらあんなに森を埋め尽くして、これだけ戦かってもまだ大量にいる魔物たちはどこから来たのかなって。いくら繁殖力の強い魔物だったとしても限度はあるはずなのにです。私はそのこと不思議に思っているんです」


 確かにそうだ。あの魔物数は確かに異常だ。これまでにこのような統率された魔物がいることについてなかったと聞いていたから、驚きを持って接していたし、数についてもその数の多さに対しての驚きだった。どこから来たのかという点については盲点だった。でもこの頭が働かない状況下ではこれ以上考えることはできないな。


 そこから二人とも静かになり、静かに、しかし心は満たされゆっくりと歩いた。ルナが俺のペースに合わせて歩いてくれている。少しして、たくさんの人影が見えてきた。どうやら無事に戻ってこられたらしい。


「おい、戻ってきたぞ。無事だ!!!!!」


 俺たちを見つけた誰かが無事を叫ぶ。すると一斉冒険者と兵が出てきた。俺は大きな声を出すことは難しかったので、ルナの手を握っていない左手を挙げた。


「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」


 みんなの咆哮だ。そしてみんなの中に入ると、てんやわんやだ。


「若大将、やったな。あれだけの魔法、初めて見たぜ。すげえよあんた」

「ありがとう。ギルマスはいるかな」

「ギルマスならそこに」


 冒険者が指さした方を見るとギルマスと目があった。


「状況はどうなりましたか?」

「よくやってくれた。一帯の魔物は全て凍り付き、残っている魔物たちも今は進軍が止まっている。これで立て直せる」


 どうやら目論見は成功したようだ。しかしここから先が問題だな。


「ですが、俺はしばらくは戦えませんよ」

「あのような魔法を放ってすぐに戦えないことなど承知の上だ。今はゆっくりと休むといい。後のことは私たちで何とかしなければならない」


「道を開けてくれ! ギ、ギルマス、報告です」


 一人が慌ててギルマスの側に駆け寄った。どうしたというのだろうか。


「どうした」

「進軍が止まっていた魔物の大群ですが、引き返し始めました! 森へ向かって戻っています!」

「なに!? それは確かなんだな」

「複数人で確認しました。間違いありません!」

「信じられん。そんなことがあり得るのか……。これでは本当に軍隊のようではないか」


 ギルマスの言う通り、本当に信じられない。これはもしかしなくても、とんでもないことが起こっているのだろう。今後、何かあるかもしれないな。でも今は、そうか終わったんだな。


「若大将の魔法が魔物を追っ払ったんだ!」

「そうだ! こりゃ胴上げだな」

「な……」


 どうやらこの戦いに勝ったという事実がみんなに伝わり、そしてなぜかその立役者にされた俺が胴上げされようとしている。止めてくれることを期待してルナを見るが、連中と一緒に俺のこと胴上げしようと構えている。ああ、これは逃げられないらしい。


「それじゃ、この戦いの勝利を祝してわーっしょい! わーっしょい! わーっしょい!」

「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」」


 歓声が聞こえてくるが、俺はもう限界みたいだ。どんどん力が抜けていくし眠い。そのまま、胴上げされている中で意識は薄れていく。


「あ、ご主人様!」


 ルナの声が聞こえる。気のせいかな。まあ、気持ちいしいいか。

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