奴隷との共同作業です

「まだまだ……!」


 とにかく魔力をどんどん込めていく。この一発に今注げる最大の魔力を……!


「ルナ! 俺の口にポーションを突っ込んでくれ」

「は、はい!」


 ルナは出されているポーションの蓋を開けて優しく俺の口に入れ飲ませてくれた。おかげでむせることなく魔力を回復できる。しかし……


「全然足りないんだ。もっとポーションを頼む」


 ルナは地面に出したポーションを俺の口に運んでいく。何本も飲むのだが、それでも魔力は足りない。


「こんなところで終わるわけにはいかないんだよ!」


 しかし、その思いは届かない。展開している魔法陣が縮小し始めたのだ。これでは魔法が発動できない。


「はあああああああ!!!」


 精一杯力を籠めるが魔法陣の大きさが戻ることはない。こんなところで終わっていいはずがないんだ。これで魔法が発動しなければ被害を受けるのは街の人だというのに。クソっ、魔力が全然足りない。異世界に来て数か月の間俺は一体何をやっていたんだ。俺はそのただもらっただけの力に慢心していたんだ。悔しい。


 あ、これ後悔か。


 もう諦めるしかないのかもしれない。俺の力ではこの出力の魔法が放てないんだ。


「ご主人様、私の魔力を使ってください」

「……ルナ」

「どうしたら私の魔力をご主人様に渡せるのか教えてください」

「ルナ、俺は」

「ご主人様なら大丈夫です。さっきのことで分かりました。私はただ守られるだけなのは嫌なんです。だから私にも手伝わせてください。ダメですか?」


 ルナが俺に力を貸してくれる。確かにルナの魔力があればこの魔法も発動するだろう。だが、それはいいのか。俺の無力さ感じるだけだ。


「ご主人様、私はご主人様のこと尊敬していますよ。確かに思うところも色々ありますけど、でも、それでも魔物に立ち向かい、そのために命を懸けて戦うことが出来る。そんな見知らぬ誰かのために戦うことが出来る人なんてほとんどいないと思います。私のことだって、差別されている獣人なのにそんなこと気にもしないで、しかも奴隷としてではなく、一人の人間として扱ってくださっています。そんな優しさに満ち溢れたご主人様のこと、私は尊敬しています。だから、そんなご主人様が困っているときくらい私にこの恩を少しでも返させてください。

 これでも手伝わせてくださらないのですか?」


 ルナ……、お前がそこまでの気持ちでいてくれたなんて。どうやら俺はとても矮小な心の持ち主で些細なプライドというやつを捨てることが出来なかっただけみたいだ。それにルナにここまで言わせてしまったんだ。これでルナの魔力はいらないといったならば、ご主人様として失格じゃないか。


「ルナ! どこでもいいから俺の身体に触れるんだ。そしてそのままで魔力を込めろ! そしたら魔力が送れる!」

「ご主人様!」


 ルナは明るい顔になって、俺の背中に触れた。そしてすぐに魔力が伝わってくる。


「魔力は届いていますか?」

「ああ、届いているとも。ルナの魔力ありがたく使わせてもらうぞ!」

「私の魔力、存分に使ってください!!」


 感じる。ルナの魔力の暖かさを。これだけ優し気な魔力だなんて、もしかすると魔力は人の心そのものを表すのかもしれないな。俺の魔力もそんな暖かさを持っていたらいいな。もし今はそうでなくてもそうなったらいいな。


「はあああああ!!!!」


 ルナから受け取った魔力と俺の魔力を合わせてもう一度、展開している魔法陣に魔力を注ぐ。すると、萎んでいた魔法陣は徐々に大きさを取り戻し、当初の大きさを遥かに凌いだ大きさに変わっていく。


「これほどなのか」


 俺の魔力だけでは無理な規模だ。ルナの魔力はこれほどに大きいのか。才能というのは恐ろしい。

 ルナのおかげで魔法陣は完全に展開され、、光を放っている。そして俺の一振りですぐにでも発動できるようになった。これなら魔物たちを殲滅させることができるかもしれない。


「いくぞ」

「はい」


 ルナの表情を見ることが出来ないのが本当に残念だ。だが、今は目の前のことに集中する。一度目を閉じ、息をゆっくりと吐き、杖を振り上げた。そして目を開け、魔法陣を目に入れる。


「アブソリュート・ゼロ!!!!!」


 杖を一気に振り下ろして魔法を発動させる。魔法陣から発せられる光が一気に強くなり、そして周囲の気温が下がり始め、魔法陣の中にあるものは生物・非生物、当然魔物さえも関係なく氷に包まれていく。字面通り、まさしく絶対零度の世界がそこには現れる。この一撃必殺ともいえる魔法が大きすぎる武器であり、魔法使いとしての最大の弱点だ。


「凄いです。魔法陣の中がみんな氷に包まれていきます。この規模の魔法だなんて、やっぱりご主人様はすごいです」


 俺をたたえているのだろうか。しかしもう少しだけ規模を小さくすれば発動は出来たかもしれないが、この規模で発動させることが出来たのは間違いなくルナのおかげだ。俺一人の力では絶対にない。


「俺だけの力じゃないよ。ルナのおかげで発動できたんだ」


そんなことを思い、そして口にした。ルナを見るとなんだか顔を赤くしている。何回か見せてくれるものとは毛色が違うように感じた。


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