切り札となる魔法を打ちます

「私はご主人さまに捨てられない限り、ご主人様の横にいます。私のせいで死体になんてさせません」


 ルナはオークの胸を背後から突いた。オークは困惑したが、それがすぐに苦悶の表情へと変わり力が抜けていくのが感じた。そして俺に体重を乗せるように絶命をした。


「助かった。ありがとう」


 オークをどけてルナに礼を言う。ルナは俺がどかしたオークから刺した短剣を抜いていた。


「その申し訳ありません。目の前でご主人様が大変なことになっていたのに動けませんでした」

「結局動けたじゃないか。それで俺も何とかなったんだから今はそれでいいじゃないか。今はそれよりも考えなくちゃいけないことがあるみたいだしな」


 もはや陣形は崩れている。しかし魔物たちを一挙に退けることは出来ない。それにまだ魔物がどれくらい残っているかがわからないのに後退していいのか。だが……。


 最前線はもう限界だ。そういえばギルマスが言っていた。光の魔法を使うことができる冒険者がいると。あいつはどこにいるんだろうか。


「ルナ、光の魔法を使うとかいう冒険者がどこにいるか知らないか」

「ギルドマスターさんが紹介してくれていた人ですよね。最前線にいるとは言っていましたが……」


 そいつを見つけないことには後退もできない。俺の声だけじゃここにいる全員には届かない。


「おや、僕のことを探しているのかい?」


 俺の後ろから声が聞こえる。聞き覚えがある声だ。


「お前は!」

「そんな驚かないでくれると助かるな。君が探しているのは僕なんだろう? 僕もこの状況はよくないと思うから指示をするなら早くしてくれよ」


 この小柄な男が大規模な光魔法を仕える冒険者だ。どこで何をしていたのかは聞くまでもない。彼もまた血まみれになっている。声こそ何ともないように聞こえるが、死闘を潜り抜けてきたのは明らかだ。


「後退しよう。そこで陣形を整えつつ、ここから先にどうするかギルマスたちとも相談する」

「了解、ぼくたちの若大将殿」

「とびきり大きいのを頼む。そうじゃないとみんな気が付かなさそうだ」

「言われなくたって分かっているよ。大きいの打つから君たちは少し離れているんだ。それとあまりこちらを見ないでおいたほうがいいぞ。目がくらんで危ないだろうからね」


 そういわれ、ルナと共に少し離れ光を凝視しないような体制を取った直後に眩しい光が周囲をつつみこんだ。これにはさすがの最前線で戦闘を繰り広げている者たちも意味合いを理解したようで、後退を始める。俺もいち早く後退を進め、本陣を張っている場所に急ぎ入る。


「ギルマス、最前線の消耗が思った以上です。このままでは冒険者も軍の兵士も全滅です」

「分かっているとも。そもそもお前たちが後退してくる時点で想像以上の事態が起こっていること、想像に難くない。だが、わざわざここまで来たということは何か考えがあるのだろう?」


 さすがギルマスだ。しかしこれをしても決定打になるかは分からないのが痛い。


「俺が魔法を打ち込みたいと考えています。俺の特大魔法です。なので範囲を広いし強力ですが、もしそれ以上に魔物がいた場合、もう一発と打ち込むことはできません。一度きりだからこそ最大限効果を発揮できる場所で打ち込みたいと考えています」

「翔太の魔法か。私も見てみたいが一発だけとなると確かに悩みどころではあるな」


 この魔法、範囲は相当広いため使いどころには困るのだが、こういうときにこそ使える。しかし魔力使用量も桁違いなので一発が限界だ。というか俺の魔力量的に一発ギリギリ打てるかどうかくらいだ。


「見張りにものたちによるとなそなたたち最前線組および砲弾組のおかげで数はかなり削減できているようだ」

「あと、問題は魔物をできるだけ狭い範囲に収めておきたいですね。魔法の範囲が広いといいってもやはり魔物が一か所に固まってる方がより多くの数を殲滅できそうですし」

「そうだな。では、砲弾を今は分散して打ってもらっているが、それを一か所にまとめることで奴らの注意を引いてそれで打ち込むのはどうだろうか。使いどころは難しいだろうが、特大魔法は今打てば高い効果があると私はおもう」


 ギルマスも一定の理解を示してくれる。


「ならば俺は戻ります。十分ほどたったら砲撃を最前線の少し奥くらいに打つように指示をお願いします」

「分かった。転移魔法を使うのだろうが、くれぐれも気を付けてくれ」

「はい」


 ギルマスに一礼して本陣を出るとルナが待っていた。ルナはおいていこう。


「おいていく気なんですね。私も一緒に行きます」



 ……転移魔法にはたくさんの魔力が必要だ。だが今回に関しては森の奥から戻ってきたのとは異なり距離が短いから二人で転移したとしてもそこまでの魔力は使わない。それにポーションも大量に用意した。ルナが行きたいというのならその気持ちは尊重しないといけない。横にいさせてくれと言っておきながらそれを実行しないのは約束を守らない奴に成り下がってしまうではないか。


「分かった」


 危険なことなど百も承知だと思うからもうそんなこと聞かない。


「さあ、俺の近くにきて」

「はい。行きましょうご主人様。戦いを終わらせに」


 静かに転移魔法で最前線の場所に戻る。魔物の死体がそこら辺中に転がっており、戦闘の激しさを物語っている。魔物を抑えこむために砲弾が飛んで行っている様子も確認できる。時機にこの様々な方向に飛び交う砲弾も一か所に集中する。魔物は大きな音のする場所に集まっていくことが多い。その性質を利用した作戦になる。もっともそれは相当なレベルでなければ魔物を振り替えさせることなどできないが。


「ご主人様はどのような魔法を使うのでしょうか。私、攻撃魔法を使うところを見るのは初めてなので」

「確かにおいそれと使うことのない魔法だからな。今から使うのは氷魔法だ。効果に関しては自分の目で確かめてくれ」


 砲弾の向きが変わり始めた。十分が経ったらしく、砲撃が一か所に集中し始めた。これで少ししたら魔物たちもあの周辺に集まるだろう。魔力をより高めるために、そして先ほどの転移魔法で使った魔力を回復させるためにポーションを何本か口にふくみ、地面にもポーションをおいた。すぐに飲めるようにするためだ。


「ルナ、下がっているんだ」


 ルナに下がっているように言い、杖を出した。思えばルナの前で使っていた魔法は杖なしでも十分に効果が発揮されるものだった。今から使う魔法は杖がないと威力が落ちてしまうから使わないといけない。俺の必殺技みたいなものだ。


「やってやるよ」


 ゆっくりと息を吐きだし、集中し、魔法を編んでいき、魔法陣が周囲に現れていく。


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