ギルドで報告しました

 少女で体重が軽いとはいえ、人を背負って1時間も歩くのは魔法で身体を強化していてもしんどい。もちろん、楽に変える手段もなくはないが、こうやって景色を見ながら帰るのも味があっていいではないか。ゆっくりと帰ることにしよう。陽が完全に沈むまでに街に入ることが出来れば危険なことはないだろう。それにルナは寝てしまっている。あんまり早く戻って途中で起こしてしまうのもかわいそうだ。


「しっかしよく寝てるな」


 こうして寝ていると大人し、そして想像以上に軽く小さいことが分かる。そういえば奴隷商で16歳って言われていたっけな。16歳か、そんな年齢で奴隷になっていて独りぼっちってどんだけ過酷な環境なんだよ。こうして改めてルナのことを見てみると、ルナという少女が背負っているものは俺が考えている以上に重いのかもしれない。それこそ、簡単に触れてはいいようなものではないし、本人が自発的に話そうとしない限り、話題にもするべきではないだろう。

 それにこの世界の住人は少なからず血液に対する耐性があるはずだが、ルナはあまりにもなさすぎる。だけど、これもきっと過去に関係していることで簡単に解消も出来ないし、俺が振れれば傷口を広げてしまうような気がする。慣れで多少は何とかなるだろうが、根本を解決しなければ怯え続けることになる。これは安全上よくないからな……。


 どうしたものかと考えている内に街の城壁が見えてきた。随分と歩いていたようだ。その間にもルナが目を覚ます気配はなかった。

 この街に入るための門では身分確認が必要だ。変なものを入れないようにするためのセキュリティがしっかりしていると言えばそれまでだが、同じ国の中なら自由に移動できた場所に住んでいて、それが当たり前だと思っていた身からすると、かなり面倒だ。大きな街それぞれが一つの独立国家であり、入るのにパスポートが必要と言われた方がしっくりくるくらいだ。


「身分証をお願いします」

「ここの衛兵も大変だな」


 ここの門を守っている衛兵は一日に何人の人間の身分証を確認しているのかを想像しただけで頭が下がる。


「そんなことありませんよ。私たちはこの仕事を誇りに思ってやっていますから。それよりも背中のお嬢さんの身分証も見せていただけますか?」


「いやコイツは奴隷だから身分証はないんだ。すまないな」


 衛兵は分かりましたといった。


「そのお嬢さんを大切になさっているのですね」

「どうだかな。少なくとも俺はモノと思って接してはいないけど」


 衛兵は軽く目をつむり、思い出すように話した。


「そういう方は少ないんですよ。きっと奴隷のお嬢さんも幸せだと思いますよ」

「だといいな」

「そうですよ」


 衛兵にルナの扱いを褒められた。幸せだろうとも言ってくれたが、奴隷の時点で果たして幸せと言えるのだろうか俺にはわからない。


「では、身分証に問題はないので街に入ることを許可します」

「ありがとう」


 街には無事に入ることが出来たが、やはりさっきみたいなことを言われて、それに疑問を持ってしまうのは俺がこの世界の常識に染まっていない証拠なのだろうな。いくらハーレムを作るとかいっても、倫理観がこの世界に適応してなくてもいいのかわからなくなってきたぞ。でもまあ、今は背中で寝ているルナを起こそう。


「おい、ルナ、そろそろ起きろ」


 ゆっくりとゆすって起こすことを試みた。両手がふさがっているからこれで起こすしかない。ギルドの中で下ろしてから起こしてもいいが、からかわれるし、ルナも恥ずかしいだろうから今のうちに起こしてしまいたい。


「うーん……、っは!!!」


 起きたようだ。そして俺の背中から重さが急になくなった。飛び降りたのだろう。


「ご主人様、一体……」

「眠そうになっていたからルナを背負って街まで帰ってきたんだ。寝て、疲れは取れたか?」


 ルナは少し戸惑ってるというか、恥ずかしそうにしている。耳は垂れて、顔は真っ赤だ。


「疲れは、その取れました。ありがとうございます」

「いつもそんなに素直だったらいいんだけどな」

「やっぱりご主人様は意地悪です」


 誉め言葉と受けとっておこう。


「疲れが取れたのなら頑張っておぶって歩いてきたかいがあったかな。さ、ギルドで報告して宿に戻ろうか。腹減ったしな」


 ギルドは目の前だ。報告と言っても大変な依頼を受けたわけでもないので時間はかからない。でも明日以降はきちんと大変な依頼を受けるのでその準備のためにもギルドによるのは絶対に必要だ。


 ギルドに入ると、比較的賑わっている。夕方のこの時間帯は依頼を終えた冒険者たちがたくさんいるのだ。受付にならんで順番を待つ。順番待ちの列はそこまでなのですぐに俺の順になった。


「報告ですね」

「ああ、依頼は達成だな。すまないな。簡単なもので」


 討伐したゴブリンの耳とスライムの魔石、そして依頼書をカウンターに置いた。


「確認しますのでお待ちください」


 受付嬢は俺がカウンターに置いたものと書類を並べて丁寧に確認していく。しかし数も少ないのでこれくらいすぐに終わる。


「はい、確認出来ました。こちら報酬になります。お納めください。それから翔太さん、明日はどうされますか?」

「明日はいつもくらいの難易度の依頼にするよ。今日はルナのためとはいえ、簡単なのにしてくれて助かったよ。ありがとう」

「こちらこそいつもありがとうございます。当ギルドは大変助かっていますよ」

「俺も依頼を受けられて助かってるよ」


 カウンターに置かれた金を回収して報告は終わりだ。受付を後にすると、ルナは頭を受付嬢に下げてこちらに来た。本当によくできている。これも奴隷商で教わったことなのだろうか。商品価値を高めるためとはいえ、本当にちゃんとした教育を叩き込んでいるんだな。


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