奴隷が初めて魔物を倒しました

 今、俺たちは森の中にいる。今日はルナがどの程度戦えるかを見るために、弱い魔物が比較的多い場所に来てみたのだ。


「ここ、本当に弱い魔物ばかりなんですよね」

「何度も言っているだろう。大丈夫だって」


 この森は街から歩いて1時間はかからない程度には近い。だから、強力な魔物は軍や冒険者に奥の方で狩られているということもあって、繁殖力が非常に強く、そして弱い個体ばかりになるということだ。しかしだからと言って、被害がないわけでなく、故に新人冒険者向けの依頼としてこの辺りの森にすむ魔物の討伐がある。今日はルナの戦闘力を見るためにこの依頼を受けたのだ。


「でもゴブリンとかがいるんですよね。汚らしい。スライムだって服を溶かすようなのもいるんですよね。まったく汚らわしい」

「間違ってもいないから反応しにくいな。でもその認識があるということは危険性は多少なりとも持っているということだろうからその点、安心はしているよ」

「でも、魔法はご主人様の言う通りのことで本当に放つことが出来るんですか? 私はいまだに信じることが出来ませんよ」


 ルナにはこの森までの道中に魔法の詠唱について教えておいた。詠唱については適当なものでも構わないが、それよりもどのような魔法を放ちたいと考えているかの方が大切であることを伝えた。これはかなり異端な方法らしく、俺も知った時には驚いた。これはある古い魔法の本に書いてあったのもので偶々みつけたものだ。俺もその本に出合わなかったら、詠唱を頑張って覚えていたことだろう。もちろん、詠唱が便利であることには変わりはないが。


「それでも私の中の魔法というのは仰々しい詠唱を唱えることで発動し、またその詠唱の長さは放つ魔法の大きさに比例するものなので」

「それが普通だよな。今日帰ったら、俺の手に入れた本を見せてやる。でも多分、かなり異端な部類のモノだろうからあまり他者に見せるものではないだろうな」


 これで権力者、特に宗教とかの関係者に見られでもしたら、キリスト教の異端審問みたいにとんでもないことされたうえで、火あぶりにでもされてしまいそうだ。


「それが本当だったら無暗に見せてはいけないものであることも分かります」

「うん、それならいい……、お、話をしていたらちょうど何匹か魔物が近くにいるみたいだね。一応、言っておくけど、ここは森だから火属性の魔法は使うなよ。全部燃えたら笑い話にもならん」

「分かりました。では行きます!」


 ルナが杖を構えた。俺も念のため剣を構えておく。


「来る……!」


 茂みから出てきたのは数匹のスライム。武器があれば危険性はそこまでない。幸い大きなスライムでもなかったのでこれならルナでも問題なく倒せるだろう。怖気づくことがなければだが。


「ウォーターボール!」


 ルナの言葉によって水の球が杖の周りに生成されていき、杖を振ると視認できる3匹のスライムに飛んでいき命中した。スライムは地面に落ち、地面に落ちた。姿を維持することが出来なくなったスライムは解けていくように液体となり、地面に吸収されていく。後に残ったのは水の抜けた薄い皮のようなものと小さな魔石だけだ。

 正直、火属性の魔法ではなくてほっとしたし無事に倒せてよかった。


「よくやった」

「ご主人様、私、魔法を使うことが出来ました!」

「そうみたいだな。倒せてよかったよ。暴発もしなかったし。そしたら色々な魔法を試していこう。今出したような簡単な魔法ならまだたくさん打てるはずだからな。それと、そのスライムの残骸と魔石の回収忘れるなよ。それがギルドの依頼報告の証明にもなるし小遣い程度であっても売れるからな」

「はい」


 ルナは回収して専用のバッグに入れた。まだ血の出ることのないスライムだから大丈夫かもしれない。しっかりと血の出てくる魔物を倒すときには今と同じ反応ができるかは分からないな。


「じゃ、次行くぞ。これで一応、戦えるということは分かった。あとはそれがどの程度の魔物までなら通用するかは知っておきたい。次はゴブリンを5匹ほど討伐する依頼か。依頼主は領主だから駆除が数の削減が目的か」


「それらは私でも倒せますか?」

「分からないけど、もし倒せなくても落胆することはないさ」

「ご主人様はダンジョンなどにはいかれないのですか? そちらの方が稼げるのではないです?」


 確かに稼ぐことはできるが、それは稼ぐために手段であって、ギルド内での冒険者としてのランクを上げることにはあまりつながらない。相当な貢献をしなけれなならない。それよりは一般人の生活に直結する依頼を受けていった方がランクを上げやすいのだ。この世界で信用を得るためにはその方が都合がよい。


「冒険者ランクを上げるためだよ。もちろん、たまには金目当てにダンジョンに行くこともあるさ」

「そうですか。私もダンジョン見てみたいです」

「俺と一緒にいればいやでもダンジョンに行くことはあるさ」


 まだ金には余裕があるし、二人目の奴隷を買うというのなら話は別だが、今は夜においてきっちりとルナを精神的にも肉体的にも屈服させることが優先だからしばらく、ダンジョンに潜ることはないだろう。


「さて、そんなことを話している内にゴブリンさんたちがお出ましのようだ。1、2.3……ちょうど5匹いるな。都合がいい。これを倒したら今日はおわりだ。さあ、派手にやってしまうといい」

「はい!」


 ルナは突撃してゴブリンを魔法で倒していく。火属性の魔法は打さず、水や風の魔法で対処している。ルナが5匹を倒すのに長くはかからなかった。


「倒せましたよご主人様」

「そうだな。後は俺がやっておくから後ろで休んでいるんだ」

「ありがとうございます……」


 これは肉体的な疲労とか魔力を使い過ぎたとかではなくて、派手に出た血を見たことで起こったな。トラウマにならなければいいけど。これが克服できるまではダンジョンに潜るのは無理だな。

 大きな木に寄りかかっているルナを横目にゴブリンの魔石と一部をナイフで切り取って回収する。ゴブリンの皮や内臓は材質的な問題で基本的に加工することはできないそうだ。これはオークも同様で二足歩行をする比較的、人に近い姿をする魔物は素材にできないらしい。理屈はよくわからない。


 ルナは気分が悪そうだ。倒せはしたけど、やはり今日はここまでにしておかないと明日に響くだろう。だが、戦えるという事実は分かっただけでも大きい。明日からは俺が普段受けている類の依頼を受けるからルナは支援に回ることになる。そうそう、問題は起きないだろう。


「帰るぞ。大丈夫か」

「すみません、ゴブリンの出した血に少しやられたみたいです」

「血に毒があるみたいな言い方するなよ。でも刺激は強かったもんな。さ、乗れ」


 俺はしゃがんで背中に乗るように言った。ルナも驚いていたが、素直に乗っかってくれた。おんぶというやつだ。でもこうする方が安心するだろうしルナに歩かせるよりはいいだろう。


 途中までルナと話をしていたが途中からその声が小さくなり、声が聞こえなくなる代わりに、寝息がきこえてきた。やっぱり疲れていたのか。それにしても強化魔法をかけているとしても1時間くらい荷物を持ちつつも、おんぶをするというのは結構辛いけど、これもご主人様である俺の役目だ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る