明日に備えます

 ルナに武器は買った。武器というか魔法の杖だ。これで明日何とか街の外で魔物を倒すことができるわけだ。


「いいのが買えてよかったな」

「ありがとうございます。ご主人様」

「さあ、杖の代金も高かったし明日からはバリバリ稼いでいくぞ」

「狙うは一攫千金ですね!」


 そんな都合のいいことなどないと思いつつも、そうやってやる気を高めているのにそれをあえて崩す理由もないのそうだなと相槌を打っておく。モンスター、魔物とも呼ばれる異形の生物は人間の生活に悪い影響を及ぼす。それを退治するのも冒険者の大きな仕事の一つだ。冒険者といえば聞こえはいいが、言ってしまえば軍隊がカバーしきれない部分の仕事を行う何でも屋ということだ。


「浮かれすぎるなよ。魔物も危険なんだからな」

「でも、ご主人様も一緒に戦ってくれるんでしょう? なら大丈夫だと思います」

「根拠のない自信に身を委ねると早死にするからな」


 呆れという感情が適切なのだろう。こんな調子ではルナがいつケガをするかとハラハラするしかないじゃないか。それは勘弁してほしい。これだと旅に各地を旅するのはまだまだ先になりそうかな。そもそも、どこかを拠点にして旅行のような感じで各地を回るっていうのも変える場所があるという点でいいかもしれないな。ま、それももう少ししてルナがきちんとしてから詰めればいいだけの話だ。早急に決める必要もないだろう。


「ご主人様、早くこないと置いて行っちゃいますよ!」


 ルナは元気よく手を振っている。本当に元気な奴だ。今も、かもしれないが、きっと天真爛漫という子供だったのだろう。一緒にいるとこちらまで元気になってくる。良い奴隷を買ったということか。まったく掘り出しものだったな。


「そんな慌てていると転ぶぞ」

「大丈夫ですよ。何もしがらみのない私が転ぶことはありませんから」


 ルナは見事なまでのどや顔をしている。『うぜえ』と感じる程のどや顔だ。こういう顔をされると少しからかいたくなる。今日の夜少し責めてみるか。


「ご主人様、今私に何するか考えていたでしょう」


 お、顔に出ていたかな。


「そんなことないぞ」

「でもすごく悪そうだけど楽しそうな顔をしていましたよ。ご主人様に限らずですが、人がそういう顔をするときは大抵変なことを考えているときです」

「じゃ、ルナはそういう風に何かマゾの性癖に刺さることをされたいということだな。考えておこう」


 ルナは顔を真っ赤にしてそういうことじゃないですと言いながら耳をペタンとさせていた。こういう姿が見られただけでもちょっとは満足だ。


「今日の買い物は楽しかったか?」

「楽しかったと思います。私の生まれた場所は貧しかったですし、奴隷になってからは買い物なんていうことできませんでしたので……」

「そっか」


 確かに性的なことで買っているのも事実だが、それでもなるべく幸せになってほしい。その環境作りは頑張ってやっていこう。


「ご主人様、今日のご飯、何にしますか?」


 マイペースというのはこういうことなのだろう。だが腹は俺も減った。今日もがっつりとしたものが食べたい、というかあの宿屋には基本的にがっつりとしたハイカロリーなものしか置いていない。


「好きなもの頼んでいいぞ。昨日みたいながっつり形のしかないけどな」

「そういうご飯、大好きです!」


 いっぱい食べる君が好きというのはこういうことかな。


 宿屋について昨日と同じように風呂に入った。ルナは昨日よりも少し長めに入っていた。巫女装束は本当に似合っていると思うがひそかに買っておいたネグリジェのような寝間着も非常によく似合っていた。ルナはいつの間にこんなものをと驚いているようだったが、別に構わない。それにあの女店員の見立てなら間違っているということはないのだろう。


「なんだかいいですね。こういうのも」


 ルナもいい表情をしてくれていたので、これを買ったのは正解だったということだ。


「肉もいいけど野菜も食べろよ」


 肉ばかり食べ続けても栄養バランスが偏る。ここで出てくる肉は赤身が多いので脂肪分はあまりないだろうが、それでもタンパク質ばかりになるのはよくない。タンパク質を吸収するためにはビタミンも一緒に取らないといけないはずだ。

 最初のうちは俺も肉ばかりに生活をしていたが、飽き始めていたころに野菜を食べたらその素晴らしさに感動してしまい、人間には野菜が必要であると痛感させたれて以来、食事には野菜もきちんととるようにしているのだ。


「こんなに一度にお肉ばかりの食事はあまり食べたことがなかったので……」

「別に責めているわけじゃない」


 ルナのテンションの浮き沈みは激しくどこがスイッチになっているかいまいちわからない。


「明日だけどな、街の外に出て弱い魔物から倒していってみよう。それと併せて魔法の練習とかをするつもりだけどそれでいいか?」

「魔物……」

「強いのとはやらないから大丈夫。ダメでも死んだり重いけがをすることはないようにするし」

「頑張ります」


 ルナも鼻息荒く行動を決めているみたいだ。これはしばらくいじめたりするのは出来ないな。俺も今日は早く寝ることにしよう。ご飯を食べ終わって部屋に戻って装備の確認をしてから横になろうとするとピコピコと動く綺麗な耳が見える。


「どうした?」

「今日は何もしないんですか?」

「してほしいのか?」

「私、あくまでもご主人様の奴隷なので」


 自分で勝手につけておけと言おうとも思ったが、これも俺の責任かとおもったので、自分でつけさせるのは危ない遊びをするときだけにするしよう。


「ほら手を出して」

「はい」


 二度目ともなれば慣れたもので、さっさと枷をはめていく。自分から嫌だったはずのものを嵌めるように促すなんて変態以外の何物でもないだろうけど、多分これをしないと拗ねてしまうので仕方がない。


「拘束されて喜んでいるところ悪いけどな、さっさと寝ろよ。明日は体力使うからな」

「……分かりました」


 なんだろう。強烈に嫌そうな顔をした気もするが生意気なものだ。ご主人様である俺にそんな顔を見せるなんて。いつかどこかで確実にお仕置きしてやるからな。その後も少しの間、鎖を鳴らす音と、それに呼応するように甘い吐息が聞こえていたのは内緒にしておこう。

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