第11話 募る不安


「…ごめんねー。入社初日に…。」


「あ、いえ全然!むしろ気を遣って頂いて申し訳ないです…。」


「いい子だねー。河口君もいい奴だけど、2人ともなんか雰囲気似てるね。」


「っえ、え~全然そんなことはないですよー。」


出会って数秒で「付き合ってた?」とぶっ込んだ質問をしたこの方。水口(みぞぐち)さんは結構サバサバしたお方で、所々核心を突かれては縮こまってしまう…。


「…はぁ、でもホントにやだアイツ、」


「アイツ…田中さんですか?」


「ここ最近、荒れてんの。自分は営業上手くいかないのに後輩に抜かされてるし、なんならメキメキ育っていってるし…」


「…そうなんですね…、」


「…何回か注意しよーと思ったんだけど、社長の甥だしあの気性でこっちに来られても堪らないし…」


「…甥…」


(だからあんなに社長は田中さんをフォローしてたんだ…。)


「誰に対しても献身的な方ではあるけど…甥になると"嫌われたくない"が勝つのかな。機嫌取りが異常でこっちが見てられないよ。」


「水口さん、すみません…"注意"って」


「まぁ、場を悪くする事もそうだけど…ここ"1ヶ月前から"…アイツ、河口君に何回か当たってるの見たことあるんだよね…」


「…えっ?」


「…いや、そうなるよね。ごめん。初日だし、同級生ってのもあるから、あんまり言いたくなかったけど…知ってるのは私だけじゃなくて、周りも知ってる…。」


「皆さん…知ってらっしゃるんですね。」


「だって…あからさまに陰湿だから目についちゃって…"社長も"知ってるはずなの。」


("社長"も…)


不意にあの時の田中さんの言葉が頭をよぎる。


ー『…すみません、心配で来たけど、河口に顔向け出来なくて』


『…取引先で重大なミスをしてしまってクビに…』


『実は、その1ヶ月前から周囲から陰湿な嫌がらせが…』


(…え、でも、田中さんは…巽とあんなに仲良さそうだったし…あの時の言葉はウソには……)


俯いてしまった私の肩を水口さんはひとすらさすって「ごめんね。」と気遣ってくれた。




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