第9話 教育係の彼氏


「…ねぇ、どういう事?」


ザッとした業務内容を聞いた後のお昼休憩に屋上のテラスの隅に直行させられた現在。


ガン詰めされるような形で、珍しく眉毛をつり上げ怒りをあらわにする巽に対して、(二人で屋上でお昼とか付き合いたての時みたいでラッキー⭐)と若干浮かれ気味でいた。


「…だって、たまたま求人みたらココがあって…」


「…え、前の職場は?あんなに楽しいって言ってたじゃん。」


「辞めたの。」


「…はっ?」


一瞬魂が抜けたような顔をした巽だったが、その後自分に言い聞かせるように「…いや、でも仕事はかなちゃんの自由だから…」「…でも、なんでよりによって俺の職場…」と悶え始めた。


(ホントにいい奴だなコイツ。)


「…仕事、辞めたのは言わなくてごめん。でも、心配かけたくなくて…」


「…いや、それは、自由だから…」


さっきの詰める体制から、寄り添う体制に入った巽。(ホントにお前、いい奴だな。)と号泣してしまうのを耐えて、私は女優になる。


「ホントに、知らなかったの。聞いたことなかったじゃん何処で働いてるかなんて…たまたま求人見てて、気になって応募したの…。」


「そうだったんだ…。」


(ーごめん!どちゃくそに調べた!なんなら鞄あさって名刺見た!)


良心と罪悪感がぶつかり、リアルが生まれた私の名演技に心を打たれた巽はまんまと騙された。


「大丈夫!おこってないよ!」


「…ホント?でも、ホントにココで頑張りたいって思ったの。一生懸命、やっていこうって…」


「かなちゃん…!」


(ゆ、ゆるせサスケ…!)


ホントに罪悪感に打ちのめされて、心が限界だった私に巽は励ますようにポンッと肩に手を置いた。


「任せて!君の熱意は受け取った!!!」


「たつみ…!!」


「俺が、君を巨人の星にしてあげる!!!」


「………えっ。」


眉毛と鼻息がえらいことになっている巽に嫌な予感がして背筋に汗がツーっと落ちていった。


「昼休憩終わったら、外回りだから!!ガンガン営業行くよ!!!!!」


「ウ、ウン。ウレシイ。」


「さぁ、夢にきらめけ!明日にときめけ!」


(ROOKIESかい…)


『あしたぁーきょーうよりもぉー』から始まる青春ソングが鳴り響くテラスで、私は弁当をかきこみながら熱血教育係と化した爽やかな恋人の顔と雲1つない青空を交互に見ながら、おそらく味のしないであろうお弁当の具材に箸を伸ばした。

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