第8話 スタートライン


ちょうど欠員が出ていたらしく、面接もスムーズに終わり、1週間程で内定の連絡をもらった。(ラッキー)


「間宮君、河口君と高校の同級生なんだって…?」


「はい!同じクラスで2年間一緒でした!」


さすがに『恋人です。』なんて言えないので、敢えて"同じクラスだった時の友達"という程で周りの質問に答える。


(…この感覚、懐かしいなー。)


こんなに囲まれて質問攻めされるのは、

高校の時に転校してきた初日と巽(当時はホントに可愛かった)の事が好きだった女の子とその取り巻きに「泥棒猫!」と罵られた時以来だ。


ニコニコとした私とは反対に黙りしている巽(そりゃそうだ)は、たまにくる「仲良かったの?」とか「2人は今も仲良いいの?」という変化球でくる質問を「え、まぁ、はい。」「…ま、まぁちょいちょい。」と怪しまれないようにギリギリで打ち返していた。


"「え、まさか付き合ってたとかない?」"


このデッドボール(爆弾発言)には避けきれず、マトモにクリーンヒット。


一瞬ヒヤッとして、2人して固まった。


2球目の「え、まじで?」に「「いや、いやいやいや!」」と全力で否定をする。


「…じゃあ、河口でよくない?」


「えーつまんない」という言葉にほっと胸を撫で下ろしている時、どこかで聞いたことのある声がした。


(…あ、あの時の上司…。)


「…え、僕ですか?」


「いや、同級生だろ。教えてやれよ。」


「…えー。」


若干顔がおぼろ気だったけど、声が低くて特徴的だったので、すぐあの時の上司だったことに気が付いた。


(近くでみると、こんなゴツかったんだ。)


チリチリの髪の毛に眉毛を整えすぎて歌舞伎役者みたいになってる上司(田中さん。)と巽のやり取りを近くで見ながら、本当に仲がいいのが伝わってきた。


(なんで、この1ヶ月後に辞めちゃうんだろう。)


こんな守ってくれそうな上司がいるのに…とあの時の嫌がらせを受けいたという言葉が気になった。


(この時には、もう受けているのに。)


和気あいあいとした空間とリラックスしている巽をみて、余計不安になった。


「…分かりました!"間宮さん"よろしくね。」


「…はい!よろしくお願いします。」


(ともかく、やっとスタート地点に立てたんだ。)


?"さあ間宮、放ってみろ。時を超えたアラサーとしての第一球を。"


昭和の頑固親父の声がこだまする。


(…さぁ、目指せ栄光、巨人の星。)


ーーー絶対に助けてみせる!





「え、なんで急に空を見上げてるの?」

「…なんか、間宮さん眉ゴツくなってない?」

「…目が甲子園行った時の息子にそっくり…。」


「…河口、なんか彼女、巨人の星みたくなってないか…?俺の見間違いか…?」


「あ、大丈夫です。いつもあぁなので。」





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