第4話 誤差程度の巻き戻し
「なんで…いるの?」
「えっ?」
「なんで、ここにいるかって聞いてんだよ!!このくそアバズレ野郎!!!」
「…えぇぇ?」
何の事だか分からないと言わんばかりの困り顔とそれでも離さないゲーム機に更に怒りが沸いた。
「クソッタレのゴミカス高燃費ニートが!!」
(馬鹿にしてるにも程があるでしょ!)
固まって動かない元婚約者は遂にゲーム機から手を離し、放置していたせいかゲームオーバーになり「ビューン!」という効果音が部屋中に響いた。
「それ、」
「えっ?」
(こいつまだ言うのかって顔してる。)
「捨てろって言ったよねぇぇ~?それ、捨ててて言ったよねぇーー??てか、大掃除の時に捨てたよねぇ?その効果音が不快すぎて夜も寝られんかったんだわぁ?」
止められない。もうこの状態になった私は止まらない。D●社長がジョジョのスタンドの様に後ろに現れている私を止めれる人間はもうこの世に1人もいない。
3年前に捨てた筈のゲームのカセットを隠し持ってた事実に殺意を沸かし始めていた。
「大掃除…いつの?俺これ買ったばっかだよね、?」
「はぁ!???"昨日"といいなんなの!?」
「"昨日"?何の事?」
「……は?」
二回目の紐が切れた私はビールの箱ごと投げつけようとゆっくりと箱を頭の上に持ちあげた。
流石に死を感じた彼は全力で抱きついて阻止させる。
「昨日ってなに!?昨日まで俺、"出張"でいなかったじゃん!」
「出張?…え、巽いま無職じゃん。どういう事?」
「…?どういう事?俺働いてるよ?」
今、この瞬間、私は宇宙猫が浮かんだ。
巽も、そんな感じだった。
「…、え、だって3年前に退職して、そっから…」
「3年前?俺そん時20才になってないじゃん。」
「え、いやいや、えっ?」
「いや、待って。流石に20才になって辞めたってなったら、俺社会人になってソッコー辞めてるじゃん!」
「…?????」
「いや、…えぇぇーー???」
やり取りのアンジャッシュ感が否めず、
一旦頭を整理する事にした。
今、コイツは自分の事を23だと思って話してる事になる。
私達は、今26で今年に27になる。コイツが辞めたのは丁度23の…のはず。
(もしかして、昨日の事がショックすぎて自分がバリバリに働いていた時に脳みそが戻ったのでは。)
この、のほほんとした天然記念物がそうなっても可笑しくない。
絶対に嘘を付いたり冗談でいう人間じゃない。
「巽…病院、行こ。」
急に悲しくなって、腕を引っ張ると絶望したように「なんでそうなるんだよーっ」と床へたりこんだ婚約者(元)をとりあえず今は見捨てないでおこう。と誓った。
「今日、何曜日だっけ?」
「今日は、確か金曜だったと思うけど…」
「よし、まだ開いてるはず!」
「どこが!?」
「病院だよ!"いつもの"!」
「いつも!!!?かなちゃん、どっか悪かったの?」
「何でだよ!」
さっきから妙に噛み合わないやり取りに
イライラしながら、カレンダーをみた。
(えーと、今日は23日…)
「…えっ?」
(23日って…一昨日じゃなかったっけ?)
あの悲劇?の夜の1日前が23日のはず…そう思った私はもう一度カレンダーを見た。
「2020年…?」
ガサガサとスマホを探して、ようやく見つけた。
「…なにこれ。」
そこにあったのは、機種変更する前のスマホ。
「花柰ちゃん、大丈夫?」
電源を付けると、2020年の文字と正月に撮ったであろう某ネズミのカチューシャを付けた2人の写真。
(え、若。若干。)
そういえば、巽も髪型がモサモサしてない。
プリンじゃない。
「まじで?」
私、過去に戻ったのでは…?
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