第9話 碧と陽翔




 ある程度、悩み解決に自力で取り組んでだめならば、速やかに他者の力を借りるべし。

 陽翔はテキパキこなすことを信条にしているため、今回もまた母に、そして病院の力を借りることにした。




 心療内科・精神科に行きたいってどうして。


 学校帰り、久々に帰って来た庭付きの平屋の自宅にて。

 陽翔が母親にそう願い出ると、母親からそう尋ねられたので、夢見が悪くて眠れないから原因を取り除くために心療内科・精神科に行きたいのだと答えた。

 夢見が悪いってどんな夢を見るのと、母親からそう尋ねられたので、母親が大好きなモデルに全身を持ち上げられて前後に揺さぶられて空中に投げ出されて落とされて砂山を壊す夢だと答えた。


「はるちゃん。毎日見るの?」

「そう。毎日」

「全然眠れないの?」

「ほとんど眠れない」

「嫌な夢?」

「すっごく」

「アオ様のお顔を見たくない?」

「一秒だって見たくない」

「そう。わかったわ。眠れないのは困るものね。今日一緒に病院に行きましょうか?」

「ありがとう」

「ううん。いいの。言ってくれてありがとう。じゃあ、ちょっとお庭で待っていてね。すぐに支度をするから」

「うん」


 陽翔が出て行ってから、隣室で控えていた友人であり現同居人の陽葵と共に正座の碧に相対した。

 息抜きをお願いしたのだ。

 体調を悪くさせてくれだなんて、これっぽっちもお願いしてないのだ。


「あおちゃん」

「碧」

「姉ちゃん。結菜ゆいなちゃん」

「なにその顔?」


 嫌な予感がする。すっごく。とてつもなく。

 陽葵は弟のいつもの無気力な表情なのに、いつもと違う無気力な表情を前にして、咄嗟に親友であり陽翔の母親である、松江結菜まつえゆいなの両耳を塞いで聞こえないようにしたかったのだが。


「僕、陽翔ちゃんに恋しちゃったみたい」

「え?」

「げ」











(2023.10.27)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る