第2話 男性と少年




 何某県何某市の撮影所にて。


「ヒャッハー!!!」


 山鹿碧やまがあお

 二十七歳男性。

 職業。


「オラオラオラ!ブッコワレロヤア!」

「いいわ。いいわよ。碧ちゃん」


 職業、オラオラ系破壊モデル。

 時に家電製品(不用品として廃棄された物)。

 時に大木。

 時に瓶。

 時にブロック塀。

 などなど。

 拳や足、木刀、石、ツルハシを使い、ハチャメチャに破壊しまくるモデル。

 スカッとする、カッコいい、シビレル、子分にしてくれ、自分も殴られたり蹴られたりしたい、など人気が上昇中。


「今日もサイッコーのイカレっぷりだったわよ!」

「………うっす」


 碧の専属カメラマン、年齢性別不詳のココロアは身体をくねらせた。


「ああん。撮影中はイカレっぷりキレッぷりが最骨頂なオトコなのに、撮影の時以外は口数が少ないミステリアスなオトコになるなんて、もう!長年付き合っても飽きさせないし。どれだけアタイを夢中にさせるのよ~」

「オツカレサマっした」

「ええ。また明日ね~」

「ハイ」

「ああもう。速攻で帰宅するツレナイところも素敵」


 うっとりと見つめたココロアは、毎日撮影があればいいのにと呟いたのであった。




「ね~ちゃ~ん~。た~だ~い~ま~」

「お帰りなさい」


 姉が住んでいる2LDKのマンションに帰って来た碧が、もらった合鍵で玄関を開けて、夕食の支度をしているだろう姉に挨拶をしようと台所を覗いた時だった。

 そこにいたのは、姉ではなく。


「誰?」


 黒短髪と黒眼鏡が真っ先に目に飛び込んで来た見知らぬ少年が、木べらを使って、フライパンの中の食材を、シャカシャカシャカシャカ、かき回していたのであった。












(2023.10.25)


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